一番近くにいてね

一番近くに、いたい。
誰よりも君のそばに、ずっと。
ずっと、一緒にいたい。


「―――ってお前…飽きないか?……」
放課後の人気のない教室。机の上に無造作に座っている来須に、瀬戸口はただひたすら見上げていた。目の前にある椅子に腰掛けながら、何をする訳でもなく。
「全然飽きない。君の顔一日中見ていても俺、幸せかも」
上目遣いにずっと、来須の顔を見ている瀬戸口。その顔は本当に彼の言葉通り幸せそうだった。いや、幸せなんだろう、きっと。きっと言葉通りに。
「そうか?こっちよりもか?」
それだけを言うと来須は両手を広げた。そして軽く手で『おいで』をする。その仕草に瀬戸口の顔が滅茶苦茶嬉しそうになったのは言うまでもなく。
「〜〜ってそんな聴くまでもないだろっ?!」
椅子から立ち上がると、そのまますっぽりと来須の腕の中へと収まった。多分世界一幸せそうな、顔で。


少し癖のある茶色の髪を撫でてやれば、猫のように擦り寄ってくるのが妙におかしい。って普段は犬のようだけども。
「お前って本当に…」
―――俺の事、好きなんだな…と言おうとして来須は止めた。別に言葉にしなくてもこいつは自分が言う前に、それ以上の『好き』を返してくるのが分かったから。
「好きだよって、何時も俺言ってるよな…飽きれてる?」
「いや、別に」
「じゃあいっぱい言う。好きだ、好きだ」
「ってガキじゃないだろうが」
「でも好きなんだもん、しょうがないだろ?」
あれだけ女を連れて歩いていたのが嘘のようだ。愛の伝道師だの散々言っていたのは何処のどいつだろう。でも。でも、そんなお前を愛しいと思っている自分がここにいるのだから、末期なのかもしれないけれど。
「こんなに人を好きになったことないから…だから言いたいんだ、いっぱい」
「女に散々言っていただろうが?」
「言ったけれど全然意味が違うから。女の子に言っていたのは皆が好きの『好き』。君に言っていたのは」
「どう違うんだ?」
「―――たった独りに告げる『好き』だから」
真っ直ぐに見つめてくる紫色の瞳にふと、来須は優しい笑顔を見せて。その笑顔に瀬戸口が見惚れている間にひとつ。ひとつ、キスをしてくれた。


「…女の子みたいとか言うなよ……」
そっと手を伸ばして、指を絡めた。その大きな手に、そっと。
「―――どうして?」
そうしたら俺の手、握り返してくれたから。だから。
「…こんな事で…俺どきどきしてるから」
だから、嬉しくて。だから、しあわせで。だから、暖かくなれて。
「どれ――」
手が離れたと思ったら、いきなりぎゅっと抱きしめられて。
「わっ!」
そうして、君は微笑う。俺が見惚れてしまうほど綺麗な顔で。
「本当だな、全身でどきどき言っている…面白いな」
駄目だ、俺。その顔見たら益々、鼓動が収まらなくなるから。


「〜面白がるなよ〜〜」
「仕方ないだろう、お前があまりにも素直な反応を寄越すから」
「…だって君の前では全然駄目なんだから」
「駄目?」
「冷静になろうとしても駄目で、女の子に接するようにしようとしても駄目で。何時も落ち着こうと思っても、全然駄目で…俺……」
「別に構わないこのままで」
「俺がよくないっ!」
「どうして?面白いから構わない」
「……面白がるなよっ!!」
「―――分かった、言い方を変える」

「『可愛い』からこのままでいい」

「…って棒読みじゃないかーっ!!」
「慣れてないから無理して言ってみた」
「…ヴー…」
「何だ?」
「例え君に似合わないと分かっていても、喜んでいる自分がいるのが情けない」
「嬉しいならいいだろう?」
「…いいけど…いいのかな?……」
「いいんだ。お前の嬉しそうな顔は俺は好きだから」


バカ、そっちの言葉のほうが。
その言葉のほうが、俺は。
俺は凄く嬉しい。そんな言葉が一番。

――― 一番、嬉しいんだ……


「…あ…来須……」
来須の腕が、きつく瀬戸口を抱きしめた。掛かる髪にそっと口付けをしながら。それだけで瀬戸口は瞼が震えるのを押さえられない。
「…誰かに見られたら…ヤバいかな?……」
口ではそう言いながらも、瀬戸口の手は来須の背中に廻って。廻ってそして、そのままぎゅっとしがみ付いた。きつく抱きしめられる力をそのまま想いとして返したかったから。
「―――俺は構わない」
「…俺も、構わない…君となら…」
見上げればそこには蒼い瞳が在って。そこに映るのが自分だけだと確認して。確認して、瀬戸口は瞼を閉じた。その瞼にひとつ、唇が降ってくる。甘い、キスが。
「本当言って、見られたい気がする」
「―――そうか?」
「うん、だって。だってそうしたら君が俺のものだって、皆に分かるから。分かるから…余計な心配しなくていいから」
「そうか、奇遇だな」
「―――え?……」
瀬戸口の問いかけは、寸での所で来須の唇によって塞がれた。甘くて、そして。そして少しだけ切なさを含むキスで。そして。



「俺もお前が…俺だけのものだって、分からせたかったからな……」



一番近くにいたい。
一番近くにいてね。
他の誰よりも俺を、そばに。
そばに、置いてね。


―――― 一番近い場所で、君を見ていたいから……


END

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