媚薬・2

甘い媚薬。禁断の、箱。その箱を開けてしまったなら。
そしてそれを味わってしまったなら。後はただ。
ただこうして堕ちてゆくだけ。堕落してゆくだけ。


―――注がれる甘い媚薬、その中に含まれる毒にまだ気付かずに……



「…はぁはぁ…」


室内を満たすのは、荒い息のみだけだった。濡れた音と、荒い息のみ。それだけがこの部屋の全てになる。
瀬戸口の白い肢体には無数の所有の痕が付けられ、そして細い足には自分の物とも誰の物とも分からない、白い液体が伝っていた。

―――それが、もうすでに日常の中に組み込まれていた……


「どうだ、瀬戸口?まだ身体の疼きが収まらんのだろう」
舐め廻すような視線を送りながら若宮が言う。しかしもう瀬戸口の耳にはその言葉など入ってはいなかった。ふたりの手によってたっぷりといたぶられた身体が、瞼を開けることすら億劫に思えてきて。
「まあいいですよ。時間はまだありますからね」
ちらりと善行の視線が上へと移る。司令室に掛けられた時計はまだ午前零時を廻る少し前だった。
―――こんな真夜中にここに来る人間は皆無だろう。まして司令室には鍵を掛けてある。
「まだたっぷりと、楽しめますよ…瀬戸口くん…」
そう言って善行は瀬戸口を自分の許へ引き寄せると、後ろから抱き抱え、司令室の自らの机の上に座った。
「いい格好ですよ、瀬戸口くん。恥ずかしい所が丸見えですよ、ねえ若宮」
「ああ、お前のソコが丸見えだぞ」
こんな羞恥の言葉も、今更だった。麻痺した感覚にはもう言葉としてそれは認識されない。ただ『声』として耳に届くだけで。
「まだひくひくと、蠢いて、な」
いかにも楽しそうに若宮は言うと、そのまま瀬戸口の目の前にしゃがみこんだ。


あの日以来、ことある事にこの二人に呼び出され、そして陵辱を受け続けている。自分がもう一度士魂号に乗れば…そうすれば開放される事は分かっている。分かっていても、それでも。それでも自分はもう二度と乗りたくはなかったから、頑なに首を横に振り続けた。そして、自分は。


「…は…あ…ぁぁ……」
善行の指が瀬戸口の両方の紅い突起を摘む。痛い程はりつめたそれは、触れるだけで瀬戸口の性感帯を意地悪く、刺激する。
「本当に敏感なのですね」
善行の唇が瀬戸口の耳たぶを軽く噛む。ぴちゃぴちゃと淫らで濡れた音が響き、その音がまた瀬戸口の身体に快楽の火種を植え付ける。
「ここも敏感なんだよな、瀬戸口」
「あぁぁっ…ん…っ……」
若宮の口が瀬戸口自身を咥え込む。何度も果てさせられた筈のそれは、たちまちその生暖かい口中によって勃ち上がろうとしている。
「…や…ぁぁ…ん…」
最も敏感な場所を同時に攻められ、神経が麻痺してゆく。全ての抵抗を奪われ、ただ。ただ欲望の赴くままに、身体が。
「舐めるだけでもう、こんなになるとはな」
若宮は瀬戸口自身から唇を離すとそのまま脚を大きく開かせ、欲望に忠実なそれを外界に曝け出させる。
「…あっ……」
熱を帯びたソレに冷たい空気が触れる。それだけで瀬戸口の敏感なソコは小刻みに震え、脈を打ち始めた。
「悪趣味ですね、若宮」
善行は瀬戸口の身体のラインに指を淫らに絡みつけながら、笑う。時々的を得たようにぴくんっと反応する個所を重点的に攻めながら。
「まるで俺たちを、挑発してるみたいだ」
「挑発、ですか」
「ああっ!」
善行は言ったと同時に瀬戸口自身を扱き上げる。すると限界まで昇りつめていたそれは、すぐに白い蜜を零し始めた。
「…はぁぁ…は…ん……」
鼻にかかる甘い、声。その声を聞くだけで欲情してしまう程の、淫らで官能的でどこまでも妖しい声。
「瀬戸口くん、貴方が汚した指ですよ。ちゃんと始末してくださいね」
善行が濡れた指を瀬戸口の口内に突っ込む。ただ瀬戸口は、言われた通りその指を舐め始めた。
「…ん…あっ……ふっ…ん……」
ぴちゃぴちゃと音を立てながら指を舐め続けるその表情は、背筋がゾクッとする程、妖艶でセクシーだった。淫らで、綺麗だった。
「これなら男も狂わす事が出来るだろうな。軍が手放したくないのも理解出来る」
「相当仕込まれたのでしょうね…貴方は……」
「ああっ!」
何の前触れもなしに瀬戸口の秘所に若宮の指が入ってくる。ずぷりと、濡れた音を立てながら。
「くうっ…んっ……」
「本当に貴方はイイ声で鳴きますね。私の方が、手放せなくなる」
「…は…ぁ…はあ…ん…っ…」
「指令…俺も…こいつを手放したくはないです」
その若宮の言葉に熱いものが込められるのを、瀬戸口は感じた。遠ざかってゆく意識の中で、それだけを感じた。そして。
「―――はあぁぁっ!」
若宮の指が二本に増やされる。その進入する感触に瀬戸口は、背筋がぞくぞくするのを抑えきれない。
「瀬戸口、お前は本当に淫乱でどうしようもない奴だな。こんなにも俺の指を締めつける。これではちぎれてしまう」
「…ひぁっ…あぁ…」
両方の指が瀬戸口の内部で勝手に動き始める。何度もいたぶられ傷つけられた部分に指が擦れると、そのたびにその口からは、悲痛が上がる。
「本当ですね」
善行の指が瀬戸口の両方の、胸の突起を弄ぶ。押したり摘んだり。巧みにその意識を溶かしていき、若宮の指の侵入をスムーズにしていく。
「若宮、そろそろ…いいですか?」
「はい、指令」
「…あぁぁん……」
急に指が引き抜かれ侵入物が、瀬戸口の内部から無くなる。刺激物が無くなってしまった今、身体の芯から疼くのを止められない。
「瀬戸口もココに何かが入っていないと淋しそうですよ、指令」
その言葉に善行はひとつ笑うと、その身体から手を離し瀬戸口に獣の態勢を取らせる。腰を上げ一番恥ずかしい場所が丸見えになる態勢を。
「もっと腰を上げろ、瀬戸口。よく見えるようにな」
瀬戸口は若宮の言われた通りに腰を上げて、善行にその個所を見えるようにした。もうそこに意思は何もなかった。ただ命じられてままに、男たちに命じられたままに…。
「素直ですね、瀬戸口くん。そのくらい素直なら『はい』と言ってくれてもいいのに」
瀬戸口の双丘を掴んで、密所を開かせる。秘密を全て暴露させられる、恥ずかしい恰好を取らされても、言葉に素直に従う。
「あまり泣かせてもかわいそうですからね」
善行の舌が瀬戸口の密所に滑り込む。尖らせた舌でその秘密を暴いていく。舌で突つくたびにどろりとした精液がソコから零れてきた。それが足許に伝い、より一層瀬戸口を淫らに見せる。
「…ぁぁ…あん……」
ぴちゃぴちゃと濡れた音が瀬戸口の耳に届く。その音にすら、この身体は反応した。敏感になった身体は、その音にすら。
「は…あ…んっ」
若宮が瀬戸口の顎を捕らえ唇を塞ぐ。歯列を割って生き物のような舌が、侵入してくる。
「…ん…ふぅ……」
舌を絡めたり後ろを舐めたり、根本を吸い上げたり。激しく貪るような口づけのせいで、飲みきれない唾液が口元を伝う。その濡れた感触が却って瀬戸口の性感帯を刺激し、狂わせていく。
「…はぁぁ……」
その両腕はその激しさに耐えられず、崩れ落ちていく。唇は開放されたが、それはより腰を突き上げる淫らな恰好になるだけだった。
「…あっ…あぁ……」
善行の舌が瀬戸口のそこから離れる。そして腰がその手によって固定されて。固定され、その入り口に堅いモノがあたる。その瞬間びくっと瀬戸口の身体が震えた。それが何であるかはイヤというほど分かっている。これから何をされるかもイヤというほどに分かっている。けれども長い間に植え付けられた、この恐怖が身体から拭われることはなかった。

「ああああ――――っ!!」

善行は一気に瀬戸口の内部を貫いた。その身体を二つに割るような激しさと激痛が、瀬戸口を襲う。今日何度目かの侵入は瀬戸口の媚肉に、限界を与えるだけでしかなかった。粘膜が破られて、どろりと血が伝う。
「…いっ、いた…あっあっあっ」
「本当に貴方は…まるで処女を犯している気分ですよ」
「こんなに咥えていても、出血するほどの狭さだからな」
指先が瀬戸口の背骨のラインをなぞってゆく。その感触に答えるように内部に存在する善行を瀬戸口の内壁は締めつけた。
「―――凄いですよ、瀬戸口くん。このままでもイッてしまいそうです」
淫らに絡みつく内部に善行は満足げに声を上げる。その声は明らかに快楽の色が含まれ、そして。そして中の楔も声と同時に激しく快楽を主張した。
「俺もイカせてくれ、瀬戸口」
若宮の大きな手が瀬戸口の顎を捉えると、そのまま顔を自分に向けさた。そして充分にそそり立つ自身を、その口の中に突っ込ませた。
「――――んっんっんっ!!」
上からも下からも攻められて瀬戸口の意識は、今にも失われようとしている。しかし皮肉にも彼を止めていたのも又、その突き上げる刺激だった。
善行の手が瀬戸口自身に絡みつく。愛撫を施すとたちまちにそれは張り詰める。
「そろそろ、いいですか?若宮」
「ああ。こっちも抑えるのはもう限界だ」
「いきますよ、瀬戸口くん」
「―――――っ!!!!」
善行は耳元でそう囁くと最大に張り詰めたソレで、瀬戸口の最奥まで貫いた。



媚薬、甘い、媚薬。
そっと忍び込み、そして。
そして、注がれる。
注がれる、甘いもの。
蕩けて、犯される甘い痛み。



「意識を失いましたか」
善行は自身を瀬戸口の中から引き抜くと、その場に崩れ落ちたその身体を抱き止めた。そして、そのまま若宮にその身体を渡す。
「私はそろそろ戻らねばなりません…後を頼みますよ」
「はい、指令」
善行は乱れた衣服を手早く直すと、若宮に告げてその場を去る。一度だけ瀬戸口の髪を、撫でてから。
「―――瀬戸口……」
若宮は善行がいなくなったのを確認し、腕の中の彼へと視線を移す。そっと、その顔を見つめる。
柔らかい栗色の髪。今は閉じられているが、世の中にある綺麗な色だけを閉じ込めた紫色の瞳。透明に透けてしまう程の白い肌。強い力で抱き締めたら壊れてしまいそうな、華奢で細い肩。細くしなやかな手首、足。それ全てで男を誘い、惑わす。
「指令の命令とはいえ…俺は……」
若宮の瀬戸口を見る瞳がひどく、切なくなる。そして。そして、そっと。そっとその身体を、抱きしめて。抱きしめ、て。
「…俺は何時しか…お前を……」
動かない唇にそっと。そっと、自らのそれを、押し当てた。



―――――それを瀬戸口は、うっすらと瞳を開けて、見ていた。



END

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