指先が辿る、君の形。
俺の指先が記憶する、君の。
君の、形。
――――愛しているから、貪り続けた……
金色の髪にそっと指を絡めた。さらさらの、髪。細い、髪。
指先から滑り落ちる、その髪を強引に絡めた。
「…来須……」
そしてそのまま。そのままそっと、抱きしめる。君の頭だけを、抱きしめる。
屍は冷たくて、ひんやりと冷たくて。
溢れ出て乾いてこびり付いた血は、もっと。
もっともっと、冷たくて。それがイヤだったから。
イヤだったから、舌で辿って飲み干した。
全部、全部、飲み干した。散らばった血を、全部。
命がなくなったら肉体はただの入れ物になって、そして。
そしてただの肉の塊になって。そして。そして腐敗して。
腐敗して、どろどろになって、原型を止めなくなって。
―――そんな君を見たくなかったから、全部、食べた。
君の破片を。君の塊を。全部全部、俺の中に取り込んで。
君の全てを全部、俺の中へと。俺だけのものへと。
「…愛しているよ…君だけを……」
顔だけはそのままにした。綺麗な顔をもう少しだけ見ていたかったから。頭だけを残して、他は食べた。味なんて分からなかった。元々味覚なんて麻痺しているから、だからそんなもの。そんなもの、感じなかったけれど。
でも君が俺の中へと入ってゆく瞬間は、まるで君に貫かれているような悦びを感じた。
君が俺の中へと入ってゆく。俺の血に同化する。俺の体液に溶けこんでゆく。
そうやって俺の中に君が獲り込まれて行って、そして。そして君に支配される。
肉も骨も、血液も、全部。全部、俺の中に君が入ってゆく。
隅々まで君に触れられて、溶かされて。俺の中に全部君が埋められて。
―――ああ…しあわせ……
狂っていると皆が言った。愛するものの死体を貪り食らう俺を、狂っていると。
でも本当に俺は狂っているの?狂うってどういう事なの?
どうしてこれがおかしい事なのか?愛するものを手に入れたいという想いが、どうして。
―――どうして、狂っていると言うの?
俺はただ。ただ君が欲しかっただけ。死んでも、死に逝く君でも欲しかっただけ。
君の全てが欲しかった、だけ。ただ君だけが。君、だけが。
君の全てを抱いて逃げることは出来なかったから、頭だけ残して全てを食らった。
そして君と俺だけになって。ふたりだけになって、逃げた。
―――『狂気』の世界から……
髪に指を、絡める。そうしてそっと後頭部を撫でた。
指先に記憶する、君の頭の形。キミノ、カタチ。
頭の天辺から指を降ろして、そしてカーブを描く後頭部へと。
君の形良い、頭を撫でた。普段は帽子に隠れて見えなかった部分。
俺以外触れた事がない、部分。一番大切な場所。
頭蓋骨を皮膚越しに、指先へと記憶して。
君の全てを、俺の指先に。
キミノカタチを、オレノスベテニ。
「…これでずっと…ふたりでいられるな……」
もう誰にも邪魔なんてさせない。時間も運命も、全部。
「…ずっと…ふたりで……」
時代も時間軸も、戦いも社会も全部。
「・…ふたりで…いような……」
何も何も、邪魔なんてさせないから。
キスを、した。冷たい唇に、キスをした。
何時も君からしてくれるキスを、今は俺から。
俺からキスを、した。
分け合うことのないぬくもり。一方的に与えるぬくもり。
それでも。それでも、こうして。
こうして、俺と君が繋がっていられたならば。
「…愛している…ずっと…ふたりで…いような……」
そうして、俺は。俺は君の頭だけを抱きしめて。
君の形良い頭だけを、抱きしめて。
自らの身体を、切り刻んだ。抱きしめている手以外、全部。
全部、切り刻んだ。脚も、腹も、胸も、全部。
どろりと零れる紅い血。まだ生暖かい、血。
それを君と俺に浴びせて。混じり合わせて、そして。
そして最期の仕上げとして君の全てを食らった。
唇から目から、頬から骨から、全部。全部、食らいついて。
そして、最期の俺の手も…切り刻んで。
「…愛しているよ……」
そして、目を閉じる。瞼の裏に全てを焼き付けて。
俺の記憶に君の形を全て刻みこんで。そして。
……そして…俺は………
END