Eyes

――――瞳の中に静かに宿る狂気……


ずっと、お前だけを。お前だけを、見つめて。
見つめてそして恋焦がれ、狂い、堕ちてゆく。
細い闇にそっと。そっと堕ちてゆく。
眩暈がするほどの、咽かえる血の匂いの中で。


…その蒼い瞳だけが…綺麗…ずっと、綺麗……


紫色は魔性の色だと、誰かが言っていた。獲り込まれたら終わりだと、そう言っていた。それでも堕落する魂をこのまま。このまま手を差し伸べずにはいられなかった。
首筋に歯を、立てられる。そのまま零れ落ちる血に唇が吸い付いて、そのまま。そのまま全てを飲み干そうかと言うように、喉が鳴った。
「…お前の…甘い……」
うっとりとするように呟くその顔は、怖いほどに綺麗だった。ただ俺はお前を『怖い』と思ったことは一度もなかったが。ただ壮絶な狂気の中に浮かぶ笑顔は、他人から見たらそう思えるのだろう。俺にとってはただの…哀しい恋人であっても。
「…血、甘い……」
ぴちゃんっと白い頬に俺の血が跳ねた。色のない肌。まるで透けてしまうほど白い肌。日の匂いのしない、肌。お前に染み付いているのはただ深い闇の匂いだけ。夜の濡れた匂いだけ。
「…俺のも…甘いかな?……」
血に染まる唇が笑みの形を作る。真っ赤な唇だけが、この夜の闇の中で鮮やかだった。


手首を切るのが止められないんだと、お前は言った。
死ねないと分かっていても、止められないのだとそう言った。
俺に出逢ってから、そうせずにはいられなくなったと。
こうして血を流せばそばにいてくれるだろう?と。
こうして手首を切ればずっと。ずっとお前は俺を見てくれるだろうと。

――――こうしてお前を繋ぎ止めるしか…方法が思い浮かばないんだ…と。

咽かえる血の匂いが、何時も。
何時もお前には付きまとっている。
俺とお前の間には、真っ赤な血が。
消えることのないその血が。


消えることのない傷。消えたら再び作られる傷。そうして何度も何度も、皮膚に刃物を食い込ませ、零れ落ちる血に舌を絡めて。
「―――こうして抱きしめて…ずっとお前を…そうしたら不安は消えるか?」
俺の身体を滑る舌、指先。確かめるように確認するように、俺を辿る。分かっているお前は怖いんだ。俺が何れかこの世界から消えるのが。消えるのが怖いから、こうして。こうして必死に繋ぎ止めようとする。どんな方法を使っても…自分を傷つけても。
「…消える?消えたらいいね…お前が何処にも行かないって絶対のものがあれば…いいね」
身体を滑っていた舌を止めてお前は顔を上げた。その顔は微笑っていたけれど、瞳は泣いていた。だから俺は。俺はお前を、離す事が出来ない。

――――傷つき壊れた魂を…どうしたら救えるのか?……

俺を愛した事がお前をここまで追いつめたのならば。失うと分かっていながらも、俺を愛して。そして消えると分かっていても、お前を受け入れた俺が。
「…んっ…ふぅ……」
再びお前の舌が滑り、俺自身に絡まるとそのまま口に含んだ。舌先で何度も先端を舐めながら、指を絡めて俺の熱さを求める。絡まる指先に血が付いていた。お前の手首から零れる血が、俺の肌にも零れる。それをまた、お前は舌で辿った。
「…んんっ…ふっ…はぁっ……」
紅い舌が辿る。扇情的に口許から覗く舌。先端を咥え、ラインを辿る。そんなお前の髪を撫でてやれば一瞬表情が和む。子供のような、笑顔に。
俺はずっと。ずっとお前のそんな顔を、見ていたかった。ただ純粋に微笑う、その顔を。
「…来須…何時か、お前を全部飲み干したい…ココも…お前の精液も」
子供のように微笑んでそしてもう一度俺自身を口に含む。脈打ち先走りの雫を零し始めていたソレをきつく吸い上げた。俺はその刺激に堪えることなく、お前の顔に白い液体をぶちまけた。



交じり合う、白と紅。
血の色と、精液の色と。
混じりあって、そして。
そして溶け合って。
溶け合って、ぐちゃぐちゃに。
ぐちゃぐちゃになれたら。

―――そうしたら…いいなと…思った……


俺を見下ろす、蒼い瞳。その瞳に何時も。何時も支配されたいと願っていた。俺がお前の『モノ』になれたら、お前はずっと。ずっと俺を傍に置いてくれるだろう。俺はどんなになっても、どんな形になってもお前の傍にいたいんだ。
「…来須…お前の……」
血塗れの手で、精液の交じり合った手で、お前の指先を自らの指に絡めた。そうしてそのまま。そのまま一つ一つ指を口に含む。このまま噛み切りたかったけど、俺に触れてくれなくなるのがイヤだったから我慢した。我慢してそのまま。そのまま何度も舌を指に這わす。そこから広がる痺れるような甘さに、身体の疼きが止まらなかった。
「…お前の手…指…頬…そして唇……」
手に口付け、指に口付け、頬に口付け。そして唇に触れた。甘い蕩けるような口付けは、脳みそから溶かしてゆくようだった。脳天から蕩けてゆくようだった。

―――目を閉じて瞼の裏にただひとつ。ただひとつお前の蒼を刻みながら。

どうしたらいいのか、分からなくて。
どうすればいいのか、分からなくて。

…分かっていたらもっと。もっと違う愛し方が、俺に出来たのかもしれない……


「…ふぅっ…ん…はぁっ……」
絡め合う舌。もつれ合う舌。このまま。このまま噛み切ってしまいたいと思った。
「…来…須っ…あっ…あぁ……」
抱きしめる腕が、身体を滑る大きな手が。触れ合った個所から広がる熱さと、じわりと染み込んでくるものが。その全てが。
「…あぁっ…あぁんっ……」
抱いて、抱きしめて。全てが溶けてなくなるくらいに。何もかもが交じり合うくらいに。自分という『固体』ですら、消えてしまえるように。全てが消えてなくなってしまえるほどに。
「…もっと…俺を……」
求めて、欲しがって。貫いて、引き裂いて。その熱い楔で俺を壊してくれるなら、もう何も。何もいらないから。だから、俺を。


――――永遠に戻れない場所へと…お前が連れて行って……



紫色の瞳が、俺を見つめる。夜に濡れながら、血を吸いこみながら。闇を閉じ込めながら。色々な意味を持つその瞳はそれでも、ただひとつの事を俺に告げている。ただひとつの、事を。


「…お前だけを…愛している…来須…俺は……」


このまま貫いたまま、唇を合わせ、舌を噛み切れば。
そうすればお前は満たされるか?
魔性の紫が紅く染まれば、それで幸福か?

―――それでお前は、微笑ってくれるか?




「…俺も…お前だけを…愛している……」



見つめた先の瞳が子供のように微笑う。
そんなお前の唇をそっと塞いで。
そのまま、塞いで。ふたり、唇を噛み切った。


繋がったまま。上も下も、繋がったままで。



――――戻れなくてもいいと…思った…お前の笑顔と引き換えならば……


END

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