――――吐息が触れる瞬間、瞼を閉じるのをためらった。
綺麗なその瞳に映る自分の姿がひどく。ひどく、空っぽに思えた。このひとによって初めて全てが満たされる私は、きっと。きっと貴方がいなければ空っぽな入れ物なのだろう。今こんな風に瞳に映る姿のように。
「…ゼルギウス…私だけを見ていなさい…ずっと」
囁かれる愛の言葉はまるで呪縛のような甘い毒を含む。それでも拒みがたい衝動に駆られ、そのまま。そのまま全てを浸してゆく。じわりと、甘い疼きの中に。
ずっと見つめていれば、ずっと貴方だけを願っていれば。私は深い孤独から逃れられるのだろうか?闇しかないこの場所から…逃げられるのか?
「――――はい…セフェラン様…私はずっと…ずっと貴方だけを……」
吐息が、重なる。睫毛が、重なる。それでも瞼を閉じなかった。閉じる事が出来なかった。貴方の瞳に映る自分から逃れられず、貴方の言葉の呪縛から逃れられず、その瞳を見つめる事しか出来なかった。
樹鷹さんのサイト さよなら。