PRETTY DOLL

「突然だけど、滝川」
何時もの平穏で静かな日々を破ったのは速水のその一声からだった。
「何だ?」
滝川はシャワーを浴びた後の濡れた髪をタオルで拭きながら、自分の目の前に座る速水を見る。
「ヤラせて」
速水の言葉に滝川は持っていたタオルをパタリと落とす。わびしげにタオルが床に落ちた。
「…はぁ?」
思わず滝川は速水の言葉を聞き返してしまう。その声は速水の楽しそうな表情とは正反対の間抜けな声だった。
「本気だよ、滝川。僕は君が欲しいんだ」
「………」
―――今度は自分が落ちそうに、なった。にっこりと笑いながら、じりじりと寄ってくる速水に思わず本能で避けようとする、が。何時しかその手を取られてその場に押し倒されていた。
「なっなっなっ何を言っているんだっっ」
「いただき★」
冷たい床の感触で初めて滝川は自分が置かれている立場に気付く、が。それは見事に後の祭だった。
「ちょっちょっと待ってくれっっ。いったいどうしたらこんな展開になるんだよっ」
「僕、滝川の事好きだからね。可愛いし、何時も美味しそうだなぁって見ていた」
「・・・」
思わず絶句してしまった。その言葉はどう考えても女への褒め言葉である。と言うか、美味しそうって…俺は食べ物かっ?!!
「僕ずっと前から思ってたんだ。滝川の事が好きだって」
真剣な瞳、顔。今までとは打って変わって、真剣な。思わず滝川が無言になってしまう程の。けれども速水はその隙を決して逃しはしなかった。
「いただきまーす」
「わあああっ!!」
滝川の身体を抱きしめると、そのまま唇を塞ぐ。生暖かい舌が、滝川の口中に侵入してきた。
「…んっ……」
滝川は速水から逃れようと腕をばたつかせるが、細い腕では強靱な力に叶う訳が無い。故にたっぷりと速水に口中を堪能されてしまう。
「滝川、好きだよ」
速水の手が滝川の細腰に廻される。全く速水に隙はなかった。そのまま華奢な彼の身体を自分の中に閉じ込める。
「離せっ速水っ……」
速水の胸板は意外と広くて厚かった。抱きすくめられて初めて気付いた事実。こんなに力強い腕と、そして広い胸板を持っていたなんて……。
「いやだよ、今から君は僕だけのもの」
速水の腕の力がいっそう強くなる。その力強さに滝川の身体は折れてしまいそうで…こんなに強く抱きしめられた事なんて一度もなかったから。
「…速、水……」
見上げて速水を見つめる滝川の瞳に初めて、脅えが走った。


「…やだっ速水…離せっ」
両手首をタオルで一纏めにされて、そのまま縛られた。自らが髪を拭いていた、タオルだった。まさしく自業自得とはこの事だろう。
「ごめんね。でもそうしないと滝川、暴れるから」
―――当たり前だっ。そう滝川は心に思ったが口には出せなかった。速水の唇が言葉を言う前に再び塞いできた、から。
「…ん…あ……」
速水の舌が滝川の口内へと進入する。まるで生き物のように蠢く舌。その舌が滝川のその裏を舐める。その途端腕の中の彼の身体がぴくっと震えた。
「…やっ…」
速水は口を犯しながら彼のワイシャツのボタンを外し始める。そのたびに滝川は足で抵抗を試みるが、その足も速水の足によって押さえつけられて、思うように動けない。
「…あっ…」
速水の指が滝川の胸の突起を捕らえる。それはたちまち張り詰めて桜色に変化した。
「…あ…やん……」
巧みな愛撫が滝川のエクスタシーを誘う。心とは反対に身体は正直に速水に反応してしまう。
「…やっ…そこもう……」
速水は執拗に胸の愛撫を続ける。白い歯を立てるとたまらず滝川は淫らな声を上げてしまう。
「敏感だね、君は」
「あぁ…あ…ん……」
「ココが気持ちいいの?」
「…そこやっ……」
ぎゅっと速水の指が滝川の乳首を摘む。その痛い位痺れる感触に、次第に理性が奪われていく。
「…もう…ゆるし……」
「大好きだよ、君が」
目尻にうっすらと涙が滲んだ。その零れる涙に速水はそっと口づける。それはひどく、優しかった。
「やだっ速水っあっ!」
滝川のズボンを下着ごと下ろすと、速水は滝川自身へと指を絡ませる。そのひんやりとした感触に滝川は、背筋がぞくぞくする程震えた。
「…あっ…あぁ…」
速水の愛撫は滝川の知らなかった初めての刺激を醸し出す。他人に触れられたことのない個所に、指が触れられる刺激。それは滝川にとって未知なるモノだったから。
「…やぁ…あ…ん…」
「くす、可愛い」
速水が滝川の耳元で囁いて、そのまま彼の耳たぶをかぷりと噛んだ。その途端、腕の中の身体が鮮魚のように跳ねた。
「やだっ…速水…そこは……」
耳たぶは滝川の最も弱い所の一つだった。そこを長く弄られると、どうしても身体は敏感に反応してしまう。
「…あっあっ…ぁぁ…」
速水の手の中で、滝川自身が熱を帯びてくる。弱すぎる部分を攻められて、いやがおうでも身体が昇り詰めてしまう。
「やぁ…はふぅ…」
滝川自身の先端がしっとりと濡れ始める。速水はそれを指先に感じると、そこを思いっきり扱いた。
「あっ―――!」
細い悲鳴と同時にそこからは甘い蜜が蕩け出す。速水はそれを全部自分の手に受け取った。そして、その手を口元に持ってゆくと、濡れた手を舐め取る。
「…バカ…速水…汚い…」
自分の出した精液をぺろぺろと舐められて、滝川は耐えきれずにそう言った。けれども速水はそんな滝川に極上の笑顔を浮かべて。
「君のが汚い訳ないよ」
指を綺麗に舐め取ると再び速水は滝川に視線を移す。褐色に焼けた肌。そこからはひだまりの匂いがする。暖かい太陽の匂いが。
「もう、いいかな?」
「――あっ!やっっ!!」
充分に濡れた速水の指が当麻の最奥へと進入する。その蕾の入口はひくひくと震えていた。初めてなのに、蠢いていた。
「…あぁ…やぁ…ん」
敏感すぎるそこは進入物を拒んで、逆に速水の指を締めつける事になってしまう。痛みの原因を排除しようと動く媚肉が、逆に身体を傷つけてしまっていた。
「痛いよ、滝川」
速水の言葉に滝川は、羞恥の為に耳まで真っ赤になる。しかしその顔すら愛しかった。可愛くて、どうしようもなかった。
「…ぁぁ…やぁ…ん…」
速水の指は出来るだけ傷つけないようにしながらも、奥へ奥へと進入する。そして痛みを和らげようと開いた方の指を前に廻して、愛撫を施す。するとそこは先程果てたはずなのに、再び震えながらも立ち上った。
「…あぁ…くぅ……」
滝川の声が次第に艶めいてくる。充分にその声が濡れるのを確認すると、速水はその指を引き抜いた。
「…あぁぁ…ん……」
「滝川、いい?」
速水の声が耳元から降ってくる。その掠める息でさえも滝川は感じてしまう。もう、言葉の意味など分からなかった。
「…くぅ…ん…ぁ……」
速水は滝川の足を自分の肩の上に乗せる。そして軽く唇にキスをして。そのまま一気に、貫いた。


可愛い、僕の人形。
ずっと、ずっと欲しかったんだ。
欲しくて、手に入れたくて。
どうしたらいいのか。
ずっと、ずっと考えていたんだ。

―――だから、もう…誰にも渡さないよ……


「…ぁぁ…あふぅ……」
速水は滝川に自身を全て呑み込ませると、しばらくその表情を見つめていた。自分の下で喘ぐその顔を。
「…やぁ…ん…あ…」
少しでも速水が動くと敏感にその身体は反応する。その表情がひどく、淫らで。普段の彼からは想像できないほどに。
「可愛いよ、滝川。大好き」
汗に濡れた褐色の肢体。苦痛と快楽の狭間で歪む表情。淫らに解かれる吐息。その全てが速水が欲しくて欲しくてたまらなかったモノ。
「…ふぅ…はぁ……」
「大好き、だよ」
「ああっ!」
滝川の中の速水が動き出す。がくんがくんと身体が揺さぶられ、激しく求められた。その刺激に意識が真っ白に飛び去っていく。もう何も考えられない。
「…あぁ…やぁ…もう…ああ……」
「速水って呼んで、ねえ」
「…はぁ…ああぁ…ああああ……」
「ねえ、呼んで。お願いだから」
「…ああああっ…はや…み………」
―――意識が、真っ白になる。もう何も考えられない。考えられなくて…。何時しか滝川の口からは速水の名前が零れていた。
「うん、そうだよ。滝川」
「ああっ…はやみっ…あぁぁぁっ……」
その言葉に満足したように、よりいっそう激しく貫かれた。もう殆ど意識を失っていて、何が何だか、分からなくなって。
「…あぁ…あ…やめ…あ……」
「愛しているよ、君を」
「あっああああ―――!!」
滝川の叫びが最高潮に達した時、速水は彼の中に白い本流を流し込んでいた。


ずっと、ずっと君だけが。
君だけが、欲しかったんだ。
だって僕は誰よりも君が。

――――君が、好き、だから。



「ごめんね、なんて」
速水は腕の中の滝川に囁きかける。けれども意識を失っている彼には、決して届く事はなかったが。それでも。それでも速水は言葉を紡ぎ続ける。
「決して言わないよ。だって」



「だって僕はずっと君だけが、欲しかったんだから」


END

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