月の灯が染める GRADATION しなやかな秘密
息を殺したまま BE SILENT 化石の都会
錆びついた魂を 解き放てよ シナリオに無い罪
滅びゆく様な ECSTASY
都会のネオンを見下ろしたホテルの窓は、ひどく幾何学模様のようだった。
「―――何故、着いて来たのですか?」
ベッドの上に腰掛けるすんなりとした肢体を眺めながら、遠坂はそれだけを言った。
「ならば何故、俺を誘ったの?」
そんな遠坂に彼はひどく夜の匂いのする微笑を浮かべて。
「お前ぐらいイイ男なら、こっちから誘わなくても引く手あまただろう?」
彼の吸い込まれそうな紫色の瞳が、ゆっくりと遠坂を映し出す。そして彼はベッドから立ち上がると、細い腕をその首筋に絡めた。
「お前ならどんな女だって、男だって、身体を開くさ」
「僕はそう言う輩には、興味が無いのです」
「じゃあ、俺は?」
何処か謎めいた表情で尋ねる彼に。遠坂は苦しい程綺麗な顔で笑って。
「―――僕は貴方を『欲しい』と、思っいました」
拒まない唇に、遠坂は口付けた。
昔から、捨て猫や子犬を放ってはおけない性分だった。
淋しそうな瞳で、縋るように自分を見つめてくると。
どうしても、自分は放っておけなくなって。
「…名前は…何て言うのですか?………」
何度も何度も口づけを交わしながら、二人はシーツの海へと身を投げた。
「…何で、聞くの?……」
「分からないと、呼べません」
彼の茶色い髪をそっと撫でながら、遠坂は耳元で囁いた。その低く少し掠れた声で。
「瀬戸口 隆之」
「瀬戸口ですか。いい名前ですね」
くすっと柔らかく遠坂は、笑う。その笑みを向けられると、何故か全てが溶かされてゆく気がして。ひどく柔らかいものが包み込むような気がして。
「…瀬戸口……」
遠坂の声が瀬戸口の身体を包み込む。その声を聞きながらふと、思う。このまま彼の中に包み込まれて溶けてしまえたら、と。
「…もう一度聴きます…何故、僕の誘いに乗ったですか?……」
最後の警告とでも言うように、遠坂は尋ねた。その長い指先を瀬戸口のワイシャツに掛けながら。
「―――分からない…でもお前となら、寝てもいいと思ったんだ………」
そう言って瀬戸口は。自ら遠坂に口付けた。
CRIME OF LOVE ルージュの香り 記憶に灼きつけ
CRIME OF LOVE シュールな恋に 堕ちてゆく LOVE STREAM
「…あっ……」
ワイシャツの間から手を忍び込ませ、遠坂は小さな胸の突起を撫で上げた。その瞬間、瀬戸口の口からは堪えきれないような甘い吐息が零れる。
「…はぁ…んっ…」
人指し指と中指でそれを摘み、指の腹で撫でる。軽く爪を立てると瀬戸口の身体が鮮魚のようにぴくりと、跳ねた。
「…瀬戸口……」
「…あぁ…あっ…」
器用に瀬戸口のワイシャツを脱がすと、淡い桜色の突起に口付けた。柔らかく歯で噛んでやりながら、舌先でつつく。その愛撫は焦れったい程に優しく、それが逆に瀬戸口のエクスタシーを盛り上がらせた。
「…はんっ…はぁっ…」
唇を胸に当てたまま、遠坂の指がその脇腹のラインを滑る。滑らかできめ細かい肌は、ひどくその手に馴染んだ。
「―――敏感ですね」
くすりと一つ笑って、瀬戸口の耳元に囁き掛ける。その声にすら瀬戸口の綺麗な睫毛は震えた。
「…お前が…上手いんだよ……」
「憎い、口ですね」
しかし遠坂はそんな瀬戸口にひどく優しく笑って、長い指先でその唇のラインを辿る。
「…お前も、脱げよ……」
唇が降ってくる。瀬戸口は柔らかいそれを受け止めながら、ゆっくりと瞼を閉じる。そうしながら瀬戸口は指先をそのワイシャツへと延ばした。
器用な動作で、遠坂のネクタイを外す。なれた仕草、だった。そして乱暴にそれを投げて。
「―――お前の体温…知りたい……」
そう言った瀬戸口の瞳が、何故か淋しげに見えた、から。
―――遠坂は何も言わずに彼をきつく、抱きしめた。
「…ああっ……」
瀬戸口自身が遠坂の生暖かい口内に含まれる。その思いもしない刺激に、意識が一瞬真っ白になった。
「…あぁ…あ……」
舌で先端をつついたり、側面を舐め上げたりして、遠坂は性急に瀬戸口の意識を溶かしてゆく。その巧みな愛撫に、乱され溺れてゆく。
「…あっ…あぁ…もぉ……」
くしゃくしゃになる程、瀬戸口の指はその長いの髪を乱す。それでも遠坂の愛撫は止まる事が無かったけれど。
「…もう…だめ…だ……」
遠坂の口内で瀬戸口の先端から、先走りの雫が零れ始める。そんな彼に遠坂はうっすらと微笑って、促すように強く扱いてやる。
「―――ああっ!」
堪えきれずに瀬戸口は、細い悲鳴染みた声を上げる。それと同時に遠坂の口内には、その欲望の証が注ぎ込まれていた。
「…飲んだ、のか?……」
遠坂の口の端に伝う液体を指で拭いながら、瀬戸口は言った。その紫色の瞳は快楽によって、濡れていて。それがひどく、綺麗に見えた。
「―――いけなかったですか?」
「…汚く…無いか?…」
その時の瀬戸口の瞳が何故かとても、哀しそうに見えた。そうその瞳を自分は、知っている。
「いいえ、貴方のならば構いませんよ」
縋るように哀しそうな瞳。それは捨て猫の瞳だ。自分を見つめて鳴き続ける子猫の瞳。救いと助けを求めて泣き続ける捨て猫の瞳。
「それに、瀬戸口」
遠坂の腕が延びてきて、華奢な瀬戸口の身体を抱きしめる。細い身体は逞しい遠坂の腕の中にすっぽりと、収まってしまった。
「―――誘ったのは、僕です。だからこれは僕の意思です」
素肌が触れ合う事は、とても優しくて。とても暖かくて。それは今まで自分が知らないもの、だった。そう、自分が知らない他人の暖かい腕。今までこの身体を通り過ぎていった男たちはただ。ただ欲望を満たすためだけに。自分の欲望を満たすため、だけに。
「こうやって、貴方を抱きたいと思ったのも、口づけたいと思ったのも、全部僕が決めた事です。誰の為でもなく」
「どうして?」
瀬戸口の問いに遠坂は答えなかった。答える代わりに口付けた。
「―――痛っ……」
双丘の狭間に忍び込んだ遠坂の指に、瀬戸口は形の良い眉を歪める。遠坂はそんな彼をあやすように髪を撫でながら、ゆっくりと体内に指を埋めて行った。
「…痛い…あっ……」
狭すぎる瀬戸口のその器官は異物を追い出そうとするが、逆にその指を締めつける結果になってしまう。
「…あぁ……」
これでは埒が空かないと思った遠坂が、先程果てた彼自身へと指を絡める。その刺激に緩んだ隙を縫って、最奥まで指を貫いた。
「…ああっ…あ……」
痛みと快楽が同時に瀬戸口を襲い、彼を悩ませる。どうしていいのか分からない肢体は、悶えるように、揺れた。
「…あぁ…ん…っ…」
遠坂は焦る事無く瀬戸口が馴染むまで、丁寧に指の挿入を繰り返す。そして馴染んだ頃を見計らって、指の本数を増やしていった。
「…あぁ…あ……」
瀬戸口の中で二本の指は勝手な動きを始める。それぞれが思い思い動き廻る指に、意識は次第に薄れてゆく。もう何も、考えられない。
「…あっ……」
不意に中の指が抜かれ、喪失感が瀬戸口に押し寄せる。それはひどく中途半端で、焦れったかった。そのによって開き始めた蕾は、確かに熱を求めていた。そう熱さが、欲しかった。
「―――いいですか?」
その声。その指。その腕。その髪。そしてお前自身。その全てが、欲しい。何故だか分からない。分からない。けれども欲しい。欲しくて欲しくて堪らない。
「…来い…よ…遠坂…来て……」
自分でも分からない。何故この男の誘いに乗ったのか。何故抱かれてもいいと思ったのか。分からない。けれども。でも。
「…俺に……」
――――初めて見た瞬間から、お前が欲しかった。
どうしても子猫や犬を見捨てる事が出来ない性格だった。
例えどんなに小さな命でも、放っておく事など自分には出来なかった。
だから、放っておけなかった。
縋るような瞳で。捨てられた猫のような瞳で。自分を見つめた紫色の瞳を。
―――でも、それだけじゃなかった。
決してそれだけでは、無かった。それだけならばこんな事などしない。
それだけならば、抱きたいなどとは思わない。
自分のものにしたいなどとは、思わない。それならば。
―――この想いは、一体何なのだろう?
「―――ああっ!!」
指とは比べ物にならない異物が、瀬戸口の最奥を貫く。しかしそれは確かに自分が望んだものなのだ。望んだ、熱。
「…あっ…あぁ……」
遠坂はゆっくりと瀬戸口を手に入れる。彼を傷つけないように、そっと。
「…はあ…あ…」
全てを含ませると、一旦遠坂は動きを止める。そうしておいて自分の、腕の中の彼を、見つめる。
「…瀬戸口……」
名前を呼んでみる。するとゆっくりと彼の瞼は開かれた。微かに潤んだ瞳が遠坂の顔を映し出す。
「―――僕はこのゲームのシナリオを、破りそうです」
「…とお…さか?……」
「いや、もう初めから無理でした」
「…ああっ!…あああっ……」
不意に瀬戸口の中の遠坂が動き始める。その刺激のせいで、瀬戸口はその言葉の意味を考える事すら出来ない。この焼ける程の熱さに身を焦がされて。
「…あぁ…ああ…あああ……」
そして瀬戸口の背中が限界まで撓う。それが合図で。
「ああっ――――!」
二人は同時に欲望を吐き出した。
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どこからか鳥の囀り声が聞こえてきて、夜の終わりを告げる。この一夜のゲームの終わりを知らせる、合図が。
「―――瀬戸口……」
もうどのくらいこうして遠坂は、自分の髪を撫でていたのだろうか?ただ気付いた時からずっと、髪を撫でていてくれた。
「…何?遠坂……」
くすっと、瀬戸口は笑った。でもその瞳からはどうしても淋しさを拭えない。どんなに彼が笑顔を作っても。遠坂の瞳には哀しく映る。
「…瀬戸口……」
遠坂の手が瀬戸口の髪から背中へと移り、そのまま自らへと引き寄せて抱きしめた。
「僕はこのゲームから降りたいと思います」
「…遠坂?……」
「いや、初めから僕はルールを破っていました」
そう初めから。一夜のゲームのシナリオを、自分から破り捨てていた。初めから、自分はフェアでは無かった。何故ならば。
「―――貴方に本気になりました」
そう初めから。初めからその瞳に魅かれていた。哀れだから拾ったんじゃない。縋ったから救ったんじゃない。魅かれてそして、欲しかったから。抱きたいと、思ったから。
「…冗談よせよ」
「信じたくなければそれでいいです。貴方はこれを一夜のゲームだと思ってください。でも僕は」
遠坂は笑った。それは綺麗で優しくてそして、鋭い刃物のようだった。
「―――必ず貴方を、捕まえます」
「捕まえられるなら、捕まえてみろよ」
ゆっくりと、瀬戸口の顔が上げられる。紫色の瞳が遠坂を映し出して。そしてそのラベンダーの瞳は。
「俺は逃げるのは得意だからな」
そう言った、彼の瞳は。もう、捨て猫の瞳ではなかった。
CRIME OF LOVE 光と影が ケーブを彩り
CRIME OF LOVE 夢の隙間で
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「――本気なら俺を、どこまでも追いかけて…追いつめてみろよ……」
END