何時も君は、少しだけ俺を先回りしている。
言葉にする前に、口にする前に、君の手が。
君の手がそっと俺の髪に触れて。髪に、触れて。
優しく撫でてくれる、その指先が。
指先が、大好きで、そして。そしてしあわせ。
何時も君は、先回りしている。俺の願いを声にする前に、君は。
「何時もさ、こうやってずっと君の顔を見ていられたらなって思う」
「何時も見ているだろう?」
「違う、ずっとなの。誰にも邪魔されず、時間も気にせずに…ずっと」
「我侭な奴だ」
「〜う、うるさいっ!君が甘やかすから…我侭になるんだ」
「すぐ人のせいにする。我侭なのは元からだろう?」
「…ち、違う…絶対に違うっ!!」
反論して君を怒鳴ろうとして、けれども。けれどもその蒼い瞳に捕らえられて。そっと見つめられて、柔らかく微笑われたから。それだけで。それだけで、俺は。
「反則だ、バカ」
それだけで俺はバカみたいにどきどきして。俺の反論は何時しかどうでもいいものになってしまって。そして。
「何がだ?」
「…そんな優しく…微笑うな…バカ……」
そして俺は耐えきれずに、君の背中に手を廻す。そっと廻して抱きついて、君の背中の広さと強さを確認して。
「お前には俺は、甘くなる…惚れた弱みだな……」
優しい腕が、俺の腰を抱いて。そのまま引き寄せられて。こんな風に触れ合うと、二人を隔てている服ですら邪魔だって、本気で思う。何時も、何時も、俺は君を感じていたいんだと。ずっと君だけを、感じていたいんだと。
「甘やかして、いっぱい。俺そうされるの大好き。君にだけは」
「―――全く…お前は……」
軽いため息とともに、でも。でもその声は決して嫌がってはいない。優しく髪を撫でてくれる手が、何よりもの証拠だから。
「他の奴だとふざけるなって思うけど、君には甘やかされたいんだ」
我侭も無茶苦茶な言い分も、全部。全部君だから言える事。君だから、心の本音も、子供染みた我侭も、全部。全部隠すことなく言えるから。
―――そんな俺でも君は…受けとめてくれるって…分かるから……
「今まで甘えたことなんて、俺なかったんだぜ。本当にそんな事した事がなかったから」
「だからこんなに俺に甘えるのか?」
「そ、今までの分全部ね。ぜーんぶ、甘えるの」
「本当にしょうがない奴だ」
「でもそんな俺、好きだろ?」
「―――否定しない」
「…む、ちゃんと言えよー。好きだって言えよ」
「我侭だ、本当に。でも」
「…でも…好きだ……」
耳元に降ってくる優しい声に、震える睫毛。
このまま。このままずっと、君の腕の中にいられれば。
こうしてずっと、抱きしめていてくれれば。
それだけで、俺は。俺はしあわせで。俺は満たされて。
こんな風に穏やかで優しい想いが、俺を埋めることが。
俺がこんなに満たされる日が来るなんて…
…来るなんて…思えなかった……
「…来須…好きだよ……」
何時も君の方が、先回りするから。今は俺から。
「…大好きだよ……」
今は俺から、君にキスをする。
背中に両腕を廻して、君の金色の髪に触れて。
そんな俺に答えるように少しだけ君は顔を俺に近づけて。
近付けて、そして唇を触れやすいようにしてくれる、から。
――――だから俺…君が大好きなんだよ……
「珍しいな、お前から…キスしてくれるのは」
「君よりも先回り」
「何だ、それは」
「だって何時も君のが先に俺にキスしてくれるから。だから、先回り」
「お前はすぐ顔に出るから、分かりやすいからな」
「いいだろうっ素直でっ!」
「でもお前の素直さは…俺以外、知らない」
「…俺だけのものだ……」
きつく抱きしめられて、その強さが俺には嬉しかった。嬉し、かった。
そうだよ、来須。俺は君以外に我侭は言わないし、君以外甘えはしない。
他の誰にも俺の剥き出しの顔なんて…見せはしないんだ。
俺のガキのような一面も、バカみたいに素直になる所も、全部。
全部君だけが知っているんだ。君以外、知らないんだ。
…だから俺が自分からキスするのは…君だけ、なんだよ……
「…もっとしてもいい?…」
「わざわざ、聴くな」
「…この唇は…お前専用、だ……」
END