LOVE POWER

―――恋は盲目とはよく言ったものだ……

自分でも思いがけないほどに、恋をしている。
バカみたいに、君のことばかり考えて。
君のこと以外、考えられなくなって。
情けないと思うほど、僕は君に恋をしている。


―――君だけを、見ている…

気付くと視線が君を追っていたりする。そんな自分に気がついてはっとしたりするのが少しだけ情けない。ましてそんな様子を他人に見られていたりすると。
「狩谷、君ほーんと速水の事好きだねぇ」
頭上から降ってくる楽しそうな声に、僕はあからさまにイヤな顔をした。こんな顔をしてしまう事事体…そうだと認めている以外の何物でもないのに。それでも止められない僕が子供なのだろうか?
「…瀬戸口…君にだけは言われたくない……」
図星なだけに不機嫌な口調になってしまう自分が、イヤだったりする。けれども、それ以上に言われた相手にむかついた。やっぱり子供っぽいかもしれない、こんな所は。
「何でだよ、この恋の伝道師瀬戸口くんに任せれば完璧だよ」
…何が完璧なんだ…と思ったがこう言う話にあっさりと食い付くのもバカらしい。と、言うか同じ穴のムジナである彼にそこまで言われるのが非常に腹が立った。そこで僕は敢えて彼の嫌がる答えられない質問を返してみた。
「伝道師の割には…片思いだよね、君。まあ相手は愛する事が出来ない人だったっけ?」
―――あ、図星。顔が真っ赤になっている。わ、耳まで真っ赤だ…ここまで効果絶大だとは振ってみた僕でも予想できなかった。と、言うか彼がこんなにも素直に反応を寄越すなんて…。
「…う、うるさい…な、何で君が……」
言葉までしどろもどろになっている。なんか凄く意外だった。あれだけ広範囲に渡って女の子達を口説きまくっているのに…『彼』の事になるとこんなにもうろたえるなんて。
「石津さんが言っていた。あの人も来須の事好きだからね…君を呪い殺すってね」
ちょっと面白いと思った僕はどっちもどっちなんだろうか?でもこんな分かりやすい反応を返されたら誰だってからかいたくなるよね。
「――え、マジ?……」
その言葉に今度は真っ青になる。赤くなったり青くなったり…もしかしたら見ている分には楽しいのかもしれない。
「だから僕の心配よりも、自分の心配をした方がいいよ…瀬戸口クン」
「…ヴ…」
あらら、今度は僕の目にもはっきりと分かるほどに落ち込んでしまった。まさかこんなに分かりやすい反応を寄越すとは思わなかった。もしかして意外と単純、なんだろうか?
「う、うるさいっ!!俺の事より自分の心配して―――と、速水」
「何話しているの?」
何時の間にか君が僕の後ろに立っていた。車椅子に手を掛けて、僕の頭上で微笑っている。子供みたいな、笑顔で。
―――僕は君のその顔が、何よりも大好きだった。
「瀬戸口の恋の話」
「わっ狩谷てめーっ!!」
「くすくす、瀬戸口顔真っ赤だよ」
「…う、うるさい…速水お前にまで言われたくない…」
子供のように無邪気に微笑いながらも、その奥に見える強い意思を持った瞳が。その瞳が僕を捕らえて離さない。
「いいじゃない、恋する男の子は盲目なんだよ。僕のようにね」
そう言うと君は後ろから僕の首に手を廻す。そしてぎゅっと抱きしめられた。―――って端から見たらじゃれているようにしか見えないけど、僕の心臓はどきどき高鳴っていた。
「速水って、そう言う性格だったか?」
「うん、僕は独占欲強いんだ」
廻された腕の力が強くなる。声のトーンは変わらないのに少しだけ…少しだけ冷たく感じたのは僕の気のせい?それとも?
「だからね、瀬戸口」

「君と狩谷が仲良く話していると僕はちょっと不機嫌になるんだよ」


―――不謹慎かも、しれない。
でも僕は、嬉しかった。凄く、嬉しかった。
本当に僕はただの子供なのかもしれない。
でも君が見せてくれた独占欲が、それが何よりも。
何よりも僕には、嬉しかった。


「…ってただのノロケじゃんかそれ……」
「うん、そうだよ」
「――速水、ホント性格いいね……」
「だってそのくらいでないと」

「狩谷を僕のものに出来ないからね」

やっぱり僕は子供だと思った。こんな事で喜んでいる自分に。でもどうしようもなく嬉しかった、から。
「…あ、あの瀬戸口も…速水も…その…ここは公共の場なんだし…」
「そう言いながらも狩谷クン、顔がにやけているよ」
「…そんな事…」
「あ、来須っ」
「えっ?!」
瀬戸口の一撃に俯いてしまった僕に、君はくすっと笑ってそう言った。その言葉と、君の指した指先の向きに瀬戸口は顔を向ける。そこには確かに来須がこっちに向かって歩いてきていた。
「おーい来須」
そんな来須に君は楽しそうに手を振って呼び寄せる。その途端また、瀬戸口の顔が真っ赤になった。でもきっと。きっと今の僕も同じような顔の色をしているんだろうな。
「何だ速水?」
「瀬戸口が話があるってさ。それてじゃあ僕はこれから狩谷と仕事だからじゃあね」
「わっ、速水っ!!」
「ばいばーいっ!」
止めとばかりに君はにっこりと笑うと、僕の車椅子を押して速攻この場から去った。こっそりと僕は振り返れば…そこには硬直している瀬戸口と、何時もの無表情の来須が対峙していた。
……何だかちょっと、可笑しかった……


「これで邪魔者はいなくなった、と」
あっと言う間に人影のない裏庭に僕は連れられていた。車椅子を止めて真正面に君は立つと、そのまま僕の顔を覗き込む。すこし、どきりとした。
「…速水……」
じいっと見つめられてひどく恥ずかしかった。何時しか手が伸びてきて頬を包み込まれる。その手はひどく暖かかった。
「やっとふたりきりになれたね」
「…何言って…」
僕の抗議は最期まで言葉にならなかった。君の唇がそっと僕のそれに触れて、塞がれたので。柔らかいキス。触れるだけのキス。けれども誰かに見られるかもしれないこの場所で、キスされた事が僕の羞恥心を煽ってゆく。
「…速水…やめ…」
「だめ、もう一回。君が瀬戸口と笑っていた分」
「…んっ……」
―――僕は瀬戸口の前で笑っていた覚えなんてない。それにもし笑っていたなら…笑っていたなら、それは君を見ていたからだ……。
「…速水…僕は……」
「何?」
唇が離れて見つめられる瞳の真剣さが。笑っていないその顔が、僕には多分。多分一番望んだものなのだろう。例え誰に何を言われようとも。
「僕は、君だけのものだよ」
「そうでなきゃイヤだ」
「…もう君は何言って……」
「僕だけのものじゃないと、イヤだからね」
そう言って力の限り抱きしめられて。抱きしめられて、しあわせ。


―――恋は、やっぱり盲目だ。
だって君以外に。僕は君以外に、見えないから。
他の誰も、見る事が出来ないから。


「…そう言えば瀬戸口…どうなったのかな?」
「ダメ、僕といる時は…ううん、僕といなくても」

「――僕だけのこと、考えていて……」


END

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