―――必要なものは、言葉じゃなかった。
身体を重ねることで、全てが分かり合えるわけじゃないけれど。
それでも他に手段が思いつかなかったから、こうして身体を重ねた。
他に違う方法が私達にはあったのかもしれないけれど。けれども。
それ以外に見つからなかったから、こうして。
…こうして互いの体温を、確かめ合うしか…なかった……。
約束が欲しかった訳じゃない。言葉が欲しかった、訳じゃない。
「…あぁっ…はっ……」
薄い胸に唇を落とせば、善行の口から甘い吐息が零れる。それをもっと聴きたくて、瀬戸口はその身体を性急に求めた。
「…あぁっ…瀬戸口…く…はっ……」
ぷくりと立ちあがった胸の突起を口に含み、舌先で転がした。そうしてやれば白い肌がさあっと朱に染まる。それがひどく瀬戸口の瞳には綺麗に映った。
戦う事のない、指令。頭で戦う彼の身体は、細く。こうして自分が抱きしめれば壊れてしまうのではないかと思う程に…細かった。
「…はぁっ…あぁ……」
その細さがひどく儚くて、そして切なかったから。瀬戸口は彼の『生』を確かめるために、その肌に指を舌を滑らせて熱を灯させる。その、身体に。
―――今ここにいて、生きているんだと…確かめるために……
言葉なんてきっと、無意味だ。
この想いを言葉にしても、きっと。
きっとそれはただの『言葉』でしかない。
だからこうして。こうして肌を重ねて。
熱を重ねて、伝える。想いを、伝える。
『貴方を愛していますよ』と。
貴方達を捨て、指令である立場を捨てて、去ってゆく私に。
そんな私が幾ら言葉を告げても貴方には伝わらないでしょう。
貴方には、伝わらないでしょう。だから、こうして。
こうして粘膜を通して貴方に気持ちを伝えることしか。
こうやって身体を重ねて思いを伝えることしか。
…それしか今の私には思いつかないのです…瀬戸口くん……
「…あぁっ!」
脚を開かされて、中心部分に指を這わされる。大きな瀬戸口の手が、善行のソレを包み込むと、乱暴に扱き上げた。その刺激に組み敷かれた身体がぴくんっと跳ねる。それが何よりも。何より、も。
「―――善行…お前と……」
空いた方の手を伸ばし、そのまま顎を掴んで噛みつくように口付けた。その瞬間に当たるヒゲの感触が。そのざらざらとした感触が。
…目を瞑っていてもお前とキスしていると分かるから…好きだった……
唇を重ね、舌を吸い上げながら。瀬戸口は善行のソレを指で弄ぶ。どくどくと脈打つソレを。
「…んんんっ…んんんっ!」
その度に腕の中の身体が小刻みに震え、そして。そして口許からは飲みきれない唾液が伝う。キスに夢中になろうとしても下から与えられる刺激が、それを善行に許さなかった。
「…ふぅんっ…はふっ…んん……あっ…」
唇が開放されて、善行の口から甘い吐息が零れる。それを確認して瀬戸口は舌で零れ落ちる唾液を舐め取った。そのたびに震える睫毛が、瀬戸口には切なかった。
「…お前とずっといられると…思っていた……」
「…瀬戸口…くん……」
「…ずっと、俺はお前の元で…戦えると思っていた……」
手が、伸びて。細い手が、伸びて。瀬戸口の髪に触れた。柔らかいその髪に。昼とも夜ともつかないどちらでもないただひとつしかない、その匂いのする髪に。
「…裏切られたと思った…お前も俺から去ってゆくのだと…でも……」
触れる、指先。重なる、吐息。粘膜を通して伝わるもの。言葉ではないもので、伝わるもの。こうして、伝わる、もの。
「…でも…違うって分かった…だからもう…何も言わない…だから」
「…抱かせて…くれ……」
背中に手が、廻される。きつく抱き寄せられる。その強さを感じながら瀬戸口は、自らの指先を善行の最奥へと埋めた。くちゅりと濡れた音が室内を埋める。それが。それが善行の吐息を益々甘いものへと変化させて。
「…くぅんっ…はぁっ…あっ……」
中を掻き乱す指。媚肉を掻き分け、中を征服してゆく指。でも今は。今はそれが何よりも。その激しさが何よりも。
―――何よりも、気持ちが伝わるもの…だから……
「…あっ……」
指が引き抜かれて、その代わりに指とは比べものにならない巨きいモノが入り口に当てられる。その熱さに、その堅さに善行は一瞬息を詰めた。けれども。
「ああああっ!!」
けれども次の瞬間、その口から零れたのは甘い悲鳴。深く貫かれ、身体を引き裂かれ、そして。そして中で激しく主張するモノが。それが。それが何よりも。
「…あああっ…ああ…瀬戸口…くん…瀬戸口…く……」
何よりも今は。今は一番ほしかったものだから。言葉よりも、何よりも伝わる想いが。その想いが…欲しかったものだから……。
「…善行…俺はお前を…ずっと……」
「…あぁぁっ…瀬戸口くん…私も…ずっと……」
ずっと…その先は言葉にはしない。言葉にはならない。吐息が全てを奪い、快楽が意識を奪い。それでも。それでも、こうして。
「あああああっ!!!」
こうして伝わる。粘膜から、伝わる。吐き出された熱い欲望が、その言葉の答えならば。
離れても、ずっと。
ずっと、繋がっていると。
また出逢えると。
また巡り合えると。
だから、これは。
―――これは、さよならじゃないと……
必要なのは言葉じゃなかった…必要なのは…想い…それだけだから……
END