――――凍える手を暖めるただひとつのぬくもりが。たったひとつのぬくもりだけが…
どんなに寒くても、どんなに空気がこの指先を冷たく貫こうとも、私の剣を握る手が立ち止まる事はない。どんなになろうとも、剣を握る手だけは。なのに。
「…指が冷たい…無理はするな…」
なのに、止まる。その指先に絡め取られた瞬間に。その手に包み込まれた瞬間に。どんなに前を進もうとも、どんなに剣を振るおうとも。その手がそっと、包み込んだ瞬間に。
「――――大丈夫だこんなの私は慣れている」
けれどもその言葉に答えることなく貴方の手は私のそれに触れ、そっと。そっと息を吹きかけ指を暖めてくれる。そっと、静かに。
「こんな事には慣れなくていい――――俺がいるのだから……」
見かけよりもずっと長い睫毛が静かに閉じられてゆく。それは綺麗で、苦しいくらいに綺麗で。私は今この顔を貴方に見られない事に心の奥でほっとした。
――――剣士ではなく、ただの貴方に恋をしている女の顔を……
長崎さんのサイト 忘却の翼