大きくて広いその背中を見ているのが、凄く幸せだと感じる瞬間。
君の背中は何時も。何時も俺の視界に入っていて。
大きくて広くて、そして。そして何よりも優しい背中。
近付かないと、触れないと、初めは分からないかもしれない。
でもこうやって。こうやってそばにいれば、気が付く事。
――――誰よりも優しい、背中だって。
この背中が俺のものだって実感出来る瞬間が一番、しあわせ。俺だけのものだって、感じられる時が、一番。
「なあ、来須」
背後から声を掛けた。君が振り向く前に、後ろから抱きついてみた。その広い背中に。
「何だ?」
全体中を掛けて抱き付いたから、君の声が少しだけ不機嫌になる。それが、俺にはひどく可笑しくて、そして嬉しかった。
多分俺以外気が付かないであろう、その声。君の微妙な変化は、君に近付いて初めて分かった。君に近づけてやっと、分かるようになった。
「何でもない、引っ付きたいだけ」
ぎゅっと腕に力を込めて抱きついて、肩に顔を埋めてみた。そうする事でほんのりと薫る君の微かな香りが、ひどく嬉しくて。俺しか知らないその薫りが。
「全く…お前は……」
少しだけ呆れながら言う声も、でも嫌がっていないのが分かるから。だから俺、益々君に我侭になって、そして甘えてしまうんだ。
君に甘やかされるのは、好き。君に優しくされるのは、好き。
他の人間だったらうっとうしいだけだけど。君にだけは。
君だけはどんな我侭も、どんな甘えも、どんな優しさも、全部。
全部、受けとめて。全部、与えて欲しいんだ。
「だって俺、君の背中大好きだから。だから引っ付いていたいの」
「―――背中だけか?」
「背中も、好き。髪も、好き。顔も、好き。手も、好き…それから…」
「それから?」
「…って全部、好き」
綺麗な金色の髪も。その蒼い瞳も。
大きな手のひらも。傷だらけの指先も。
君の名前の付くものは全部。
―――全部俺…好きだから……
「あーあー俺めっちゃしあわせ。君の全部は俺のもの」
嬉しくってしがみ付く手に力を込めたら、そっと。そっとお前の手が俺の手に重なった。大きな手のひらが俺の指を全部包みこむ。すっぽりと、包みこむ。そして。
「お前の全部は、俺のものだ。瀬戸口」
そして俺の顔面を真っ赤にするようなセリフをさらりと言ってのけて。そのまま軽く手のひらを抓られた。
「―――って何すんだよ」
「お前が体重を掛けて来た罰だ」
「罰って何だよっ!」
「言葉通りだ。それに」
「それに?」
「後ろから抱き付かれていたらお前に」
「キスが、出来ないだろう?」
言われた言葉に、本当に今度は全身で真っ赤になって。けれども。
けれども次の瞬間に、俺はどうしようもなく嬉しくなって。
バカみたいだけど、君のその一言が何よりも嬉しかったから。だから。
―――どうしようもなく嬉しそうな顔をして…俺は……
「出来るよ、キス」
怒られるかと思ったけど、また君に体重を掛けて、そのまま。そのまま上からキスをした。かなり無理のある態勢だったけど、でもこうしてキス、したかったから。
「―――全くお前は…呆れるくらい…可愛いな……」
君が微笑う。優しく、微笑う。
その瞳が、その笑顔が、大好きで。
何よりも大好き、だから。
「…だって…俺は…君のモノだから、な……」
END