星のかけら

手のひらから零れ落ちる星のかけら。
そっと、零れ落ちてゆくもの。
それを指で掬って、そして抱きしめたら。

―――ひどく、切なくなった……


起こさないようにと、そっと気付かれないようにと。その髪を撫でたら、君は蒼い目を俺に向けた。
「―――起きて、いたのか?……」
突然合った視線がひどく恥ずかしくて、少し目を伏せてしまう。そんな俺にその大きな手は、そっと。そっと髪を撫でてくれて。
「ああ、お前の気配がしたから…目が醒めた」
そのまま抱きしめられて、口付けを交わす。多分ずっと。ずっと、俺はこうして欲しかったんだろう。だから真っ先に君の元へと、戻ってきた。
「どうした?…淋しいのか?……」
その言葉に答える代わりに、俺からキスをした。それだけで君は。君は俺の気持ちに分かってくれるだろうから。


時々理由のない淋しさと孤独に襲われる事がある。
ただ訳も分からずに、全てのモノが灰色に、そして。
そして世界にただ独りしかいないような孤独。
自分以外誰もいないような、孤独。
それは君と出逢う前、俺が常に感じていたものだった。

――――自分は何処にもいない。どの種類にも分類されない。属性がない。


「…お前は…時々…そうなるな……」
優しく髪を撫でる指。そっと背中を摩る手。言葉よりももっと深い場所で感じられる優しさ。それを知ってしまったら、もう二度と手放せなくなって。
「変か?でも俺…夢…見て…」
「夢?」
手放せなくなったから。この優しさに埋もれることが何よりも心地いいと知ってしまったから。だから俺は、もう二度と。
「…うん…君が…何処にもいない、夢……」
もう二度と、失いたくない。もう二度と、愛する人を失いたくない。
「―――何処にも行かないと言う言葉だけじゃ…お前には足りないんだろうな」
しあわせであればあるほどに、失う不安は増殖する。君への想いが深まれば深まるほどに、つのってゆく淋しさ。
独りでいるときよりもふたりでいるほうが淋しいなんて…君と過ごすまでは、知らなかったから。
「…駄目だな、俺は…お前の瞳から淋しさを消せないようじゃ……」
触れる、手。頬に触れる暖かな手。そのぬくもりを感じたら無償に泣きたくなった。ただ、泣きたくなった。
「君を好きでいる限りきっと…一生消えないと想う……でも…君を好きでいられるなら…一生消えなくてもいいと想う……」
「瀬戸口、俺は」
「…いいんだ、苦しくても淋しくても…君がいてくれるなら…俺は……」
「そばにいるだけで、苦しいのは…きっと俺も…」
「…来須…」
「俺も苦しい」
理由は?なんて聴くことはしなかった。しなくても伝わるものがある。それは君が自分のせいで俺をこんな気持ちにさせているからだと。でもそれをどうにも出来ない事は、君も俺も分かっていて。分かっているから、こそ。
「うん、分かってる。君の事は、一番分かってるから」
だから俺達はずっと。ずっと互いに対して優しくなれると言う事も。



栗色の柔らかい髪。そっと触れて、撫でるその髪。
そこに広がる切なさと愛しさが、ただ。ただ俺を締めつける。
お前を選んだ時点で。誰かを選んだ時点でこうなる事は分かっていた。
分かっていながらも俺はお前が欲しかった。どうしようもなく、欲しかった。
俺は、お前の全てを犠牲にしても。お前の全てを壊しても。

――――お前を俺は、連れ去ってゆく……


離せない、から。もうどうしてもお前を。
お前をこの腕から離せないから。こんなにも。
こんなにも他人を自分が愛することになるとは。
自分自身ですら、想像できなかった。



「―――お前の全てを、奪いたい」



その言葉に俺は、自分から口付けた。そのまま自分から服を脱いで、そして。そして君の手を取り、胸に重ねる。そんな俺に答えるように、君の手が俺の肌に触れた。
「…あっ……」
胸の飾りを指で嬲られて、そのまま舌で突つかれる。それだけで俺の肩はぴくんっと震えた。俺を知り尽くした指が、的確に感じる個所を責め立てて。
「…あぁっ…来須…んっ……」
胸を弄られる感触に息を乱しながら、そのままもう一度口付けた。自ら唇を開いて、舌を絡める。ぴちゃぴちゃと濡れた音を立てながら。
「…んんんっ…んん……」
金色の細い髪に指を絡めて、舌を絡め合う。その間も君の手は、ずっと。ずっと俺の胸を撫で、もう一方は身体を弄っていた。大きな手の感触が、ぞくりとするほどに俺の全身を駆け巡る。
「…んっ…んん…はぁっ……」
唇を離しても、髪に絡めた指は離さなかった。キスした後君がどんな顔をするのか見たくて目を開けたけど、何時もと表情が変わらなくてつまらなかった。何時も俺ばかりが乱れて、乱されて…君は何時も涼しい顔をしているから。
―――でもどこかでほっとしている…君が何時もと変わらないことに……
「…あっ…んっ……」
舌が俺の顎のラインをなぞった。口許から零れる唾液を拭うために。舌で液体が掬われて、そのままもう一度軽いキスをされた。こうして唇が触れ合う瞬間が、好きだった。
「…俺の事…好き?……」
「―――今更、だ」
「…うん…今更だね……」
見つめあってくすりと微笑った。君もそっと微笑った。それだけで、きっと。きっと通じると思った。通じ合っているんだと、思った。
「…俺…君がいないで苦しまないなら…君がいて苦しい方がいい……」
だから俺を、手放さないで。どんなになっても俺を捉まえていて。きっともう、俺は。俺は君が手を離したら壊れるしかないから。

―――君が与えてくれたものの代償は、君を失ったら壊れることだから……


「離さない」
「…うん……」
「離さないから」

「…だから何も、考えるな……」


濡れた指先が俺の中へと入ってくる。その感触に一瞬身体が竦んだが、快楽に慣らされた媚肉は直ぐにそれを受け入れた。淫らに蠢き、刺激を逃さないようにと締め付ける。
「…くぅっ…ん…はぁっ……」
腰を浮かして、もっととねだった。指よりも違うものが欲しかったけれど、こうして俺に負担を掛けないようにしてくれる気持ちが嬉しかったから我慢した。もどかしいほどの優しい刺激に、暴走し始める熱を抑えながら。
「…はぁぁっ…あ……」
好きだから、欲しいんだ。君だけが、欲しいんだ。他の誰と身体を重ねてもこんな刺激は得られない。君だから、全部。全部俺の中に入って欲しいって…思うんだ……。
「…来須…もう……」
目を開ければ視界がぼやけて見える。目尻から零れる涙のせいだろう。それでも君を、見上げた。こうやって君の顔を見つめて抱き合える時が一番好き。こうやって瞳を、見つめ合いながら。
「…もう…平気だから……」
「―――瀬戸口……」
髪をそっと撫でてくれる大きな手。大きくて優しい、手。誰にも渡さない。この手は俺だけのもの。誰にも渡しはしない。君は、俺だけの。
「…来いよ…君が…欲しいんだ……」
―――俺だけの、ただ独りの相手だから。


脚を開かされ、腰を抱かれて入り口に硬いものが当たる。その感触にほっとした。そしてそのまま腰を引き寄せられ、貫かれる。その硬さと熱さに、君が俺を求めていてくれると確認出来たのが。出来たのが、嬉しかった。
「…あああっ…あぁっ……」
身体を真っ二つに引き裂かれるような痛みも。その後に来る激しい熱も。狂うような快楽も、全部。全部、君が俺に与えてくれたものだから。
「…あぁ…あぁぁ…来須っ…あぁ……」
だから欲しい。もっと、もっと、欲しい。身体がばらばらになるまで貫いて欲しい。ぐちゃぐちゃになるまで犯して欲しい。君に、君だけに。
「…瀬戸口……」
「…あっ…はぁぁっ…くる…すっ……」
中を貫く楔に意識は混沌としてきたが必死に堪えて君を見上げた。やっぱりその顔はひどく涼しげで変わらない。変わらないけれど俺の中の君は激しくそして熱くて。そのギャップがひどく。ひどく俺は、欲情した。
―――君の劣情を知っているのが、自分だけだと言う事に……
「…ああっ…ああああっ……」
そして君が俺の身体を最奥まで貫いて、その瞬間俺は一瞬意識が真っ白になってそのまま達した。そしてそれと同時に君の欲望が俺の中に注ぎ込まれた……。



腕の中の熱い身体を抱きしめて。きつく、抱きしめて。
そのぬくもりを離せないと、思い知らされて。思い知った、から。
俺はどんなになろうとも、お前を連れてゆくと。

…誰に許されなくても…お前が望まなくても…俺は……



「…来須……」
「うん?」
「…絶対に俺を…離すなよ……」
「―――」
「…どんな事になっても…離すなよ…」
「ああ、離さない」


「―――絶対に離さない……」



何が正しくて、何が間違っているとか。
何が真実で、何が嘘だとか。
もうそんな事はどうでも良くて。どうでも、いい。
正しいのも間違えも、嘘も真実もどうでもいい。
ただ君が俺のそばにいてくれれば。君を手に入れることが出来れば。


―――俺はもう他に何も…望みはしない……




…永遠に消えることのない淋しさも…君が与えてくれるものならば……


END

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