聖者の行進

―――ふたりを結ぶ、一本の糸。

それがどんなに穢れようとも。
それがどんなに紅く染まろうとも。
僕等を繋ぐ唯一のものならば。

「…狩谷…狩谷……」
抱いて、抱きしめて。君だった『モノ』。君の形だった『モノ』。
「…狩谷…どうして?ねえ…どうして?……」
今手の中にあるのは君の抜け殻でしかない。君だったモノでしかない。君の入れ物。
君はここにいるのに、もう何処にもいない。
「どうして君が…君がこんな目に合わなければならないの――ーっ…」
こんな目?それは死?君が死んだ事?違う。違う、違う…それは僕が君を殺した事。
君が僕の前に敵として現れた事。君を倒す事で、僕は全てを手に入れたこと。


―――そう僕は…君と引き換えに全てを手に入れた……

地位と、名誉と。そして平和と名声と。誰もが望むものを全て。全て手に入れた。
ただひとりの君と引き換えに。


「いらないのに」
そんなモノなにひとつ欲しくはなかった。そんなモノ僕には必要なかった。
「…そんなもの…いらない…」
何も何も欲しくはなかった、君以外には。

君以外何も、欲しくはなかった。


あいしている、なんて。
ことばにするのは、かんたん。
こえにするのも、かんたん。
でもきもちなんて。
きもちなんて、ことばでおわるほどかんたんじゃない。
そんなかんたんなものじゃない。


「ねぇ狩谷…僕に殺されて君はしあわせだった?」


最期に君は笑ったような気がした。バカだね…なんでそう思う?僕が最期に見たものは君ではないのに。君の形をしていなかったのに。でもね、僕は君が微笑っているように見えたんだ。

―――しあわせそうに、微笑っているように…見えたんだ……


ぼたぼたと、零れ落ちる紅い血。
地上を覆う真っ赤な色と、そして。
そしてその紅を流す土砂降りの雨。
全ての罪を隠すように降り注ぐ雨。

ああ、全てを流して。全てを洗い流して。僕も君だったものも、全て。
そうしたらもう誰も。誰も君を傷つけたりしないだろう?


僕達が惹かれあったのは、この為だったなら。
だったならねぇ、ねえ…神様は随分と酷い事をするんだね。

粉々に、した。
跡形も残らないように。
粒子ですら残さないように。
君だったものをこの。
この穢れた地上に残しておきたくはない。

―――君は一番綺麗な場所へと行って、欲しい。


「愛している、狩谷…ずっとずっと……」


きみのかみにくちづけて。
きみのほほにくちづけて。
きみのくちびるにくちづけて。
きみをだきしめて。
きみをだいて。
…きみをこわして……


「…愛しているんだ…君だけを……」


どうしてなんだ?どうしてなんだ?
僕は世界の幸せなんかいらない。皆の幸せなんていらない。
僕が欲しいのは、君と。君のしあわせだけだった。


「…愛して…い…る……」


屍が行列を成して歩いてゆく。僕の目の前を通りすぎてゆく。
骨と骨格だけになった目の所が刳り貫かれている屍。
その中に君は、いるの?その中に君は、在るの?
もしも君がその中にいるなら、僕の目も刳り貫いて。
刳り貫いて、そばに連れていってくれ。


君だったモノを、食べた。貪り尽くした。
粉々に砕いて全てを食らった。
美味しいよ、どんなになろうとこれは君なのだから。
君、なのだから。とても美味しいよ。

―――ねえこれで僕等はひとつになれるかなぁ?



速水、僕は君の見ている世界が好きだった。
君が見ている世界と、そして君が歩む未来が。
僕にはどんなに望んでも手に入れられないもの。
とても、綺麗なもの。
だから僕はそれを君にあげたかったんだ。
それが僕が君に出来る唯一の事ならば。
僕が君にしてあげられるただひとつの事ならば。
…ねえ、速水…速水…僕はね……

―――君に何かひとつでも、あげられるものを探していたんだ。


君が僕に与えてくれたもの。
君だけが僕に与えてくれたもの。
君だけが、僕にくれたもの。
それだけで僕は、しあわせだったんだ。

絶望に俯く以外出来なかった僕に。
ただひとつ差し出された、手。そして強い光。

それが何よりも、僕にとってはしあわせだったんだ。


「…狩谷…狩谷……」


泣かないで、泣かないで、速水。
僕と君とは本当に瞬きするほどしかともにはいられなかった。
けれども。けれども、時間じゃないんだ。長さでも、ない。
そんな事すらどうでもいいと思えるほどに僕にとっては。
僕にとっては、君といた時間が何よりもしあわせだったんだ。


「…狩谷…愛して…る……」


僕も、だよ。僕も君だけが好きなんだ。
だからもう苦しまないで、泣かないで。
…泣かないで、速水…愛しているから……


―――君に僕の声は、もう届かないのかな?


喪服の聖者が目の前を行進してゆく。
真っ黒の布を被った聖者が。
その中に溶け込むのは僕の罪と贖罪。
君を独りにしてしまった、君に僕を殺させてしまったその罪。
聖者に引かれ連れて行かれる僕は。
やっぱり速水…君にはもう届かないのだろうか?



雨は降り続ける。全てを消し去るように。全てを洗い流すように。


「…狩谷…愛しているよ……」


君の全てを体内に取りこみ、僕は初めて安堵をした。
これでもう君は何処にも行かないねと。これでずっと僕の中にいるねと。


「―――ずっと…愛している………」


END

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