BAD FEELING

『俺は我が侭だから、君が俺のことだけ考えてくれないと嫌なんだ』


以前瀬戸口が言った言葉を来須は思い出した。目の前にいるこの恋人は、ひどく自分という存在に執着している。今更だが、今回のことで改めてその認識を確認する事となった。
まあ無理もないことなのだ。彼はずっと独りだった。過去に愛した女性を失い、それでも終わりのない生。身体が滅びても何度も再生される魂。その中でずっと永遠とも思える時を、生かされて来たのだから。
そんな彼だからこそやっとの事で手に入れた『絶対』を手放したくないのは分かる。今まで独りであったからこそ、こうして手に入れた唯一のものを離したくないということは。
無論来須にしてみても瀬戸口を手放すことなど考えたことはなかった。二人の間にあった唯一の問題であった『離れ離れになる』という事がクリアーされた以上、後はただふたりで平凡だけどささやかなしあわせを築き上げてゆけばいい。それこそが特殊な環境で生かされ続けて来た二人にとって、一番欲しかったものだったから。愛する人とふたりでいること。それだけが、唯一願った事だった。
だからこそ、瀬戸口は来須に対して執着をする。離れ離れにならないと頭で分かっていても、まだ。まだ心が完全に安心し切っていないのだ。その不安を完全に取り除けない自分を不甲斐ないと思いながらも、瀬戸口のこのトラウマは根強いもので中々消えてはくれない。むしろ、消えることがないのかもしれない。彼が自分を好きでいる以上は。
だからこそ、来須は。瀬戸口が少しでも不安になる要素は、全て取り除いてやりたかったのだ。が、しかし。


きっかけは、一本の電話だった。その電話を取った来須は受話器の向こうから聞こえてくる懐かしい声に、ひとつ微笑う。以前5121部隊でともに戦ってきた相手―――滝川だった。
別に昔の仲間が自分達に電話を掛けて来ることぐらい良くあることなので気にするほどの事ではないのだが。だが今回は。今回は相手が悪かった。
何時も元気で大きな滝川の声は、受話器越しに瀬戸口にも聞こえてきた。相変わらずの明るい声と、そして。そして何よりもあからさまに分かる来須への好意…それが瀬戸口の癪に障ったらしい。
話し始めて二分後、見る見るうちに瀬戸口の機嫌が悪くなっていった…。


『久しぶりです、先輩っ!』
あの頃と全然変わらない元気な声が懐かしく、無意識に来須は口許に笑みを浮かべた。普段余り笑わない彼だが、その笑顔がどんなに優しく暖かいかを一番知っているのは瀬戸口だった。
―――特別な笑顔は何時も、自分だけに向けられていたから。
「ああ、元気にしているようだな」
その笑顔を例え受話器越しとはいえ滝川にしているのが、瀬戸口には気にいらなかった。そんな事で不機嫌になる自分も自分だと思うのだが、でもそう思ってしまったら止められない。まして滝川は何時も来須に対してあからさまに『憧れている』という態度を見せ付けていた。
自分達が『そういう関係』になった後でも学校では何もなかったように過ごしていたから、瀬戸口にしてみれば素直に来須に好意を見せてくる滝川が実は羨ましかった。皆の前であんなにも彼に対して素直に見せる好意が。
今となっては瀬戸口も自分の気持ちを我が侭なくらい来須に見せているが、あの頃はそれすらも出来なかった。別れを前提とした関係だったから、素直になって惨めな思いをするのが…怖かったから。怖かったから何時も何処か自分の気持ちを抑えて彼に接していた。だからこそ、滝川の存在は今こんな状態になってまでも、何処か瀬戸口の心にちくりとした痛みを落とすのだ。
真っ直ぐに見せる好意。誰にはばかることなく。あの頃そんな風に出来ずに、わざと平気な振りをしていた自分。そんな事を思い出させたことと、そして来須が見せた笑顔が…瀬戸口にもやもやとした気持ちを植え付けて離さなかった。
『〜〜ですよー、でも先輩の声聴けて…俺めっちゃ嬉しいです……』
受話器の向こうから聞こえてくる声は少し緊張気味で、でも嬉しそうで。それに頷きながら相槌を打つ来須の表情は柔らかくて。柔らかかったから、耐えきれなくなった。
「そうか――――?」
滝川に返答したところで、瀬戸口が来須に抱き付いてきた。受話器を持ったままソファーに座る彼に猫のように絡み付く。そして不機嫌なままの紫色の瞳で、来須の顔を見上げた。
『??どうかしたんですか、先輩』
「いや何でもない」
純粋な声で聴いてくる滝川に来須はただそれだけを言った。瀬戸口とともにいる事を来須は隠しはしなかったが、自分から言ったことはなかった。まして二人の関係は学校にいた頃から、一切気付かれることがなかったほどだ。故に知っている人間など皆無だろう。速水のように鋭い洞察力を持った人間が、その事実を聞き出す以外には。
『それよりも先輩、今何処にいるんですか?電話番号は知ってても住所誰も知らないし』
聞かれなかったから、答えなかっただけだった。電話番号は聞かれたから答えただけ。来須にしてみればそうだった。ただし瀬戸口の場合は違っていたが。
瀬戸口は誰にも自分の住所も番号も教えはしなかった。故に彼が電話に出ることはない。誰にも邪魔されたくなかったのだ。やっと手に入れた大事なものを、ただ瀬戸口は自分だけのものにしたかったのだ。だから自分の居場所も、何をしているかも知られたくなかった。本音を言えば来須の存在も…知られたくなかった。
「俺は今」
と、言いかけて来須の言葉が止まる。抱き付いていた瀬戸口が彼のワイシャツのボタンを外し始めたからだ。そしてそのまま手を忍ばせると、厚い胸板に指を這わす。そしてそのまま首筋に唇を落とした。
『…?先輩?』
わざと見える所に唇を落とす瀬戸口に、来須は彼の意図と思いに気が付いた。こんな些細な事ですら、彼は不機嫌になるのだ。けれどもそれが自分を思ってが故のことである以上…来須は呆れることはなかったが。
「いや、猫がじゃれついてきてな」
しょうがないと言う顔で来須は瀬戸口に微笑うと、そっと髪を撫でてやった。その指の感触に心地よさを憶えながらも、瀬戸口は行為を止めようとはしなかった。
『猫?先輩猫飼っているんですか?』
来須のワイシャツのボタンを下から二つ目まで外すと、再び手が淫らに肌に絡み付いてきた。戦う事を止めても身体を鍛える事を止めない来須の肉体は、何時も雄の野性的な匂いがして、瀬戸口を欲情させた。その肌に口付けると、そのままズボンのファスナーに手を掛ける。まだ変化を見せていないが充分な硬度と大きさを持ったソレを、外界に曝け出す。
「―――柔らかい茶色の毛をした紫色の瞳の猫を」
瀬戸口は来須の胸を滑っていた舌をそのまま、ソレに絡める。指で包み込み先端を舐めれば、手のひらのソレが微妙に形を変えていった。
「…んっ…ふっん……」
瀬戸口は来須自身を口に含むと舌を使って、わざと音を立てながら舐めた。その音が受話器越しの相手に聞こえればいいと思いながら。
「…んんんっ…ん……」
口の中で次第に存在感を増すソレに、瀬戸口の身体の芯がぞくっとした。受話器の向こうには彼に憧れている相手がいる。けれどもそんな彼に奉仕しているのは自分だという事に。他の誰でもない、自分だという事に。
『へぇ、きっと可愛いんでしょうねー先輩の猫だから』
けれどもそんな事態に滝川は全く気付いていない。無理もない。瀬戸口に奉仕されながらも、来須の声は全く変わらないのだから。何時もの声で、滝川に返答をする。
「ああ…可愛いな、どうしようもないくらい……」
…ただ、その声が何時もより愛しい響きを含ませるだけで……。


自分のソレを夢中で奉仕する瀬戸口の髪を、来須はくしゃりと撫でてやった。それに答えるように、瀬戸口の舌遣いが激しくなる。口の中いっぱいに広がった楔を懸命に含み、舌を絡める。何時しか口の中にとろりと先走りの雫が零れてきて、それがまた瀬戸口の性欲を煽った。
「…来須…出す?……」
一端顔を離して、瀬戸口は聴いてきた。その間にも受話器の向こうからは滝川の楽しそうな声絵が聞こえてくる。それに適度に相槌を打ちながらも、来須は瀬戸口の顎に手を掛けてそれを止めさせた。そのまま受話器を持っていないほうの手で瀬戸口を引っ張ると、自分の膝の上に彼を乗っけた。そして瀬戸口着ていたシャツを捲し上げると、そのまま胸の果実に指を触れた。
「…あっ!……」
触れられた途端、熱がソコに集中する。ぷくりと胸の突起は立ち上がり、痛いほどに張り詰めた。それを軽く指で来須は摘むと、一端手を離して瀬戸口の顔を自らの肩へと埋めさせる。
『先輩、何か今悲鳴みたいな声しませんでしたか?』
瀬戸口はそのまま肩に掛かっている来須のワイシャツを噛んだ。それを確認して来須は再び瀬戸口の胸に指を這わす。
「猫に悪戯をしたら鳴かれた」
『へー何か意外です、先輩がそんな事するなんて』
「…ん…くふっ……」
瀬戸口の両手が来須の背中に絡まり、ぎゅっと抱き付いてくる。けれども来須は手の動きを止めなかった。指の腹で転がし、爪を立てる。その度にびくんっと瀬戸口の身体が跳ねて、銜えているワイシャツに唾液の染みを作った。それでも来須の指は止まることない。受話器からの声に、答えながら。
「そうか?」
『ええ、なんかそういうイメージなかったから…でも嬉しいです、先輩のそんな一面が知れて』
「…んん…く…んっ……」
「鳴き声が可愛いんだ」
胸を弄っていた指が次第に下腹部へと滑ってゆく。ズボンのベルトに辿り着いた所で、瀬戸口は自ら腰を浮かした。それを合図に器用に片手だけで来須は彼のズボンを下着ごと脱がす。ぱさりと、床にズボンと下着が落ちた。
『本当に可愛がっているんですね、猫のこと』
「―――っ!」
大きな手が瀬戸口自身を包み込む。その瞬間、瀬戸口の身体が弓なりに仰け反った。その身体を再び引き寄せるともう一度シャツを咥えさせて、来須は瀬戸口自身に愛撫を施した。
「ああ、何よりも大事な命…だからな……」
その言葉が瀬戸口の耳に届いた瞬間、胸の中にあったもやもやとしたものが一瞬で消えた。自分でもひどくゲンキンだとは思う。けれども。けれどもそんな風に想いを込められて、言われたならば。
「…ふぅ…ん…はぁっ……っ!!」
瀬戸口を知り尽くした指は、簡単に彼を堕とした。限界まで膨れ上がり、どくどくと熱く脈打っている。そんな先端を強く扱いてやれば、あっけなく来須の手のひらで瀬戸口は果てた。べとべととした白い欲望が来須の指を濡らす。その指をそのまま、来須は瀬戸口の奥へと忍ばせた。
「…ぁぁ……」
くちゃりと、濡れた音が瀬戸口の耳に響く。自ら腰を浮かして、指を奥まで求める。中を掻き乱され、果てたはずの自身も再び立ち上がり欲望を曝け出していた。
『…って先輩…猫が羨ましいです……』
ひくひくと蕾が蠢く。中の指を締め付けながら。きつく指を締め付けながら。求めて、いた。貪欲なまでに瀬戸口は来須を求めていた。
「…しい……来須……」
耐えきれずシャツから口を離した瀬戸口が来須の耳元に囁く。熱くねっとりとした吐息で、誘うように淫らに。
「―――ああ」
『え、先輩?』
「すまない滝川」


「猫が餌を欲しがっているから、またな」


受話器を置いたと同時に、瀬戸口の口から悲鳴のような声が上がる。そのまま細い腰を抱いて、来須は下から突き上げた。
「―――あああっ!!…ああああっ!!」
やっと自由に出せるようになった声で、瀬戸口は激しく喘いだ。来須の肩に手を置いて、自分から腰を振る。そんな彼の喉元に来須は口付けた。さきほど瀬戸口がしたように、自分の所有の痕を付ける。わざと、見える個所に。
「…あああ…来須っ…来須…っ……」
喘ぐ口許から紅い舌が覗く。それに誘われるように来須は唇を塞いだ。その口付けに瀬戸口は貪るように自ら舌を絡めた。
やっと自分だけのものになった、その唇に。やっと与えられた口付けに。瀬戸口は夢中になって口中を貪った。
「…俺の…俺だけの……」
唇が離れても、繋がった身体は離れないから。深く突き入れられ、自分の中に感じる存在が。それが何よりも大事だから。
「ああ、お前だけのものだ。俺は」
耳元で囁いて、そして来須は一番深い場所に、自身を突き刺した。その瞬間、ふたりは同時に欲望を吐き出した。



「…俺のだ……」
他人と会話するだけで、嫉妬する恋人。
「…君は俺だけの…ものだ……」
でも、愛しい。でも、愛している。
「…俺だけのだかんなっ!……」
どうしようもないくらい、愛してる。



ぎゅっとしがみ付く瀬戸口を来須はそっと抱きとめた。柔らかく髪を撫でてやりながら、飽きる事無くキスのシャワーを顔面に降らす。彼の表情が微笑う、まで。その為の努力も時間も来須は、いくらでも与える事が出来るから。
「…来須……」
「機嫌、直ったか?」
見上げてくる紫色の瞳がその言葉にまたちょっとだけ不機嫌になる。けれども降り注ぐキスの雨が、その不機嫌さも溶かしてゆくから。
「…む、そうやって誤魔化すのか?……」
そう言いながらも瞳が唇が、キスを求めている。何度も何度も、求めている。
「誤魔化していない…愛しいからこうしている……」
「…卑怯者……」
瀬戸口の手が来須の背中に廻ってぎゅっとひとつその背中を抓った。思いっきり抓られた個所は痛かったが、この程度で瀬戸口の機嫌が良くなるなら来須には安い代償だったから。



「でも…好きだ」
「ああ」
「…大好きだ……」
「―――俺もだ、瀬戸口」


「…お前だけだ……」



何時しか瀬戸口の顔はしあわせそうに微笑っていた。その笑顔を見つめながら、来須も優しく微笑う。そんなふたりだった。
何時もこんな感じで小さなことで拗ねる恋人を、宥める事が日常で。でもそんな日常こそがかけがえのないものだから。こんなささやかな日常が何よりも大事なものだから。



「…ちゃんと俺を見ていろよ…俺をかまえよ」
「―――分かっている」
「…俺だけ、見ていろよ…俺は…」




「俺は我が侭だから、君が俺のことだけ考えてくれないと嫌なんだ」


END

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