ピアス

お前の『飾り』になりたい。

何よりも綺麗に、何よりも鮮やかに。
誰よりも目を惹くお前の隣に、似合うような。

―――綺麗な飾りに、なりたい。


注がれる水。お前と言う名の水。
それがなければ俺は。俺は枯れるだけ。
枯れて散って、そして。そして腐ってゆくだけ。
だからお前と言う名の水を、ください。



安全ピンで耳たぶを開けた。そこからぽたりと血の塊が零れてきて、俺の指を濡らす。けれども俺はその行為を止めなかった。
「何故、そんな事をする?」
窓枠に腰掛けながら、顔だけを俺に向けたお前は聴いた。そのアイスブルーの瞳がひどく綺麗で冷たい。それが俺は、何よりも好きだった。
「ピアス、お前がくれたの…付けたかったから」
この瞳が熱くなることはない。何時も冷静な視線で俺を見ている。それが、好き。堪らなく好き。その氷のような視線で全身を貫いて欲しい。
「なら自分で開けなくても…いいだろ?」
お前は立ち上がると、俺の前へと歩いてきた。普段は帽子に隠されているその瞳が、今はこうして俺だけを映している。俺だけを、映している。それは怖いくらいに俺を満たした。
「お前の見ている前で開けたかった、他の誰でもなく」
「何故?」
手を伸ばして、そのまま広い背中に廻した。指先に血が付いていたけれど、構わなかった。こうやって俺はお前にシルシを付ける。俺のものだと言う所有のシルシを。
「お前に貫かれているみたいだろ?こうして身体に穴を開けるのは」
誰にもあげたくない。誰にもあげない。こいつは俺だけのもの。俺だけのもの、だから。だから俺も全部。全部お前のもの、なんだ。
「身体中に穴、開けてもいいな…お前が埋めてくれるなら」
舌が伸びてきて俺の耳に触れる。そのまま零れる血を舐め取った。その感触にすら俺は瞼を震わせた。その、極上の感触に。
「それは駄目だ」
「…どうして?……」
背中に廻した手をまさぐり広い感触を指先で楽しんだ。お前の背中、広くて大きくて、優しくて冷たい背中。俺がずっと追いかけていた背中。
「お前は俺のものだから、瀬戸口」
伸びてくる手。頬に伸びてそのまま輪郭を辿られて。大きな手のひらがそれを辿って、そして。そして。
「お前に傷を付けていいのは…俺だけだ……」
俺が何よりも欲しかった言葉を、くれた。


お前は俺の全てを受け入れるけれど、俺の全てを奪わない。
俺はお前の全てを追い駆けるけれど、お前の全てを手に入れられない。

永遠に、追いかける。俺だけが、追い続ける。
お前が時の中へ消えると言うなら。お前が時間軸に旅立つと言うなら。
俺は俺の全てで、追い続ける。未来永劫、追い駆け続ける。


永遠に俺はその背中を追い続ける。永遠にお前を求め続ける。



唇を重ねる。何度も重ねて、そして互いを奪い合う。こめかみが痛くなるほどの、唇が痺れるほどの、キスを何度も繰り返して。
「俺はお前のものだけど、お前は俺のものじゃない」
繰り返して、奪い合って。吐息も何もかもを奪い合って。それでもまだ。まだ足りなくて。
「――俺を追うのだろう?地の果てまで」
指で髪に、触れる。まだ血が残っているせいで、お前の金の髪に紅い色が付いた。綺麗なお前の、唯一の穢れのようで、それは。それはひどく俺をうっとりとさせた。

綺麗なお前の唯一の穢れ。それが『俺の存在』だと、知らしめているようで。

「…追いかけるよ…永遠に……」
綺麗なお前。そばにいるだけで感じる精錬な空気。何物にも染まらず、ただそこに。そこにお前だけが別の場所にいるように、ずっと綺麗。誰もお前を穢せず、誰もお前に触れられない。綺麗だから、綺麗過ぎるから。でも。
「…お前が俺のものになるまで……」
そんなお前を穢したくて。そんなお前を汚したくて。綺麗なお前を、俺の手で穢したかった。
「…愛している…来須……」
醜い欲望、どろどろとした執着。でもしあわせ。しあわせ。お前が俺をこの手で抱いた時、確かにお前は穢れたんだ。穢ない俺を、抱いた時。
人間でもなく、魔物でもなく、ただひたすらに汚れている俺を。そんな俺をお前が、抱いたんだ。
「…愛している…お前だけ……」
誰にも渡さない。絶対に渡しはしない。お前は俺だけの。俺だけの、ものだから。


肌を滑る指先が、狂うほどに愛しい。その大きな手で、愛撫されるたびに俺は。俺は全てが狂わされ、そして歪んだ欲望に満たされる。
「お前が俺を抱くたびに、お前を汚していると言う思いが俺を満たす」
身体を開かされ、その熱を受け入れ。そして。そして気が狂うほどに喘がされる瞬間が。お前の熱だけを感じ、全てが溶かされてゆく時が。それを得られるためならば、俺はどんなことでも出来るから。
「…そう思いながら…別の想いも…存在している……」
脚を開き自ら腰を押し付け、お前の熱をねだる。恥じらいも羞恥も俺にはない。俺があるのはただひとつだけ。ただひとつの欲望。お前が欲しいと言うただそけだけの欲望。
「―――それは何だ?瀬戸口」
腰を抱えられ入り口に当たる熱が。その熱が俺の身体を震わせる。俺のこころを、魂を、震わせる。
「…綺麗になりたいって…お前に相応しい…最高級の宝石になりたいって……」
そして貫かれる熱さと硬さが、俺の全てになる。



溶ける、身体。溶ける、こころ。
お前に溶かされ、そして狂わされる。
この瞬間が何よりも欲しい。何よりも欲しい。
お前から与えられる熱に、全て狂わされ。
そして発狂したら、俺。俺きっと。

―――世界中で一番…しあわせだよ……




「…俺の飾りになりたいのか?……」
「…なりたい…そうしたら…」
「―――そうしたら?」
「…ずっとそばに…置いてもらえるだろう?……」


「…ずっと…お前のそばに……」


世界で一番綺麗な宝石になれたら。
誰よりも綺麗なお前に相応しい。
相応しい飾りに、なれるだろう?




「お前には必要なかったな」
大きな手が俺の耳たぶに伸びる。そこは乾ききっていない血がこびり付いていた。その血の塊をお前の指がふき取って、そのまま。そのままひとつ舌を這わした。
「…来須?……」
俺の前にピアスが掲げられる。お前が俺に与えてくれたもの。俺がねだり欲しがって、お前が与えてくれたもの。お前の、瞳の色の、ピアス。
「いらないだろう?お前には。お前自身が俺の装飾品なら…お前が…」


「…俺のアメジストならば……」




何よりも綺麗な、紫色の瞳が。
それがこの世のどんな宝石よりも。
淫らで綺麗な、その色が。




「―――いらない…俺は全部…お前だけのもの…だから……」


END

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