―――いかないで、と。そばにいて、と。
きつく抱きしめて、そして奪うように口付けた。息が出来なくなるほどに激しく、そして。そして全ての思いを込めて。
「…速…水……」
唇を離せば零れた言葉は、僕の名前。僕だけの名前を、ずっと。ずっとその唇から呼ばせたい。
「―――好きだよ、瀬戸口…君だけが」
そう言って拒まない、拒めない唇をもう一度塞いだ。その先を聴きたくて、そして聴きたくなかったから。
柔らかい栗色の髪。指で撫でれば、ふわりと心地よい感触。
薄い夜明けの色を映した紫色の瞳。その瞳に僕だけを映したい。
もしも僕だけを映してくれないのなら、そのまま。
―――そのまま、噛み切ってしまいたい……
ボタンを外して、胸元に手を滑らせる。
見掛けよりもずっと白い肌がゆっくりと朱に染まってゆく。
僕の手で。僕が触れた、手で。君の身体が綺麗に色付いてゆく。
その瞬間を何よりもうっとりとしながら。
その瞬間に、全ての想いを込めながら。
君をこの腕に、抱く。
「…はぁっ……」
舌を絡め合いながら、僕は君の身体を指でなぞる。
「…あぁ…速水……」
繋がっていない瞬間がないように。唇が離れれば、手を絡めて。
「…はぁぁ…あぁ……」
紅く色付く胸の果実を指で摘めば、零れて来るのは甘い吐息。
「…あぁんっ…ぁぁ……」
その吐息を唇で掠め取りながら、何度も何度もソコを攻め立てて。
「…あぁぁ……」
―――君の綺麗な声を、聴く。
背中に廻された腕に力がこもる。ぎゅっと掴まれたシャツが雛を作った。でも今はそれすらも、ただ愛しかった。
「―――好きだよ、瀬戸口……」
「…あぁっ…速水っ……」
「君だけが、好きだよ」
ずっと欲しかった。君だけが欲しかった。君さえいてくれれば他に何もいらない。他に何一つ手に入れたいものなんてなかった。勲章も名誉も、何もいらない。
―――ただ君の紫色の瞳が、欲しかった。
「…速水…ソコは…あっ……」
ぷくりと立ちあがっている胸の果実を口に含んで、軽く歯を立てた。そのままカリリと噛んだら、ぴくんっと君の身体が震える。それが、それが僕にとっては何よりも。
「…駄目…だ…ああ……」
僕だけが知っている君の弱点。僕だけが、知っている。他の誰も知らない君。他の誰一人知らない君の本当の姿。誰にも渡さない、誰にも渡しはしない。君は僕だけのもの。
「…はぁぁ…あぁぁ……もぉ…俺……」
「胸だけでイッちゃうのかい?」
僕の言葉に首を左右に振って、必死に否定した。でも僕の下半身に当たっている君の分身は、熱く硬くなっている…。快楽のせいで、快感のせいで。
「―――ああっ!!」
舌で胸をぺろりと舐めて、君自身を扱いてやった。その途端僕の手のひらにどくんっと熱い液体が零れる。それを指で掬って君の前に差し出した。
「イッちゃったね、本当にココ弱いんだね」
「…言うなよ…バカヤロー……」
強気な瞳が目尻にうっすらと涙を浮かべながら僕を見上げた。それは快楽の為なのか、悔しさの為なのか判断が付かなかったが。
―――いやもう…僕にとってはどちらでもよかったのかもしれない。
君が僕の為に涙を零してくれるなら。僕のせいで君が泣かされているのなら。どんに理由だろうと原因を作ったのがこの僕ならば。
「そんな君が、大好きだよ」
もう一度、キス。全ての思いを込めて。全ての気持ちを込めて。君にキスを、する。
巡りゆく季節。辿り続ける時間。
何処へ行って、何処に帰るのか。
その先に見つけ出したものは何なのか。
僕の前に現れたものは何なのか?
僕が手に入れたものは何なのか?
巡りゆく季節。二度と戻らない時間。
その中で、僕が手に入れたものは。
――――君が好きだと、云う事だけだったのかもしれない……
熱い身体を抱きしめて、そのまま貫いた。
深く、深く、君の中に。君の中へと入ってゆく。
熱い想いと、激しい気持ちと。切ない愛で。
君の全てを手に入れたくて、身体を貫いて。
君の全てが手に入らないから、身体を手に入れて。
ああ僕は。僕は何処へ向かうのだろうか?
「…あああっ!………」
想いの全てを身体に注ぎ込んでも、決して君は満たされはしないのだろう。
そして僕も満たされはしない。足りない、から。こんなんじゃ足りないから。
君への想いは、こんな身体を繋ぐ事ぐらいじゃ全然、足りないから。
いかないで、と。
そばにいて、と。
女のように願えば、君はずっと僕のものでいてくれる?
「…瀬戸口…愛しているよ……」
気を失ってしまった君に僕の言葉は決して届きはしないだろう。それで、いい。きっと届かないからこそ、僕は君を追い続け、そして求め続けるのだろうから。
「―――君だけを…」
もしも全てが満たされてしまったなら、後に残るものはただの慢性でしかないのだから。それでも。それでも僕は告げずにはいられない。君に。
―――いかないで、と。そばにいて、と。
END