Mr Moonlight

―――月よりも儚く、けれども強い人。


何もない部屋がイヤだったから、電気を消した。大きな窓から覗く月明かりだけを頼りにして。その窓の下にある鉄パイプ製の無機質なベッドに瀬戸口はぺたりと座り込んだ。
「なあ、来須」
見上げてくる紫色の瞳は薄暗い闇の中でも鮮やかに映える。いいや闇の方がその色は最も輝くのだろう。彼の属性が『魔』に近付く刻。
「この格好ってそそる?」
それでも子供のような表情を含み、彼はそう言った。まるで悪戯を仕掛ける前の、子供のような瞳で。それが無表情と言われる来須の口許ですら、そっと。そっと笑みを浮かばせる。
「―――悪くはない」
シャワーを浴びて戻ってきた瀬戸口は、白いシャツ一枚だけを羽織っていた。素肌の上にボタンも留められずに羽織ったワイシャツ一枚で。彼の陶器のような白い肌に、それはひどく扇情的に来須の瞳には映った。
「したくなった?」
まるで猫のように屈みながら、ベッドの前に立つ来須によって来た。見上げる紫色の瞳は何処までも無邪気でありながら、雄を誘っている猫のような色をしている。そこが彼の魅力でもあり、来須が振り回されてもいい…と唯一思える相手だった。
「ああ、来い」
来須の大きな手が瀬戸口の目の前に差し出される。彼はぺろりとひとつそれを舐めて。舐めて、そのまま。そのまま上半身を起して、来須の逞しい身体に抱き付いた。


髪を撫でてやれば、薫る匂いが。
その薫りがひどく俺を、誘う。
微かに薫る、髪の匂いが。


褐色に焼けた肌が、瀬戸口には愛しかった。白人人種である彼だったが、日々の訓練のお陰で肌が浅黒く焼けている。それも。それも瀬戸口には堪らないほどに欲情するもの、だった。
「まずは、これから」
抱きついてくる瀬戸口を来須はその両腕で抱きしめた。太く逞しい、腕。かと言ってその腕には無駄な筋肉は何一つない。均整の取れた引き締まった肉体が隠すことなく、瀬戸口の前に曝されている。
「…くす、濡れてる……」
瞼に口付けられながら瀬戸口は呟いた。裸の胸に身体を合わせれば、まだ水滴が消えていない事が分かる。自分よりも後にシャワーを浴びたのだから、当然と言えば当然だけれども。その雫を辿るように、来須の厚い胸板に指を這わした。そっと触れただけなのに弾力のある肉体が、何よりも愛しい。この力強い腕に抱かれ、この逞しい身体に貫かれ、それ以上の快楽を…もう瀬戸口は思い付かなかった。これ以上の贅沢を、もう他に思い付かなかった。
「乾く前にお前が、誘った」
「…だって君が…欲しかったんだもの……」
もう一度唇が降りてくる。睫毛の次に鼻先に頬にそして唇に。そっと触れて離れたと思ったら、もう一度捕らえられ。捕らえられ今度は深く、口付けられる。
「…んっ……」
舌で唇をなぞられて、瀬戸口は素直に口を開いた。それと同時に歯列を割って、来須の舌が忍び込んでくる。その甘さに、瀬戸口は睫毛を揺らした。甘いその、口付けに。
「…んんっ…ふぅっ…ん……」
髪を撫でられながら、舌を絡め取られる。きつく根元から吸い上げられて、ぴくんっと瀬戸口の身体が震えた。それを感じながらも尚、来須は彼の口中を貪り続ける。角度を変えて何度も何度も唇を奪って。そして。
「…はぁぁっ……」
やっとの事で唇が開放された時には、もう瀬戸口は自らの身体を支える事が出来なくなっていた。両手でしっかりと来須の腕を掴み、膝立ちになっている脚の震えを懸命に抑えていた。そんな瀬戸口の手を背中に廻させると、来須は軽々とその身体を抱き上げた。
「…来須……」
見上げる瞳が夜に濡れている。闇の中でそこだけが、綺麗だった。綺麗だから閉じ込めて自分だけのものにしたいと、思った。そんな事をしなくても、瀬戸口は来須だけのものなのに。
「…あっ……」
口許に零れる唾液をそっと来須の舌が舐めた。それだけで敏感な瀬戸口は感じるの止められない。けれども。けれどもそれを抑えることは…彼の前では必要のない事だから。

どんな時でも、どんな瞬間でも、彼の前でだけは自分は『本当の自分』でいられるから。

抱きかかえられたまま来須はベッドの上に座った。そのまま瀬戸口を自らの上に乗せる。そんな彼に瀬戸口は手元にあった白い枕を取ると、来須の背中にそれを置いた。
「―――瀬戸口?」
「…これパイプベッドだから…痛いだろ?背中」
そんな恋人の小さな気遣いが来須には嬉しかった。自然と顔が優しくなる。そして。そしてそんな彼の顔が瀬戸口は何よりも、好きで。
「…そんな顔で笑うと…惚れ直しちまうよ……」
そのまま見下ろす形になった来須に、頬の赤らみを隠す事が出来なくて。出来なかったから…思った事を戸惑いながらも口にした。
「惚れ直せ。俺は何時でもお前に…惚れ直している」
髪を撫でられ引き寄せられ、そのまま口付けられる。何時もとは違う角度のキスに、瀬戸口の睫毛が、震えた。


ワイシャツを肩から脱がされた。全てを脱がそうと思ったけれど、瀬戸口の手が来須の紙から離れなかったので、それは叶わなかったが。それでも剥き出しの白い肩は、充分に来須の欲望に火を付けた。
「…はぁっ……」
白い肩に唇を落とし、消えない痕を残した。彼が自分だけのものだと言う、消えない証を。
「…あぁ…ん……」
指が胸の突起に触れると、そのままきゅっと摘ままれる。その刺激に瀬戸口のソレはぷくりと立ち上がり、紅く熟れ始めた。
「…あっ…あんっ……」
胸を指で弄られながら、もう一方を口に含まれる。舌先で突つかれ、軽く歯を立てられれば、背中から這い上がってくる快楽を抑えきれない。
「…あぁっ…はぁっ…あ……」
口から零れるのは甘い吐息だけ。言葉を紡ごうも甘さが邪魔して出来なかった。名前を呼ぶよりも、好きだと告げるよりも先に。先に吐息が零れ落ちてくる。
来須の胸を弄っていた指がゆっくりと下腹部へと滑ってゆく。瀬戸口の身体を知り尽くした指先は、彼の感じる個所を的確に攻めてゆく。
「…あぁっ…ん…あっ!」
偶然とでも言うように、瀬戸口自身に来須の指が触れた。それは既に適度に形を変えており、自らの欲望の状態を来須の指に伝えた。
そのまま来須はソレを手のひらで包みこむと、先端を指の腹で擦る。それだけで、手ひらの瀬戸口自身はどくんどくんと脈打った。
「…あ…ああんっ…は……」
気持ち良さに声を、抑えきれない。込み上げて来る快楽に、自分を抑えきれない。瀬戸口は更なる刺激を求めて来須の手のひらに自身を強く押し付けた。そこからはもう既に先走りの雫が零れていて、限界が来ていることを伝える。けれども。
「…くる…す?……」
けれども一端その手が離された。中途半端な状態で投げ出され、ひくんっと切なげに瀬戸口の白い肢体が震えた。それが月明かりに照らされてひどく、綺麗だった。
「―――イク時は…一緒だ……」
自分にしか聴かされる事のない低く少しだけ掠れた声。自分以外聴く事の出来ないその声に、瀬戸口はそれだけで身体の芯が疼いた。自分だけしか知らない、彼の夜の声に。
「…はっ…くぅっ…ん……」
先端から零れ落ちる先走りの雫だけで、来須は瀬戸口の内部に指を埋めた。けれども貪欲なソコは、それだけの潤いで指を受け入れた。他の誰でもない来須の指だと言う事が…瀬戸口を何よりも悦ばせるのだと知っているかのように。
「…くふぅっ…はっ……」
乾いたソコにそれだけの湿り気ではきついに決まっている。それでも瀬戸口は自ら腰を浮かせ、指の刺激を求めた。

欲しかった、から。彼がどうしようもなく欲しかった、から。

くちゅくちゅと中を掻き乱す音だけで、瀬戸口の快楽は煽られた。蠢く媚肉も、指の刺激を受け入れている。中を掻き分け、押し広げられる感覚を受け入れている。他の誰でもない、彼の指だからこそ。他の誰でもないただ一人の相手だから、こそ。
「…はぁ…ふっ…ん……」
指の本数が増やされ、中が押し広げられる。浮かしていた腰も、その刺激に耐え切れなくなってきている。瀬戸口の手が必死に来須の髪を掴み耐えていた。けれども、もう。
「…来須…もう…いい…から…だから……」
「―――瀬戸口……」
「…いいから…来いよ…俺…欲しい…から…君が…欲しい…から…」
目尻に涙を浮かべて懇願する恋人の望みを…来須は断ることなど出来なかった。いや初めから、来須は瀬戸口の望みは…決して断りはしないのだから。


月明かりの下、白い肌に汗が飛び散る。茶色の柔らかい髪からもぽたりと汗が落ちて、そして来須の頬に当たった。
「あああああっ!!」
下から突き上げられる感触に、瀬戸口の身体がぶるっと震えた。喉を仰け反らせて喘ぐ事でその衝撃から逃れようとする。けれども下から突き上げる楔の硬さと熱さの前では、それは無意味でしかなかったが。
「…あああっ…あああ……」
仰け反っていた身体を瀬戸口は前に倒した。そのまま来須の背中に抱き付き、頭を抱えた。そうして。そうして快楽を、自分の感じている姿を彼に伝えようとする。そんな彼が、どうしようもない程に来須には…愛しかった。
瀬戸口の着ているワイシャツの上から腰を掴み、がくがくと揺さぶった。細い腰は腕で掴んだら一瞬壊れてしまうのではないかと思えるほどで。それでも、今は。今は自分の欲望に正直でありたかった。そして正直であることが…何よりも彼を悦ばせる事もまた、分かっていたから。
「…あああんっ…ああんっ…はぁぁっ!!」
胸にひとつ、口付けた。そうすれば腕の中の彼が一層激しく喘ぐ。紅い舌が覗く。それを見上げればひどく。ひどく妖艶に見えて。瀬戸口の中の、来須の存在を大きくして。そして。
「…あああっ…もお…俺…もぉっ…あああ……」
「―――ああ瀬戸口…一緒に」
「ああああああっ!!!」
腰を掴まれ限界まで貫かれ、その中に注がれる液体を感じながら…瀬戸口は果てた。



月の光に照らされる、その白い肢体と。
汗に濡れる髪と、紫色の瞳が。何よりも。
何よりも綺麗でそして。そしてひどく。
ひどく儚く見えたから、きつく。

―――きつくお前を…抱きしめた……



「…痛いよ、来須……」
そんな俺にお前は微笑う。まだ快楽の消えない瞳で。
「でも君にされるなら、嫌じゃないよ」
そのまま俺を見つめて、キスをして。そして。
「…愛されてるって感じられるから……」
俺と同じくらい強い力で、俺に抱きついて来たから。





「―――ああ…その通りだ…瀬戸口……」


END

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