もしもひとつだけ、願いが叶うのならば。
ひとつだけ、願いを叶えてくれるのならば。
――――それはただひとつだけ。貴方の、しあわせを祈る。
これは、何?これは、誰の記憶?流れてくるこの、不快感とそして恐怖。
『止めろっ!離せっ!!』
手が、伸びてくる。そして乱暴に服を破いて。そして。そして唇が、手が、身体を滑ってゆく。その感触はただの不快感と嫌悪でしかない。そこに快楽など見出せる筈もなく。
『…止め…誰か助けっ……』
脚を割られ、乾ききった器官に無理やり指を捩じ込まれ。そのまま抉られて。口も塞がれ、手も汚され。そして指とは比べものにならないソレが入り口に当てられて。
『…助け…てくれっ……す……』
それでも必死になって、堪えようとして。堪えようとして、それでも。それでも口から零れた名前が。その、名前が。
――――口から零れた…ただひとつの名前が……
シャツを引き裂かれ、冷たい手が剥き出しになった肌に触れてきました。その感触はただ。ただひたすらに気持ち悪くて。
「可愛いなぁ…胸なんていらねーよなぁ」
耳に掛かる声と息がねっとりと絡み付いて吐きそうになりました。けれどもそうする前に胸を指で摘ままれて、嫌な筈なのに口から零れる声は。
「…やだっ…やめっ…あっ……」
「声も可愛いなあ、こっちはどうかな?」
「―――あっ!」
後ろから抱かれている男はひたすらに俺の胸の突起を嬲り続け、前にいる男は…俺のズボンのベルトを外すと、そのまま腰まで下着ごとズボンを引き降ろしました。そして。そして寒さと恐怖で縮こまっている俺自身に指で触れて。
「…やぁぁ…あぁ…やめ…てっ…あ……」
心は嫌なのに、嫌悪感しかないのに、それでも快楽に慣らされた身体は反応を寄越しました。首を左右に振って必死に耐えても…俺の身体は正直でした。
胸は痛い程に張り詰め、そして指で嬲られた自身は形を変化させ…そして。
「…んっ…んんっ!」
前にいた男が俺の顎に手を掛けるとそのまま唇を吸われました。口の中に男の舌が入ってきて、俺は耐えきれずにその舌を噛みました。
「―――っ!こいつっ!」
「あっ!!」
そのお陰で唇は開放されたが、その代わりに顔を殴られた。そして背後の男から俺を離すと、そのままベンチの上に投げ落とされた。
「ってせっかく人が優しくしてやってのに…いい度胸じゃねーかよ」
「…止めて…ください…こんな事は…俺は……あっ!」
髪を掴まれ、そのまま男は自らのジーパンのファスナーを外すと、そのまま自身を取りだし俺の口に突っ込んで。そして。
「噛んだら殺すかんな、ちゃんとしゃぶれよ」
「んんんっ…んんんっ!」
「大丈夫噛めねーようにしてやるよ」
「んんっ!!」
もう一人の男が俺の背後に廻って、もう一度俺自身に指を這わしました。先ほどよりも乱暴に、そして性急に俺を追い上げる指先が。その、指先が。
「―――んっ!!!」
そして寸での所で…後もう少しでイケそうな所で…俺の先端は指先で塞がれて。そして。
「止めてやったぜ、イキたかったらな…こいつのをちゃんとしゃぶるんだ。そうしたらイカせてやるぜ」
「そういう事だ…気合入れて舐めろよな、ほら」
「ふぐっ!!」
髪を掴まれたまま強引に腰を突き出し、大きな俺のソレが喉の奥まで侵略してきました。その大きさに咽かえりそうになりながらも、それでも俺が開放される事はありませんでした。口は塞がれ、自身は先端を塞がれ。俺が今この状態から逃れる為には、この口の中のソレをイカせるしかなくて。それ以外この状態からは逃れる方法はなくて。
「…んっ…ふっ…んんん……」
「そうだよ。最初からそうしていればいいんだよ…」
俺は速水に教えられた通りに…この身体に教え込まれた通りに…舌を使い始めて……。
「…つーか…コイツ…すげー上手いぜ…男…知ってんだろう?」
「…ん…んんん…ふっ……」
「そんな上手いなら次は俺にもやってもらおうかねぇ」
「…マジ…イイ…堪んねー……」
名前、知らないから。名前を呼べなくて。
でももしも呼んだとしても。貴方を呼んだとしても。
それは迷惑でしかないから。迷惑にしか…ならないから…。
――――これは自業自得…貴方の言葉に従わなかった俺が引き起こしたこと……
口の中に熱くて生臭い液体が大量に注がれる。
でもこれで終わりではない事は、分かっていた。
何度も速水に教え込まれた事で嫌がおうでもその事を。
その事を俺は、知っていたから。
何時しか外の雪は止んでいた。音が聴こえなくなって、そして空にはぽっかりと月が浮かんでいた。月は、ひどくお前を思い出させる。それが苦しい。
「…俺はずっとお前に…捕らわれたままだな……」
繰り返しお前が俺に告げていた言葉―――俺の全てが、欲しい…と。全部自分だけのものにしたいと、誰にも渡したくないと。その為なら何でもするよ、と。
死を以ってしてお前は俺を手に入れたのだろうか?自らの死と引き換えに俺を手に入れたのか?
…いや…それだけは…ありえない……
お前なら死をもって俺と離れるくらいなら…どんなになろうとも俺のそばにいる手段を選ぶだろう。どんなになろうとも俺のそばに。俺の、そばに?
―――どんなになろうとも…俺の…そばに……?
「…まさか……」
まさかそんな筈はない。そんな筈はない。けれども。けれどもお前の最後の言葉を聴いたのは速水だ。速水だけが…お前の最後の言葉を…知っている。まさか…お前、は?
『俺は…貴方に逢う為に…生まれてきました……』
気が付いた時には、俺は。俺は外に飛び出していた。何も考えられなかった。いや違う、考える前に脚が動いていた。考える前に、俺は……。
名前を、呼びたい相手はただひとり。
助けて欲しい人間はただひとり。
ただ、ひとり。ただひとりだけ、俺は。
『―――来須っ!!!』
足許に転がるのは三人の男たち。自分を襲った男たち。一瞬視界が真っ赤になって、そして。そして気付いたら俺に圧し掛かっていた男どもは床に転がっていた。
そして俺は。俺は自分の身体を抱きしめながら。抱きしめて、そして。そして口から零れたその名前を。その、名前を。
流れ込んで来る、記憶。これはきっとオリジナルの記憶。俺のオリジナルもこんな風に。こんな風に男たちの欲望に曝されて。そして。そして耐えがたい恐怖を味わって。けれども。けれども、呼ぶ名前があったから。オリジナルにはその名前を…呼ぶ……
「…さて、次は下の口を試させてもらおうか?」
俺は貴方の名前を、呼べない。だって俺はオリジナルじゃない。貴方に愛されたひとじゃないから。だから俺は貴方の名前を…呼べない…呼びたくても…
「…あっ…くっ……」
冷たい指先が俺の中に入ってきて、そして中を掻き乱して。その痛みに自然と苦痛の声が零れて。
「…痛っ…やめ…あっ……」
…それに俺は…貴方の名前を…名前を…知らない…から……
他のどんな名前も無意味で。
他の誰を呼んでも、それは。
それはただの『言葉』でしかなくて。
願うのは、望むのは、ただ。
ただひとり、だけで。
―――ただひとり、だけで……
「そろそろいいか?」
指が引き抜かれ、そのまま腰を抱えられました。そして。
「次は俺だかんな、早くやれよ」
そして入り口に指とは比べものにならないモノが当てられて。
俺は目をぎゅっと瞑って、その衝撃が来るのを耐えるしかありませんでした。
ただひとり、他に何もいらない。
何も欲しくない。何もいらない。
ただひとりだけ。ただ、ひとりだけ。
―――そばにいてほしいのも…願うのも…ただひとりだけ……
「瀬戸口っ!!!」
衝撃は何時までたっても来ませんでした。
その代わりに…その、変わりに……。
その代わりに俺が。俺が一番聴きたかった、声が。
その声が耳に届いて。届いて…これは。
これは…夢…なのかな?
夢だったら…醒めないで…夢ならば……。
――――夢、ならば……
男たちの怒鳴り声とそして悲鳴が聴こえてきて、そして…俺の意識は真っ白になりました……。
『…俺を…お前だけのものにしてくれ……』
その言葉に答える変わりに、抱きしめた。きつく、抱きしめた。この手でこうして抱きしめてしまえばもう。もう手放すことなんて出来はしないと分かっているのに、俺は。俺はお前の想いを、瞳を拒めなくて。
『…来須…好きだ…お前だけが……』
そのまま見上げてくる瞳を瞼の裏に閉じ込めて、唇を奪って。何度も何度もその唇を奪って。そして。そして、俺は。
『―――瀬戸口…お前を…俺だけのものに……』
耳元に囁いた言葉に、お前が微笑う。何よりも綺麗な顔で、微笑う。そして背中に廻した腕に力を込めて、俺に抱きついて来た身体を。その身体をそのまま押し倒した。
『…お前がいれば…俺…それだけで…いいんだ…それだけで…来須…俺は……』
END