―――言葉にしなくても、伝わるもの。
君の瞳が、優しいと気が付いた時。
その不意に見せた瞳がとても優しいと、気が付いた時。
僕の口許からも自然に笑みが、零れていた。
伝わる、もの。
言葉にしなくても。
声にしなくても。
指先から、伝わるもの。
「手、繋ごう」
自分で言った言葉に僕はつい笑ってしまった。それは余りにも女の子のような言葉だったから。何を言っているんだろう…と思いながら。
「…ああ……」
でも君は僕の予想外にその大きな手を出してきた。大きな、手。強い、手。優しい、手。戦士の手だ。この手で幻獣を殺す。この手で人間を護る。そしてこの手で…僕を、抱きしめる。
「――来須…君の手は、暖かいね」
触れた、手。繋がった手。僕の手よりも一回り大きくて、そして。そして指先全てを包み込んでしまうその手。
「そうか?」
暖かい、手。指先に伝わるぬくもり。君の、優しさ。言葉にしなくてもこうして伝わるから。僕には、伝わるから。
「うん、暖かい」
目を閉じて、そのぬくもりだけを感じる。それが僕の世界の全てになるように。そのまま繋がった手のまま、僕はそれを頬に持っていった。なんか本当に女の子のようだな…と思いながら。
「お前の手は、冷たいな」
その言葉に目を開ければ蒼い瞳が僕を見下ろしている。初めて見た時僕はこの瞳がまるで鏡のように全てを反射しているように思えて、ひどく冷たいと思った。けれども今は。今は、違う。その隙間から零れて来る柔らかい優しさに、僕は気付いたから。
「心が、冷たいからかな?」
「違う。心が冷たかったら」
空いている方の君の手が、僕の頬に掛かる。そしてそのままそっと、撫でられた。それだけで安心できる君の手。大好きな、手。
「そんな目は、しない」
頬を撫でていた手が顎を捉えて、そのままひとつ口付けられた。優しいキス。やっぱり君に言葉はいらない。言葉なんてなくても、伝わるものが在る。伝わる気持ちが、ある。
「――でも手が冷たくてよかったと思う」
「何故?」
「君の手が、僕を暖めてくれるから」
やっぱり君はその答えを言葉にしない。その代わりに。その代わりに、瞳がもっと優しくなる。
「来須、もっとこっちへ来て」
触れたい、から。君に触れたいから。
「もっと僕のそばに」
君の暖かさに触れていたいから。
「…もっと……」
僕の前に立って、君は僕を抱き上げた。そしてそのまま僕を抱きしめる。この広い腕の中いる限り、僕はどんなものからも護られる。幻獣からも、他人の差別の目からも。
「脚…」
「うん?」
「折れそうに…細いな……」
「しょうがないよ、歩けないもん。必要のない筋肉は、削ぎ落とされるだけだから」
「――そうか……」
「でもいいよ、君が」
「君が僕の脚になってくれるなら」
何も言わない君が好き。
大げさな同情も、憐れみの言葉も口にしない君が。
けれども何よりも瞳が気持ちを語ってくれるから。
その瞳が、何よりも。
―――君の優しい気持ちを、語ってくれるから………
「何処へでも…連れて行ってやるから…」
「…うん……」
「俺がお前を、何処までも」
「…来須……」
「俺がお前を―――」
「ずっと、遠くまで」
降り注ぐ優しい言葉にそっと目を閉じた。
そしてそれ以上に感じる君のぬくもりに。
僕はそのぬくもりの全てを感じるために、目を閉じた。
…その暖かさが……
……僕の全てに…なるように………
END