―――巡りゆく運命の輪から、逃れられない。
流れゆく砂のように、零れてゆく時間。溢れてゆく、時。
その流れに身を委ねて。その流れに身を任せて。
さらさらと、僕の身体もこころも溶けて。
溶けて流れてしまえたのならば。
全てが『無』になれば、もう僕は何も考えることもない。
―――何時もそばにいたかった。
ずっと君のそばにいたかったけれど。
でもそれは僕の一人よがりな願望でしかなかったんだ…。
だって君は、みんなのモノだから。
光の中に生きる君。光だけがそばに在る君。
君は運命に選ばれた。君は光の運命に選ばれた。
その差し出される道に穢れは許されない。
真っ直ぐに伸びた道は光に溢れていなければゆけない。
だからこそ。だから、こそ。
―――穢れである僕が存在しては、いけない。
「君が好きだから、僕だけのものにしたい」
そう言って君は僕に触れた。僕の髪に、僕の唇に、僕の肌に。
その指が、僕と言う名の全てのものに触れる。
「―――僕だけの、ものに」
綺麗な指。その手は血塗られても、闇に堕ちてもいけない。
ただ光だけ。光だけが溢れていなければ、ならないのに……。
君の手が、僕の肌に触れる。
君の手が、僕の心に触れる。
闇に侵されし、僕に。闇に喰われし、僕に。
「誰にも君を渡さない」
君の穢れなき手が触れる。君の穢れなき手が、僕に触れる。
肌を滑り、この身体を貫き、そして。
そして欲望が注ぎ込まれる瞬間。
―――僕は君の唯一の『闇』になった。
絡み取られる、運命の糸。
僕の身体を引き千切るその糸達。
肉を抉り皮膚を刻み、そして。
そして僕の血を吸って重くなってゆく糸。
僕はそれから逃れられない。
僕はそれから逃れようとはしない。
絡めて、絡め取られて。
ぽたぽたと流れる血が、散らばってゆく血が。
―――君の運命を、輝かせる。
僕は君だけのもの。
けれども君は僕だけのものじゃない。
それが全ての答えだと気付いた時。
僕には闇に堕ちる以外に選択肢はなかった。
…ゆめに捕らわれることしか……
それでもあしきゆめに捕らわれた僕は、その瞬間だけは誰よりも君のそばにいられる。
誰よりも君と共にいられる。その時だけは君は、僕の事だけを考えてくれる、から。
その為に僕がこの夢に捕らわれたならば…それもしあわせなのかもしれないと思った。
しあわせなのかも、しれないと。
こうして君を見ている。こうして君を見つめている。それはひとときの夢。ひとときの思い。それでも僕は君を、見ている。
そして君も僕を見ていてくれる、この瞬間は。この瞬間だけは。
それだけで僕は、死んでもいいと…思った……。
END