sing it to me

―――何処を探せば、見つかるのだろうか?

真実は何処にあるのだろうか?
本当の事は、何処へ行けば見つかるのだろうか?
何処を探せば、僕等は。
僕等は本当の場所へと辿り着けるだろうか?


突き刺さる言葉は、自分自身へと向けたもの。そして、君自身へと向けられたもの。
「嘘で固めた真実なんかで…本当は誰もしあわせになれなんてしないんだよ」
分かっている、僕はしあわせになんてなれない。本当の事など何処にもないんだ。本当のモノなど何処にももうないんだ。
「それでも君は嘘を付き続けるのかい?」
その言葉に僕はただ笑った。それは自分にでも嫌になるくらいな曖昧な笑み。何時も僕がしている…優柔不断な笑み。
――――そうする事で僕は、自らの本音を誤魔化している……
「そうやって君は、何を護るの?」
見つめ返した瞳には軽蔑でも蔑みでもない。ただ無気力な、ただ乾燥的な瞳をするだけ。それはまるで僕自身を見ているようだった。
「―――茜、君は僕と同じ目をしている」
君の瞳は僕と同じ。嘘に嘘を重ねて、そしてどうにもならなくなった瞳。何処にもいけなくなった瞳。ただ立ち止まって鎖に繋がれているだけ。自ら望んでその場にがんじがらめに縛られているだけ。
「そうだよ、速水…僕も嘘で全てを固めているんだ」
足許から、指先から。自分自身で逃れられない鎖に。鎖に繋がれている。何処にも行くことが出来なければ、何処にも辿り着けなければ。僕は自らの胸を痛めるだけでいいのだから。
「真実は…もっと違う場所にあると分かっていても……」
君の言葉に素直に頷ける僕とそうではない僕がいる。僕の真実は僕の中に在る。僕の中だけに在る。けれども君の真実は、君の中にだけはない。君の真実は違う場所に在る。
「僕の真実は僕の中だけにある。そして僕はそれを隠し続けて生きてゆく」
そうする事が僕の存在意義。僕が生きている意味。それが『HERO』である僕の生きるべき道しるべ。例え僕自身がそれを望みはしなくても、レールに引かれた運命の道からそれる事は許されない。
―――誰もそれを許しはしないのだから……
「君とは違うよ、茜。君の真実は別の場所に行けば手に入れられる…でも僕は僕の中にしかない…どんな事をしても手に入れる事は出来ない」
「手に入れられるのかい?この僕は手に入れられるとでも思っているの?」
「ああだって君達は」

「…殺し合う事は…ないだろう……」


どちらかが滅びなければ。どちらかが死ななければ。
僕らの運命は終わらない、終われない。
決められた運命、課せられた運命。
どちらからも逃れられない。逃れられない。

全てを捨てて、手を取り合って逃げられたならよかったね。
世界すらも見捨ててふたりで逃げられたら良かったね。
誰に知らない場所へ、誰にも手の届かない場所へ。
ふたりきりで、逃げられたならば。


「愛する者をこの手に掛ける苦しみを、君には分からないだろう?」


―――僕は逃れられないんだ…速水…あしきゆめに何時しか食われる…その時は…その時は君が僕を殺してね…
…他でもない君が殺してね…他の人間じゃいやなんだ…君がいいんだ……

…君以外は、いやだよ……


「世界と引き換えに、全てを護る引き換えに、僕は個人的な想いを閉じ込めなければならない。僕自身の感情など世界に比べればちっぽけなモノだから」


名誉なんていらない。名声なんていらない。
約束された未来なんていらない。
本当は。本当は君が。君がいてくれればそれでよかった。
君が僕のそばにいてくれれば、それだけでよかったんだ。


「君らは生きていられる。例え結ばれなくても…生きていられる。姉弟だからとか…そんなちっぽけなしがらみなんて、僕の抱えているものに比べたら対したものじゃない」
「―――でも…君は愛する者を殺せるだろう?」
「…茜……」
「僕は殺せない。姉さんには生きて欲しい。幸せになって欲しい。何時か誰か愛する人と幸せになって欲しい。けれどもその誰かは決して僕じゃないんだ」
「……」
「どんなに願っても僕は姉さんを幸せには出来ない。他の誰かと幸せになるのをただ見護るしか出来ないんだ。どんなに想っても、どんなに好きでもどうにもならないんだ」

「…死んでしまえば…君だけのものになるじゃないか……」


―――君に殺されるなら、それでいいよ。他の人間はいやだけど。
君になら僕は何でも上げられるから。身体も心も、魂も。
僕が君に与える事で、君が得られるものが多々あるのなら。
それだけで僕はしあわせだよ。生きている意味が、生まれてきた意味があるんだよ。

…そんな風に想えるのは…君がいるからだよ……


「それでも僕は生きて欲しかった…一緒に生きていきたかった……」


どうして、どうして運命の輪はこんなにも残酷な現実を突きつける?
僕等はただ。ただしあわせになりたかっただけなのに。
望みもしないものを多々与えるくせに、真実望むただひとつの事はどうして手に入らない?
―――たったひとつの望みなのに、どうして得られないの?


「…速水……」
「どちらが幸せかなんて僕には分からないよ。君だってそうだろう?そんなもの誰にも分からないじゃないか」
「―――そうだね……」

「そうだね、しあわせなんて本当は何処にもないのかもしれない」


もしかしたら本当の場所などこの世界の何処にもなくて。
ただ僕等は今立っている場所を何時しか。
何時しか本当の場所だと錯覚をして。
そうしてただ、時間の流れに身を任せて。
任せて、流れて、滅びゆくしかないのかもしれない。


――――それでも。それでもこころに芽生えた想いは。
誰にも邪魔出来ない場所で、こうして息づいている。こうして生きている。
もしかしたら、本当の場所は。

……自らのこころの中なのかもしれない………



END

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