Rewind

貴方の愛に、なりたい。

貴方をそっと抱きしめて。抱きしめて、そして。
そして、その孤独を癒せたならば。


―――貴方の孤独を、この両腕で抱きしめることが出来たならば……



「…君はどうして僕が好きだと言うの?…」
全てに絶望した、皮肉めいた笑みの下の。その下の、微かな不安。少しずつ、零れてゆく哀しみ。それが、全て。全て貴方の中にあって、複雑に入り組んでいる。
まるで迷路のように絡み合い、そして貴方自身は抜け出せなくなって。自らの作り出した迷路の中に、さ迷って。そして何時しか子供のように膝を抱え、そこに蹲ってしまう。
「好きだからですよ」
それをひとつずつ解して、そして。そしてゆっくりと貴方の、本当の綺麗な心を暴く事が出来たならば。出来た、ならば。貴方のこころの声を、聴くことが出来たならば。
「誰よりも貴方が好きだからですよ」
真っ直ぐに見つめて、そして腕の中に閉じ込めて。全ての想いを貴方に注いで。それでも。それでもまだ、足りないのだろうか?どんなに僕が貴方に愛を与えても…貴方の心までは、届かない?けれども。
「―――遠坂……」
けれども見上げてくる瞳が、ゆっくりと淋しくなってくる。ゆっくりと剥き出しになってくる。それが。それが何よりも。

―――何よりも貴方の本当のこころだと、信じられるから……

貴方の瞳の淋しさを、どうしたら消すことが出来るでしょうか?どうしたら貴方の心の闇から、救い出すことが出来るでしょうか?
「…貴方が好きです。全部、好きです」
手を伸ばして髪に触れれば、ぴくんっと一瞬身体を硬直させる貴方。それが、何よりも切ない。何よりも苦しい。何時になれば僕は貴方から、その動作を消すことが出来るのか?
「この髪も、この頬も、この唇も、全部」
それでも髪を撫で、頬を撫で、唇を指でなぞれば。そっと貴方の身体から力が抜けて、僕に預けてくる。やっとここまで。ここまで、貴方の近くにこれた。
「…全部、好きですよ……」
唇を指でもう一度なぞって、そのまま。そのままそっと口付けた。触れ合った先から零れる切なさと甘さが、今の二人の距離だった。



僕は欲張りなのだろうか?
君に愛されていると言うのは分かっている。
君が僕を愛してくれているという事も。
君は僕に溢れんばかりの想いを与えてくれるのに。
それなのに、消えない。不安が、消えない。
もっと、もっとと、渇望する自分。
もっと君を欲しがる自分。注がれても、注がれても。
それでも足りないと想う、自分。


…不安なんだ…愛されれば愛されるほどに…僕から去ってゆくのではないかと……


その瞬間の怖さを知っているから。
失う不安と、失った絶望を知っているから。
だから僕は。僕は、どうしても。


―――どうしても君の愛を…必要以上にねだってしまう……


「…遠坂…もっと……」
君の手が、好き。優しいから好き。
「…もっと…言って……」
君の声が、好き。そっと降り注ぐから好き。
「…好きだって…言って……」
君の優しさが、大好きで、そして苦しい。


「…幾らでも…貴方が望む限り……」



壊れそうに細い肩を、抱きしめて。そっと、抱きしめて。壊れないように、壊さないようにと。そのまま貴方を車椅子から抱き上げて、ベッドの上に座らせて。そして再びそのままきつく、抱きしめて。
「…遠坂……」
見上げてくる瞳に触れたくて、その眼鏡を外した。そしてサイドテーブルに置くと、そのまま震える睫毛に口付ける。眼鏡を外すと僕が見えなくなると貴方が言った、から。だから眼鏡などなくても貴方の近くに、貴方のそばに。
「大好きですよ、誰よりも」
両手で頬を包みこんで、そのまま口付けて。何度も何度も角度を変えて口付けて、貴方の欲しいだけ。貴方の望むだけ口付けの雨を降らせて。
「…ん…ふっ……」
零れ落ちる唾液も、そっと。そっと舌で舐めとって。そしてゆっくりと、貴方の身体をシーツの海に落としてゆく。
「…言葉も大切ですけど…態度で示すのも…大切ですよね」
「…バカ…何言って……」
「言葉以上に伝わるものも、あるでしょう?」
額に口付けながらそっと服を脱がした。僕の手に貴方は抵抗しなかった。されるがままに、僕の手を受け入れる。そして。そしてその両手を僕の背中に…廻して。
「…ならちゃんと…僕に…示して…」
―――貴方から僕に、キスをした。


白いその身体に余す所なく、口付ける。
薄い胸に、肉の匂いのしない肢体に。
貴方の肌で知らない個所など何処にもないようにと。
何度も何度も、唇と舌を貴方に這わす。
貴方が淋しさを感じなくなるまで。
離れても僕の感触が貴方に消えないように。

――――何度も、何度も…貴方に触れて……


「…あああっ!……」
貴方の中に入った瞬間、形良い眉が苦痛に歪む。それを宥めるように、僕はその髪を何度も何度も撫でた。汗でべとつくその髪を。
「…ああっ…あぁぁ…遠坂っ……」
きつくしがみ付く腕。細くて壊れそうなその腕。こうして力を込めて抱きしめられても、どうしてか切なさを呼ぶ貴方の腕。
「…夏樹……」
名前で、呼んだ。普段は決して呼ばないけれど。ベッドの上でだけは、僕は何時も貴方を名前で呼ぶ。そうする方が、貴方が感じると知っているから。

――――名前で呼ばれると…貴方の締め付けがきつくなるから……

「…あああっ…遠坂っ…遠坂っ……」
細い腰を抱えて、激しく貫いた。貴方の意識が快楽に飲まれるように。不安も怯えも、それすらも何処かへと消えてしまえるように。激しく、貴方を貫いて。
「…夏樹…僕の夏樹…」
呼び続ける、貴方の名前。こうして僕の声が降り積もって、貴方の心を埋めればいい。埋めてそして、溢れればいい。
「…ああんっ…あんっ…あぁぁ……」
僕と言う存在で、貴方の全てを埋めて。そして溢れるくらいになったら…そうなったらもう、貴方は淋しさなど感じないでしょう?
僕の全てで、貴方を埋められたなら。そして溢れさせられたならば。
「…あぁっ…ああんっ…あああああっ!!!」

――――そうしたら貴方の瞳は…微笑ってくれる?



貴方の愛になりたい。
貴方を満たして、そして。
そして内側から貴方を。
貴方を護れるように。
壊れそうな貴方を、僕の全てで。
僕の全てで、護れるように。


――――ただひとり、愛する貴方の為に……



「…遠坂……」
髪に絡まる指の強さが。その、力の強さが。
「…僕の…そばに……」
その強さが、切ない。その強さが、苦しい。
「…そばに…いて……」
何よりも僕にとって、貴方のその不安が。


僕はどんなになろうとも、貴方のそばにいるのに。
僕はどんなになろうとも、貴方のそばを離れないのに。




「…ずっと…そばに…夏樹…僕は貴方だけのものです……」




迷路。貴方の迷いこんだ迷路。
ならば僕もその中に入ろう。
そして。そして膝を抱え蹲る貴方のそばに。
貴方の、そばに。




―――この迷路から、永遠に出られなくなっても…僕は貴方のそばにいるから……


END

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