For away

――――触れ合って、そして感じる事。

指先を絡め合って、そして。
そして身体を寄せ合って眠る事。
ただ何をする訳でもなく、一緒に。一緒に眠る事。
睫毛が触れ合う距離で、囁きが分かる距離で。
ただ、ふたりで、ずっと。ずっと、一緒に。


淡い月の光だけがふたりをずっと、見ていた。

目を開けた瞬間に、そこには小さな寝息と綺麗な寝顔が飛び込んできた。二、三回目を擦ると速水はもう一度その隣にある寝顔を見つめた。
見掛けよりもずっと長い睫毛。整った顔。自称『愛の伝道師』だけど、自称でなくても充分にカッコイイからOKだろうなと速水は思った。多少惚れたヒイキ目も入っているかもしれないけれども。
「くす、猫っ毛だ」
手を伸ばして髪に触れる。少しウエーブの掛かった柔らかい髪。この感触が何よりも好きだった。ふわふわと指に掛かるこの感触が。日に当たると金色にも見える明るい茶色の髪が、速水は何よりも大好きだったから。
「…瀬戸口……」
さっと名前を呼んでも聴こえてくるのは寝息ばかり。でもたまにはこんなにもいいかな、と思った。何時も何時も自分の方が先に意識を失って眠ってしまい、目を開ければその腕の中に包まれて。そして優しい瞳で『おはよう』と言われるのが日常となってしまっているから。
――――全てを包み込まれるような、優しい笑顔。
光の加減でその瞳は蒼にも紅にも見える。本当は紫色をしているのだけども。けれどもそのきらきらとした瞳を見ているのは、好きだった。そしてその瞳に見つめられているのは、もっと好きだった。我が侭かもしれないけど、ずっと。ずっとずっとその瞳に自分だけを映していて欲しいと思う。ずっと、ずっと。
「好きだよ」
悪戯っぽく速水はひとつ微笑う、ぎゅっと軽く鼻をつねってみた。その途端大きな腕が、そっと。そっと速水の身体を包み込んだ。


その腕の中にいれば、しあわせ。
その腕の中にいれば、せつない。
どっちも本当で。どっちも真実で。
どちらも僕にとっては同じで違う。
しあわせで暖かくなれる。せつなくて苦しくなる。
こんな気持ち、どう説明したらいいんだろう?


「ばっちり聴いたよ」
「わっ、瀬戸口…お、起きてたの?」
「鼻摘んだろう?それで目が醒めた」
「…あ、だって凄く気持ち良く眠ってたから…目醒まさないかなぁと思って…つい…」
「馬鹿だな」

「お前が隣にいるのに、熟睡出来る訳ないだろう?」


大きな手が頬に重なると、そのまま。そのままそっと口付けられた。柔らかくて、暖かい唇に塞がれて。微かに速水の睫毛が揺れた。
「…でも…僕は……」
唇が離れても、睫毛が触れ合う距離を離さなかった。こうしてまじかで見る紫の瞳が、速水の一番好きなものだから。一番、好き。
「僕は君の隣だとぐっすり眠れる」
「それはいい事だ」
睫毛に唇が触れた。甘い、キス。蕩けるような、キス。唇に触れてなくても、どんな場所でもこころはゆっくり溶かされてゆく。
「安心して、眠れる。きっとそれは君が僕を護ってくれるからだよね」
「だから俺はお蔭でぐっすり眠れない」
「…瀬戸口……」
「お前が安心して眠れないと、眠れない」
もう一度そっと抱きしめられて、キスをされた。馬鹿みたいだけど、ずっと一日中キスしていても。キスしていても、いいなって思った。



護りたいものは、ただひとつ。
ただひとつ、お前が安心出来る場所。
『HERO』として宿命付けられて。
何時も緊張と張り詰めた中で生きているお前に。
そんなお前に、俺は。
俺はただ一つ安らげる場所を。ただひとつ安心出来る場所を。
世界を護らなければいけないお前を。
そんなお前を護れるただ独りの男になりたいから。

―――お前が無防備に眠れる場所を、俺は与えたいから……



「…ごめんね、瀬戸口…」
「なんで謝る?」
「だってそれじゃあ君ばっか負担になっている」
「負担なんて、ならないよ。俺は」
「…瀬戸口……」
「俺は自分のためにやっているんだから」

「お前が安心して眠れる場所を作りたいって云う俺の自己満足の為に…な」


大好き。君が、大好き。
こんなにも大好きで。こんなにも大事で。
こんなにも切なくて。こんなにも幸せ。
君と一緒にいなければ分からなかった。
君と一緒にいて初めて分かった。
だからこれからも、ずっと。ずっとずっと。
―――君の隣で僕は眠りたい。

この腕の中でずっと、眠れますように。



「それに、速水」
「うん?」
「あながち俺ばかりとは言えないよ」
「―――?」
「だって、さ」

「その分この身体に負担かけているんだからな」


君の言葉の意味に気が付いて僕は耳まで真っ赤になって。
手元にあった枕を思いっきり君の顔にぶつけて。
―――そして。そして君に一言。


「瀬戸口のえっち!」



そんな僕に君は微笑う。楽しそうに、何よりも優しく。
そんな君の顔を見ていたら僕は。
僕はやっぱり自分の負けだなって思った。

―――いっぱい好きだから、負けてもいいやって…思った……。


END

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