ーーーーむせかえるほどの紅い匂いの中で、漆黒の瞳がそっと微笑った。
その笑みがひどく無邪気でそして透明で、何よりもこの『今』に似つかわしくなく、けれども何よりも相応しいように思えた。そんな不思議な色彩を見せる双眸を見返せば、映っているのは自分だけだった。鮮やかな紅い色でもなく、全てを吸い込むような漆黒でもなく、ただ。ただ自分だけの色が映っていた。
「…ホリン……」
その声に導かれるように近づいて、掴んでいた剣を奪った。まるで陶器のように白く、ふくよかな胸に挟まっているその剣の柄を。その瞬間ふわりと、柔らかい髪の匂いが鼻孔をすり抜けてゆく。それが許せなかったから、そっとひとつ髪に唇を落とした。
ーーーー髪すらも、お前は俺のもの、だ。
絡まってくる細い腕も、重みを預けてくるしなやかな身体も。髪の匂いも、肌の感触も。その何もかもが。
お前は戦場に咲く、何よりも綺麗で何よりも鋭い華。触れるもの全てを傷つけ、そして魅了する残酷で優しい華。けれどもお前は言う。−−−−この背中を預けられる相手は俺だけだと。この場所は俺だけのものだと。
…お前は俺だけが触れた華。俺だけが掴み取った華。俺だけが、手に入れた華………
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