――――碧色の瞳がまるで獲物を捕えた獣のように、自分を見下ろした。それだけで、睫毛が…震えた。
ぽたり、ぽたり、と、雫が冷たい床に滴る。その水滴が足許に広がり、じわりと自分を絡め取ってゆく。ゆっくりと這い上がり浸透し、自分の全身を浸してゆく。忍び寄る冷たい熱から逃れられず、ただ。ただその瞳を見つめる事しか出来ない。冷たく深いその碧を。
口許がひとつ、笑みの形を作る。そこにある小さな傷が、完璧な存在の唯一の綻びのような気がして、そっと。そっと手を伸ばした。
「―――欲しいのか?私が……」
夜に濡れた声が、耳の奥を犯した。じわりとした熱が忍び込んでくる。そのまま身体中を駆け巡り、こめかみを痺れさせ、唇を震えさせる。伸ばした筈の手は宙に止まり、そのまま。そのまま強引に絡め取られた。何処へも、逃げられないように。何処にも、逃れられないように。
「…ならばお前から…来い……」
逃げたくなんて、なかった。逃れたくなんて、ない。このまま全てを絡め取られ、このまま全てをがんじがらめに縛り付けられて、そして。そして溺れたい。何もかもが見えなくなるまで、何もかもが溶けてなくなるまで。その碧に溺れたい。浸されて、沈みたい。
――――何よりも綺麗で残酷な、その碧色の中へ……
長崎さんのサイト 忘却の翼