EYE・DOLL・1

―――神様どうか、あのひとをしあわせにしてください。


何も、いらないから。何も望まないから。
どうか微笑ってください。ずっと、微笑っていてください。
貴方が微笑えば、俺がしあわせ。
貴方がしあわせでいてくれれば、俺もしあわせ。
そんな貴方をずっと。ずっと俺は見ていたいから。

…貴方の優しい笑顔を…ずっと…見ていたいから……






俺はいわゆる『出来損ない』です。出来損ないのクローンです。俺のオリジナルは先ほどの戦いで死んだそうです。その死体のかけらを取って作ったのが俺だそうです。俺を作った人―――速水…って名前の人が言いました。その人が言いました。

『君はある人の笑顔を作るために生まれたんだ』と。

その為に俺は作られたそうです。その為に俺はこうしてこの地上に生まれてきたそうです。だから俺はその人の為に生まれてきました。その人の為にこの命があります。俺が生まれてきた理由も、俺がこうして生きている理由もその為です。
それが嫌だと言う事はありません。所詮クローンですから『自分の意思』なんてものは関係ありません。人間ではないのですから、自由も主張も持ってはいけないのです。
だから俺はその為だけに、こうして生きているのです。



「よく出来ているよ…瀬戸口くんにそっくりに…自分でもよくやったと思うな」
長細いガラス管の中から出て来た俺は、まだ生まれたばかりで何一つ分かっていませんでした。ただ目の前のひどく綺麗な男の人が、俺を作ったと言う事だけは分かりました。
「…ただ紫色の瞳だけが…少し失敗かな?」
白い指先が俺の髪に触れ、そして頬を滑りそのまま口付けられました。冷たい唇の感触がひどくリアルに感じて睫毛を揺らして。
「もう少し瀬戸口くんの瞳は、複雑な色をしていた」
手が俺の身体を滑ってゆきます。裸の胸に、わき腹に、その手が触れます。管から出て来たばかりの俺の身体は薬品で濡れていて、指が触れるたびに雫がぽたりと床に落ちてゆきます。
「…あっ……」
腰を引き寄せられそのまま脚を割られ、剥き出しの自身に指を触れられて…俺は耐え切れずに口から甘い息を零しました。今思えば生まれて初めて俺が出した声が、これでした。
「感度は、悪くないね…ってまあオリジナルは抜群だったからね。君もちゃんと男を悦ばす身体に仕込んであげないとね」
「…はぁっ…あ……」
指が自身を包みこみ、そのまま何度も嬲られて。そして耐えきれずにその指に白濁した液体を流し込んで。けれどもそれで終わりでは、ありませんでした。
「瀬戸口くんずっとね、僕は君が欲しかったんだ。けれども君は『あのひと』以外見ていなかったし…所詮君もあの人の元へとね、送る事になるんだけど」
「…あっ!……」
前を嬲っていた指が後ろに廻ると、そのまま最奥に指を廻されて。そしてぐちゃぐちゃと中を掻き乱されて。
「…くふっ…はぁっ…やっ……」
「どうせなら、君を穢してから…送りたいんだ…せめて『本物』を手に入れられなかった代償にね…それが『あのひと』への…復讐だよ」
言っている意味がよく分かりませんでした。考えようと、思考を纏めようとする前に、中の指が俺の内壁を抉り、思考を閉ざさせて。何度も何度も中を抉る指先が。

ただ分かっているのが俺が『瀬戸口』という人のクローンで…そして『あのひと』を思っていたのだという事…。

床にうつ伏せにされて、指とは比べものにならないものが俺の中に突き入れられて。その激しい痛みに意識が飛ばされて。それでも中を抉る熱いものが、何度も貫く楔が、途切れそうになる意識を呼び戻して。そして。そして何度も俺の中に精液が注がれて、そして俺もその手で何度もイカされて。
やっとの事で開放されたと思った瞬間、床は俺の血と注がれた精液でぐちゃぐちゃに汚れていました……。


それからしばらくは『速水』の俺は性欲処理の道具にされていました。俺には逆らう権利はありません。俺を作った人の命令に逆らうことは許されません。この行為が嫌だとかどういう意味を持つのか、そんな事を考える前に俺は。俺は先に身体で教え込まれて。何時しか自分から腰を振るようになってました。自分からソレを求めるようになってました。
そのたびに『速水』は言います。名前を呼べと、僕の名前を呼んで、と。
俺は命じられたままその通りにしました。それ以外に俺に選択権はないのです。俺には何もないのです。

―――『あのひと』に逢いたいと、思いました。名前も顔も知らないその人に、逢いたいと。


「瀬戸口くん、君はね。あのひとを微笑わせる為に生まれてきたんだよ」
欲望を吐き出されても、身体は繋がったままで。少しでも動けば、俺の口からは甘い息が零れずにはいられなくて。それでも俺の身体が開放される事はありません。
「…あのひと?……」
何時も会話に出てくる『あのひと』。名前すら知らないそのひと。俺のオリジナルはそのひとを愛していたのだと言いました。だから『速水』は手に入れることが出来なかったのだと。
「そう、君が唯一愛したあの人だよ…僕にとっては憎むべき人だけれどね…。でも君の遺言が、そうだったから…」
「…俺は…オリジナルでは…ありません……」
「それでもやっぱり君は瀬戸口くんなんだよ。例えクローンでも…君の心の中には瀬戸口くんがいる…。だから僕が君を抱いても、君は決して僕のものにはららない」
「…速水……」
「その表情まで…やっぱり君だ…君は必ずあのひとに恋をするよ…間違えなく…それが君が瀬戸口くんである証なのだから……」
何も言えない俺に『速水』はキスをしてきました。何時もの強引なキスとは違うひどく優しい口付けを。その瞬間何故か。何故か胸がちくりと、痛みました。
「君の最期の言葉を聴いたのは僕だ…君の死に逝く言葉…教えてあげるね、今日が…最後だから……」
そう言って微笑った『速水』の顔は、俺が今まで見たことのない顔、でした。



真っ白な雪が、全てを連れ去ってゆく。
降り積もる雪だけが、全てを。全てを連れ去ってゆく。
ただひとつの想いを乗せて、そっと。

そっと、すべてを、つれさってゆく。


綺麗な白い雪の中でお前が微笑った。ひどく子供のような顔で、微笑った。
『お前の頬、冷たい』
そう言って触れるお前の指先の方がずっと。ずっと、冷たかったのに。
『冷たいけど、こうやってれば暖かくなるよな』
猫のようにくるくると表情が変わる紫色の瞳が。今は。今は子供のように。
『もっと違う方法で暖めてくれないのか?』
子供のような無邪気な瞳になったかと思えば…今俺の言葉に耳まで真っ赤にして。
『バカっ!お前何言って……』
そう反撃をしながらも腕を広げれば、滑り込んで来る細い肢体が。
『―――この方が、暖かいだろう?』
『…バカ……』
――――何よりも、愛しい。


何かを願い、何かを望み。
何かを手に入れ。そして。
そして何かを、失い。


…こうして手のひらに残ったものは…一体何だったのだろうか……




「外、雪が降っているね」
君をずっと愛していたよ。君だけをずっと思っていたよ、瀬戸口くん。君の瞳が誰を映していても、僕はずっと君だけが欲しかった。
「…速水……」
見つめる紫色の瞳。僕の知っている瞳とは少しだけ違うけれど。でもやっぱりそれは君のものなんだ。君だけのものなんだ。例えクローンであろうとも、君は君なんだ。
「いいね、分かっているね。君はここに行くんだ…そして」
手のひらに一枚の地図を乗せる。でも君はきっと。きっとこの地図など見なくても無意識にその脚で辿り着けるだろう。ずっと君が通い続けていたこのマンションへと。
「そして『彼』に逢うんだ。それが君のすべき事…君が作られた意味……」
「…俺は…速水……」
「言葉遣い、変えた方がいいよ。瀬戸口くんはもっと口が悪かった。君は完璧に『瀬戸口くん』になるんだよ。それしか君が生きる道はない」
「俺は『瀬戸口』でなければ、いらない存在?」
「違う、君自身が瀬戸口くんなんだ。そうでなければ君はただの失敗作だ…また作らなければならない」
何度も君を作って来た。思考錯誤を繰り返し、そしてやっと。やっと君が生まれた。やっと君の心を取り込むことが出来たクローンを。その記憶を、埋め込んだクローンを。

―――後は彼に逢って…君の記憶が…同化する事が出来たならば……

「君があのひとを微笑わせるんだ…それが君の生まれた意味」
愛しているよ、ずっと。ずっと君だけを愛しているんだ。もしも君の最後の言葉がなかったら、僕は。僕は君を決してあのひとの元へと送ろうとはしなかった。ずっと僕の腕の中に閉じ込めるつもりだった。でも、それでも何時かは。

―――何時かは君は…あのひとを求めるのだろうね……

「…もしも笑わせられなかったら?……」
「また君をもう一度作るだけ。何度もクローンを作り続けるだけ」
「…使い捨て、なんだ……」
「そうだよ、君達クローンに意思も権利もない。ただ言われた通りにするだけだ」
それでも君の中に埋め込まれた記憶が、きっと。きっと君を別の場所へと連れ去ってゆくのだろう。クローンとしてではない、別の場所へと。
「分かりました…速水…いえ…マスター……」
「その呼び方は嫌いだ。君には速水と呼んで欲しい…あの頃のように」
「…はい…速水……」
クローンのさだめ。人間に逆らうことの出来ないようにプログラムされて。決して逆らうことが、出来ないように。あれだけ君を欲望の玩具にしても、順応であり続ける君。

―――それを壊すことすら…僕には出来なかったんだ……

本当の君ならば決して僕に屈指はしない。どんなになろうとも、その紫色の瞳は僕を拒絶し、そして僕の自由にはされはしないだろう。
でもそんな君を僕の手では暴き出すことすら、出来なかった。意味は僕のもとにいる限り永遠に『クローン』のままでしかない。
「それでいい。君は、自分の存在意味を忘れなければいい…さよならだ、瀬戸口くん」
「…速水……」
少しだけ驚いたように見開かれる瞳。君のそんな顔が見れただけでも…君を作ったかいがあったよ。絶対にそんな顔を僕には見せてはくれなかったからね。君の、剥き出しの感情なんて。
「さようなら、瀬戸口くん…君を僕はずっと……」
その先は、言わなかった。言った事でどうにもならない事は分かっていたし…君に僕の言葉は不必要でしかないから。でもね、愛していたのは本当だよ。



―――さようなら…と、言葉に出そうとして、俺は最期まで言えませんでした。何故か喉の奥に言葉が詰まって。詰まって、そして。そしてそのまま声が飲みこまれて行って。


…俺はただ。ただ去ってゆく後姿を…見つめることしか、出来ませんでした……。





…そばに…いたい……


腕の中、抱き止める身体が冷たくなってゆくのが分かる。それでも僕にはもうどうする事も出来ない。僕にはどうする事も、出来ない。
ただ消えゆく命をこうして見届けるしか、僕には出来なかった。


…ずっと…そばに………


君を抱いているのが僕じゃなかったら、よかったね。あのひとだったら、良かったね。そうしたら君の言葉を直接伝えることが出来るから。君が言いたかった唯一の人に。


―――君がただ独り…告げたかった…相手に……


END

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