魔女狩り/魔女

魔女狩り


――――何時も俺は『加害者』と言う名の『被害者』だ。


俺に圧し掛かってくる男たちは何時も決まってこう言う。
お前が悪いのだ、と。お前が誘惑するからだと。
そう何時も決まって、俺のせいだとそう言う。
お前がそんな顔をするから、とか。
お前が無意識に誘惑するから、とか。
そんなつまらないいい訳で自らの罪悪感を消して。

―――そして欲望のまま、俺を犯すんだ。


人間なんてくだらない。何時もそう、そうやって俺の身体を好き勝手して。そして自分が弱者のように振舞いながら、力と権力で俺をねじ伏せる。


…そうまるで…魔女狩りのように…俺が悪人にされる……



「諦めるんだな、こんな所に誰も来やしねーよ」
薄暗い部屋の中卑下た男の声だけが響き渡る。プレハブ校舎の中にある今は使われていない一室に、瀬戸口は連れて行かれた。両腕をロープで縛られ括り上げられて、今は。今は冷たい板張りの床の上に押し倒されている。
「へへへ、知ってんだぜ俺達…お前が軍のお偉いさん方に身体売ってるって事はよ」
数人の男たちが瀬戸口を取り囲んでいた。見覚えのあるようなないような顔が、自分を見下ろしている。どれもこれもが明らかに『欲情』した顔で。
「…俺を…どうするつもりだ?……」
言葉にしてみて瀬戸口はあまりにもバカらしいと思った。次の言葉など考えるまでもなく、決まっているだろう。こいつらの目を見れば…目的などはっきりとしている。
「どうするもこうするも…こうすんだよっ!」
目の前にいた大柄の男が瀬戸口の衣服に手を掛けると、そのままビリリと言う音と共に引き裂いた。


逃げることも、倒すことも可能だった。
逃げようと思えば幾らでも、出来た。
けれども逃げなかった。自分はわざと捕らえられた。


――――欲しいものを手に入れる為なら…俺はどんな事でも出来るから……


「や、やめろっ!!」
無数の手が身体を弄る。それを避けようと瀬戸口は身体を捩ったが、背後から抱きかかえられた男の手によってそれは封じられた。その手ががっしりと身体を抑えこみ、その間に違う男たちの手が、瀬戸口の身体に触れる。
「…やめっ!止めろっ!!……」
胸の果実を捕らえた手が、それをぎゅっと摘まんだ。痛いほどの刺激にびくんっと瀬戸口の身体が跳ねる。その反応を楽しむかのようにその指は瀬戸口の胸を弄んだ。
「…やだっ!止めろっ!!誰かっ!!……」
その間にも別の手が瀬戸口のわき腹を、鎖骨を、脚に、触れる。感じる個所を弄る手の動きに次第に瀬戸口の息が荒くなってゆく。抵抗の声も次第に甘いものへと変化してゆく。
「…やぁっ…止め…やめろっ…ぁぁ……」
いやいやと首を振りながら刺激から逃れようとするが、男たちの手は容赦がなかった。それどころか下着ごとスボンを引き降ろすと、強引に脚を開かせられて自身を眼下に曝け出された。
「口ではイヤだって言いながら…ココは感じてるみたいだぜ」
「――流石だな…お偉いさんを虜にしただけあって敏感な身体だな」
「やあっ…み、見るなっ!……」
羞恥の為に瀬戸口が脚を閉じようと力を入れるが、しっかりと固定されてそれは叶わなかった。嬲るような視線が、瀬戸口自身に注がれる。それだけで。それだけで、敏感なソレは震えながらも勃ち上がろうとしていた。
「ってコイツ勃起してるぜ…マジ感じてんだ…視線だけでよ、淫乱だなお前」
「…やだっ止めろっ!…いやぁっ!……」
ぴんっと指先が先端を弾く。それだけでどくんどくんと熱く脈打ってくるのを止められない。
「そりゃーそうでしょう…毎晩毎晩嵌めまくってんだからさ」
「…ひぁっ!……」
弾いたいた指がそのままぐいっと奥の秘孔へと突っ込まれる。乾ききった器官に侵入する異物に、瀬戸口の綺麗な顔が苦痛に歪んだ。
…けれどもその顔が、その表情が…雄達の欲望を益々火を付けて……。
「…止め…痛っ…イヤだ…抜い…っ……」
「すげーキツイな…指だけなのにこんな締めつけて…これじゃあお偉いさんを虜にするのも納得だぜ」
「…痛い…やめ…やぁぁ……」
ぐちゅぐちゅと音とともに指が瀬戸口の中を掻き乱す。液体で潤わされていない媚肉にとって指の侵入は、ただの痛みしか伴わなかった。内側を傷つけ、痛みを与えられる。ただ瀬戸口の表情は苦痛に歪むだけだった。
「おい、濡らしてやれよ…これからだってのに、ここで傷ものにしたら後が続かねーだろ?」
指を掻き乱す男とは別の男が言って来た。瀬戸口の胸をさっきからいたぶっている男だった。痛い程に張り詰めた突起を、充血するほどに摘まんでいる男。
「そうだな…先はつっかえてるしな、壊しちまったら意味ねーからな」
「…はぁっ……」
その言葉と同時に瀬戸口の中から指が引き抜かれる。それにほっとする間もなく、その指が瀬戸口自身を掴んだ。
「…ひっ!……」
握り潰されるほどの力で、自身を握られる。その刺激にソレが一瞬縮こまるほどに。けれども痛みは最初だけで、後はひたすらに瀬戸口を追いつめるように指が動かされた。
「…はぁっ…あぁぁ…やぁっ…あぁぁ……」
どくどくとすぐにそれは脈打ち、先端からは先走りの雫が零れ落ちてゆく。そのとろりとした液体が男の指を伝って、秘所へと零れていった。その様子はひどく。ひどく卑猥に男たちの目に、映って。
「…やぁぁっ…はぁぁっ…あぁ……」
「イイ顔するな…マジたまんねーよ…早くこいつをブチこみてー」
「って俺も我慢出来ねーよ、早く変われよ」
次々と頭上から浴びせられる声に、瀬戸口の身体がかああっと朱に染まる。その様子がまた廻りの男たちの欲望を煽ることになると分かっていても。分かっていても…止められない。
「待てよ、順番だぜ。俺が一番だからな」
瀬戸口のソレを弄っていた男が息を荒げながら言った。その声には醜く嫌らしい男の劣情が激しく感じられて。
「…あっ!……」
零れ落ちる液体を頼りに再び男は指を秘所へと突っ込んだ。先ほどとは違い液体お陰で幾らかスムーズに進む。ずぷずぷと音を立てながら、指が中へと入ってゆく。
「…いやぁっ…あ…止めっ…くっ…ふっ……」
押し広げられる媚肉。指の本数が増やされ、雄の欲望を受け入れられるように。何度も何度も広げさせられ…そして。
「そろそろ、イイかな?つーか俺のが限界だぜ」
指が引き剥がされ、ズボンのジッパーが外される音がする。そして脚を大きく上げられて入り口を曝されて、そこに。そこに硬いモノが当てられて。
「行くぜ、瀬戸口くん…たっぷり楽しませてくれよ」
―――そのまま一気に貫かれた。



わざと、分かるように。
ここだと、分かるように。
分かるように、俺は。

―――お前に…分かるように…わざと……



「ひあああああっ!!」



悲鳴が部屋中を埋める。けれどもそれが開放される事はなかった。凶器は容赦なく瀬戸口の中へと貫かれ、その白い太ももにどろりとした血を滴らせた。
「…いやあああっ…痛いっ…痛い…抜いっ…ああああ……」
腰を掴まれ激しく揺さぶられる。硬い楔が中を抉り、内壁を傷つけた。ぐちゅぐちゅと血と精液で接合部分が濡れた音を立てる。それが益々瀬戸口の中にいる男の欲望を煽った。
「…クッ…堪んねーな…何だよ、このキツさは…俺の引き千切れちまうぜ」
「って早く変われよ、俺もう我慢出来ねーよ」
「だったらこっちを使えよ」
「―――うぐっ!!」
顔を引き寄せられ、別の男の、剥き出しのモノが突っ込まれる。それは既に充分な硬度を持っていて、隙間なく瀬戸口の口の中を埋めた。
「…んんんっ…ふぐっ…んんんんっ!!」
上からも下からも突き上げられ瀬戸口の目尻から涙が零れ落ちた。けれどもそれは無意味な涙でしかない。この苦痛が逃れられるわけじゃない。
「俺も我慢出来ないぜ…外すぜいいか?」
「ってしゃーねぇなあ。ほら」
「――――っ!!」
腕に縛られていたロープが外される。そしてそのまま手首を掴まれ、別の男の下半身を握らされた。そのまま男は腰を揺すって、瀬戸口の手に果てようとする。
その間にも口の中に突っ込まれたソレも、貫いている肉棒も、限界を迎えている。そして。そして。


「あああああああっ!!!!」


口からソレが外されて大量の精液が顔に浴びせられる。それと同時に瀬戸口の中に熱い液体が注がれて。そして。そして手のひらに男の精液がぶちまけられた。



もう後はただ。ただひたすらに貫かれるだけ。
「…あああっ…もぉ…もぉ…許し……」
感覚がなくなるほど雄を受け入れさせられ、血と精液でぐちゃぐちゃになって。
「…ふっぐっ…んんんっ!!……」
穴と言う穴が、塞がれて。男達の精液が、身体中に浴びせられて。


――――ただ男達の公衆便所に…させられて……




魔女狩り。白いものを無理やり黒にして。
そして自分達の都合のいいように。
決して自分達が加害者にならないように。

だから、利用してやるよ。幾らでも利用してやるよ。

何でも出来るんだ、俺。
欲しいものを手に入れる為なら。
入れる為なら何でもするよ。
何だって、出来るんだ。


…ただ独り…お前を手に…入れる為ならば……


限界まで身体を貫かれ、いたぶられ、意識が遠ざかってゆく。
このまま崩れ落ちそうになりながらも、俺は堪えた。必死で堪えた。
まだ、駄目だ。まだ、駄目。お前を見るまでは。

―――お前が『ここ』に来るまでは……





ドアが開かれる音。無理やり、開かれて。
そして。そして飛び込んで来たその顔に。


その顔に俺は、微笑った。何よりもしあわせそうな顔で、微笑った。



何でもするよ、お前が手にはいるなら。
お前が手にはいるなら俺は。何だってする。


お前のその顔も、怒った顔も、驚愕に見開かれた瞳も、全部。全部俺だけのもの。



圧し掛かっていた男の体重が消滅する。
他の男達の、悲鳴のような声が聴こえてくる。
それを確認して。確認して俺は意識を手放した。



――――お前が…俺を助けてくれたことを…確認…して……




END

 



魔女


―――欲しいのは、ただひとりだけ。


このひとが、ほしい。
この人を手に入れる為ならば。
傷ついても壊れても、構わない。
どうなっても、構わない。

―――このひとを手に入れられるのなら。


どんな事でも、するよ。お前が俺だけのものになるのならば。俺はどんな事でも出来るんだから。
「―――どうしてだ?」
お前の低い微かに掠れた、声。心地好くて溶けたくなる。低く抑えられた声の中に微かに見える『感情』が。それが、何よりも俺を悦ばせる。どんな反応でも、お前が俺に関心を向けてくれた事が。どんな感情でも…俺に対するもの、ならば。
「抵抗不可力だよ」
そう言って、笑った。俺は綺麗に微笑っているだろうか?ちゃんと綺麗に微笑っている?お前の前では俺は。俺は一番綺麗な顔を、したいから。
「お前なら抵抗、出来た筈だ」
抵抗は、したよ。一応本気っぽくしたよ。だから俺の服相当ぼろぼろだし、いっぱい引き裂かれている。いかにも『強姦』されましたって分かるように…犯されたんだから。
「無理だよ、数人かがりでヤラれたんだ。幾ら俺でも」
お前の視線が全身を貫くように突き刺さる。もっと…もっと貫いてくれ。もっと俺を見て。俺だけを、見て。その蒼い瞳に映るのは…俺だけでいいんだ。
「手足、縛られたし…ほら、こんなにぼろぼろだ」
俺はわざと脚を広げてお前の前に剥き出しの自分を見せた。男たちの精液で汚れた太ももと、中から零れる血と液体を。たくさんのキスマークと、こびり付いて乾いた精液の痕を。
「―――嘘だ」
お前の手が俺の肩を掴む。思いがない力強さに俺の眉が歪んだが…でも今は。今はその強さですら俺にとっては甘美な痛みでしかない。こんなに強い感情をお前が俺に向けてくれるなら。向けてくれるならこんな身体、幾らだって男たちの慰み者になっても構わない。

俺にとってお前が全て。お前だけがいればそれでいい。

「痛いよ、来須」
好き。ああ、好き。お前だけが好き。他に何もいらない。他の人間なんてどうでもいい。お前が俺のものになってくれれば。俺だけを見てくれれば。俺はもう何も望まないんだ。
「嘘だ。お前は喜んでいる」
爪が、食い込んでる。お前の表情はほとんど変わらないけれど。変わらないけれど、でも。でもこの皮膚に食い込むような爪が。その爪が何よりもの証拠。何よりも、嬉しい。
「喜んでる訳ねーだろ?ヤローに強姦されてさ」
嬉しいよ。お前の感情が俺に向かっているから。その全てが俺に向けられているから。だから、ねえ。ねえもっと。もっと俺だけを、見て。
「それもお前に助けられるなんて、さ」
「―――笑っただろう?俺が来た時、お前は男たちに犯されながら…俺を見て微笑った」
微笑ったよ。だってお前の驚いた顔が見れたから。滅多に表情を変えないお前の、あんな顔を見れたんだから。俺は。俺はね、来須…お前の表情も全て欲しいんだ。全部、欲しいんだ。
「お前が言ったんだよ、来須」
手を、伸ばした。手首には縛られた痕が。細かな傷が。そして、すえた雄の匂いが消えない手で。その手で俺は、お前に触れる。他人の匂いなどお前に付けたくはなかったけれど、それ以上にお前に触れたい俺がいるから。
「瀬戸口」
首筋に手を廻して、剥き出しの首に口付けた。このまま噛んで血を飲み干したいけど、お前の綺麗な身体に傷跡を残すのが嫌だったから…我慢した。
「言ったよ。『お前は笑ってろ』って…お前が言ったんだ」
「――――」
「だから、微笑った」
表情は変わらない。お前が変わる事は滅多にないのだけれど。それでも今。今お前の手が俺の腰に廻された、から。もうそれだけで、俺は。
「何でもするよ、俺は。俺はお前のためならどんな事だって出来る」
首筋に指を絡めたまま舌をゆっくりと降ろした。くっきりと浮かび上がる鎖骨を舐め上げて、きつく噛む。噛んで、そして自分だけのものだと所有の痕を刻む。
「…なんでもする…お前が俺だけのものになってくれるなら…なんでもする……」
手は腰に廻されたまま、お前は俺を拒まない。ただ俺がしたいように、させる。受け入れるわけでも、拒否するわけでもなく、ただ。ただこうして俺がお前の肌に口付けて、痕を付ける事を見ているだけ。その蒼い瞳で。
「…瀬戸口お前は…」
一端唇を離して、そのままお前の唇を塞いだ。舌を忍び込ませ、自ら絡めとる。そんな俺に、お前は。
「俺を手入れる為なら全てを利用するのか?」
「するよ。俺にとってお前以外のものなんて価値のないものなんだから」
首に絡めていた指を離して、そのままお前の上着に手を掛けた。そのまま脱がして直接、その厚い胸板に触れる。指先から伝わる肉の弾力が、この感触がどうしようもなく愛しい。
「―――愛している、来須…お前だけ……」
何度もその胸を指で辿った。愛しいその胸を。その筋肉を。微かに上下する呼吸ですら、奪いたいほどに愛しい。愛しい、ひと。ただ独りの、ひと。
「お前は卑怯で、残酷だ」
愛している、お前だけを。お前だけを、愛しているから。
「いけないか?それでも俺はお前が欲しい」
それは醜いまでの執着心と独占欲。ただひたすらに剥き出しの想い。俺のただひとつの想い。そんな俺にお前の手が俺の手首を乱暴に掴み。そして。
「―――それでも俺は…お前を…」
そしてその先の科白をお前が告げる前に…いや言葉を飲み込み、俺の唇が塞がれた。


欲しいものはお前だけ。
お前だけが、いればいい。
お前だけが、在ればいい。
他に何も望まないから。他に何もいらないから。

―――お前がいれば、世界すら滅びてもいい……



乱暴にその場に押し倒された。俺の着ていた服の残骸が残っているこの場所で。俺が輪されたこの場所で。俺の血と、男たちの精液が充満しているこの場所で。
「お前は、卑怯だ」
手が、俺の身体を弄る。男たちが付けた痕をその指が辿ってゆく。それだけで、俺は。お前が意識的にそこに触れているという事が。
「…どうして?…」
指先が、辿る。俺の身体を、辿ってゆく。大きくて強くて、でもしなやかな指先。大好きなお前の指。大好きなお前の指先。ずっと、触れていて。
「一番効果的な方法で、俺を傷つける」
「だってそうしなければ…お前の全部なんて、手に入らない」
背中に手を廻す。大きな、背中。広くて強くて逞しい、その背中。この背中が全てを護る。世界の全てをこの背中が、護る。俺以外の全ても、護る。

―――それが嫌だと言っても…お前にはきっと理解出来ないだろうね……

「好きなんだ、お前が。初めて逢った時から、ずっと。ずっとお前だけが欲しかった。お前が見せる何気ない優しさが…他に向けられるのがイヤなんだ」
「―――瀬戸口」
「イヤなんだ…お前が…誰にでも…優しいのが……」
それ以上お前は何も言わなかった。お前はその先を決していう事はしないだろう。優しいお前だけから、決してその先は。でも。でもね。
でもそれが何よりも俺を傷つけているって…お前にはきっと分からないんだろうね。
「…あっ……」
止まっていた指先が再開される。俺の肌を滑る滑らかな愛撫。こんな時ですらお前は優しく俺を扱う。どんな時でもお前は俺を優しく抱く。その優しさが嬉しく切ない。
「…はぁ…ん…」
俺の身体を知り尽くした指先。お前は俺の事を全て知っているけど、全てを理解していない。誰よりも俺を分かっているのに、誰よりも俺を分からない。俺の傷も痛みも、心の歪も全て分かっているのに…俺が一番欲しいものだけが、分かっていない。
「…あぁ…あ…」
激しく抱いて欲しい。想いのまま、我を忘れるくらいに。―――違う、我を忘れるくらいに俺を抱くお前が見たいんだ。どんな時でも、どんなに俺が追い詰めてもお前は。お前はこうして最後の理性を捨てることはない。どんなになっても俺を優しく抱く、から。
「―――あっ!」
俺自身へと絡みつく指先。やんわりと包み込んだかと思うと、力任せに掴んだりして強弱を付けて俺を翻弄する。予想のつかない刺激に、俺は乱されてゆく。
「…あぁ…はぁ…ん」
溶かされ溺れて乱れてゆく。もっと深い場所に行きたくて、俺は腰をお前に押し付け、もっと深い愛撫をねだった。欲しい、から。お前が、欲しいから。お前から与えられるものならどんなものでも欲しい。全てを飲み干し、食らい尽くしたい。
「…あぁ…あぁぁ……」
先端を抉るように爪を立てられ、側面をなで上げられる。意識すら欲望へとすり替えられてしまう、その饒舌な指先。翻弄され、堕ちてゆく、その指先に。
「…見た…い…な…俺……」
「…瀬戸口?……」
声が降ってくる。もっと聴きたい。もっと、もっと、聴きたい。もっと俺の名前、呼んで。
「…お前の…傷ついた瞳…見たいな……」
背中にきつくしがみ付いた。誰にも渡せない。それは、独占欲よりも醜い所有欲。誰にも譲れない人。誰にも、お前を。
「…見たい……ああっ!」
最奥にその指が突っ込まれる。男たちの吐き出したものが残っている、ソコに。
「―――今お前を抱いたら、他の男の匂いがするんだろうな」
「…いたぁ…やぁ……」
初めて。初めて、お前の指先が乱暴に俺の中を掻き乱した。中に乾いてこびり付いた精液を、内壁から剥がすように。乱暴に俺の中を、掻き乱す。
「…やぁっ…あぁんっ……」
嬉し、かった。嬉しくて、どうしようもなくて。お前が。お前が初めて、見せてくれたものだから。お前が初めて、俺に。俺にこうやって…。
「見ろ、瀬戸口。お前が望んだものだ」
「…あぁ…あ…来…須……」
目を、開いた。視界が微かに潤む。それでも目を開いて、お前の瞳を見つめた。その蒼い、瞳を。俺が欲しかった瞳を。

―――噛みついて、食べてしまいたい。そうしたらこの瞳は永遠に俺だけのもの。

「――満足か?」
「…来須…来須…来…須……」
震える指先でお前の髪に触れる。その髪に、触れる。掴んで引き寄せて、そのまま唇を奪った。舌を伸ばして、お前のそれをねだった。
「…ん…んん……」
答えてくれる、舌。俺の舌を根元から吸い上げ、そして絡め取る。ぴちゃぴちゃと淫らな音が室内を埋めて。その音が俺の耳に響くように届いて。
「…はぁ…んっ……あぁ…来須……」
唇を離して、お前の顔を見上げた。綺麗なお前の、顔。大好きなお前の顔。お前の名の付くものならば、俺は全てが愛しいんだ。全てが欲しいんだ。
「…くる…す…俺だけの……」
俺の中を弄る指。媚肉を掻き分け、乱暴に抉る指。何度も男の欲望を受け入れさせられたソコは、傷つき引き裂かれている。それでも。それでも血を流しながらも、お前を求めるのは止められない。塞がりかけた傷口が開いて血を流しても、お前を求めるのを止められない。
「…俺だけの…もの……」
もう一度髪を掴んで、引き寄せ唇を奪った。お前の全てが欲しかったから、その唇を奪った。


「――――ああああっ!!!」


粘膜が引き裂かれる音とともに、お前の熱い塊が俺の中へと入って来た。その途端に軋んだ内壁が耐えきれずに血を流す。それでも俺はお前を放さなかった。脚を腰に絡めて、お前の背中に手を廻して、離れないようにしがみ付いた。
「…あっあっ…あぁぁ……」
―――血が、洗い流してくれるから。他の男の精液を全部。だから。だから埋めて。お前だけで、お前の匂いだけで、お前の熱さだけで、埋めて。
「…来須…来須…あああんっ!」
縛りつけて、繋ぎ止めて。がんじからめにして。その為なら俺、幾らでも他の男に抱かれるよ。お前が俺を閉じ込めてくれるまで。お前が俺を…お前だけのものにしてくれるまで。
「どうしてお前は」
「…あっ…あぁっ…あぁぁ……」
「こんな愛し方しか、知らないのか?」
うん、知らない。他の愛し方なんて、知らない。だってそうしなければ、逃げてゆく。俺が過去愛したただ独りの女は、優しくし他がゆえに永遠に失った。時と死が、俺からそれを奪っていったから。だからもう二度と。もう二度と、俺は愛した人を失いたくない。失う前に、俺を。俺を支配して、閉じ込めて。そして。そして誰にも見せないで。
「…来須…ああっ…くる…す…俺だけの…あぁっ……」
「哀しいな、お前は」
「…あぁぁっ…あぁ…もう…俺…はぁっ……」
「純粋過ぎて、残酷だ」
「ああああっ!!!」
深く突き上げられ、視界が真っ白になる。その瞬間、俺の中に熱い液体が注がれ、そして俺も果てた。



好き。お前だけが、好き。他に何もいらない。
何もいらないんだ。お前が俺の全てを、満たして。
俺の全てがお前で満たされて。そして。
そして何もかもを、全てが俺に注ぎ込まれたならば。



「…好き…来須……」
繋がった個所は、離さない。このまま。
「…お前だけが…好き……」
このまま飲み込んで、全てを奪って。
「…誰にも渡さない…お前だけは……」
全てを、奪えたならば。


――――身体の境界線が、このまま曖昧になったならば……



繰り返し囁かれる、想い。
何度も何度も告げられる想い。
終わることなき螺旋の中で。
永遠の、迷路の中で。




「―――それでも俺は…お前を拒めない…瀬戸口…それは俺の罪なのか?」


END

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