たくさんの、キスと。たくさんの、嘘。
嘘はずっと付き続ければ。一生付き続ければ。
それはそのひとにとって、本当のことになるから。
それがどんな嘘だとしても、そのひとにとって。
そのひとにとって本当の事だったならば。
―――それはやっぱり、真実になる……
髪に、指を絡めて。そっと指を絡めて。
そこから伝わるものが。そこから溢れてくるものが。
哀しいほどの、切なさでしかなくても。
『君だけを、愛しているよ』
多分その一言は、嘘なんだろう。君が見ているのは別の人。
君が追い続けているのは別の人の面影。
それでも。それでもそれを君が僕に言い続けたならば。
やっぱりそれは僕にとっての真実になるのかもしれない。
君が見ていた人は、君が思っていた人は、もう何処にもいない。
君が殺した。君がその手で殺した。それが君の彼への想い。
他の誰にも殺させはしなかった、ただひとつの君の想い。
「…好きだよ…だから、そばにいて…」
抱きしめて、あげた。髪を絡めながら抱きしめてあげた。そのまま塞いでくる唇に僕は全てを答えた。君から零れる淋しさを、拾ってあげた。掬ってあげた。
「…ね、茜…そばにいてくれ……」
いいよ、抱いても。それで君が救われるなら。堕ちてゆくこころを引き止められるなら。いいよ、抱いても。この身体を、貫いても。
「…ずっと僕の傍に……」
だからね、何時か。何時か僕だけを見て。僕だけを、見つめて。
ねえ、速水。そんなにも。
そんなにも彼が好きだった?
そんなにも彼の事が好き?
僕はその中に入ってゆく事は出来ないの?
「…いいよ…速水…ずっと僕が君のそばにいる……」
零れ落ちる涙を指で拭いながら。そっと君の頬を撫でながら。『彼』の変わりに僕は抱かれる。その腕に抱かれる。永遠に面影だけを追い続けるというのならば、その面影に摩り替わろうと思った。永遠に追い続けるのならば。
「…いいよ…ずっと僕がそばに……」
だからもう。もう、何も考えないで。彼の事も、何もかも考えないで。今ここに目の前にある僕だけを、見ていて。
死に勝てるものなんて、何もないと分かってはいるのだけども。
永遠に勝てない相手。彼が望み、君が実行した。
愛する者をこの手で殺すという行為。
二人が望んだ結果が、こうして。こうして君を壊したならば。
――――ふたりの選択は…間違っていたと言えるだろう?……
「…茜…好きだよ…君だけが…」
「うん、速水。ずっと好きだよ。ずっと君だけが」
「…君は僕の傍にいてくれるよね…ずっと…永遠に…」
「…永遠にいてあげるだから君も……」
永遠に僕に嘘を付き続けて。真実に変わるまで、永遠に。
血塗れの海と、あしき夢に捕らわれた竜と。
そしてHEROである君。
互いに殺し続ける運命を決められた二人。
それを決めたのは、ふたり。
誰かに殺されるくらいならば、自分で殺そうと決めたのは。
―――君自身だった、から……
それでも僕は。僕は君が。君が欲しいんだ。
それでも望むものはやっぱり、ただひとつ。
嘘を真実だと想い込む事で僕は自分を護っている。
憐れになるのも、苦しい想いも、イヤだから。
―――永遠に君が嘘を付き続ける事を…僕は望む以外にはない……
「…愛しているよ…速水……」
望むのはただひとつ。
ただひとつ、君の。
――――君の永遠の、嘘。
END