I will be with you

――――どうしたら伝わるかと、ずっと考えていた。


怖いものは、なかった。何も怖いものはなかった。
失うものがなかったから。願うものがなかったから。

だから俺にとって怖いものは何一つなかった。

『死』すらも、俺にとっては恐怖の対象にはならない。
死んだらこの肉体が果てるだけだ。それだけだ。
螺旋を永遠に巡り続けなければならない俺には、死すらもない。
終わりが、ない。俺に、終わりはない。
ただ続く無限の時の中。無意味に生かされる命。繰り返し再生される命。
それが逃れられない俺の運命ならば、希望すら無意味なものだから。でも。
そうもしも。もしも望むとしたならば俺は。ただひとつ望むのならば。


――――俺はただひとつだけ。この命を終わらせてほしいと…それだけだ。


それだけを、どこかに願いながら。
それでも叶わないと諦め、そして。
そしてただひたすらに消費され壊れゆく魂を。
その魂だけを持ち続け再生され続ける中で。
その中で俺は。俺は、見つけた。


多分一番俺には願ってはいけないもので、そして一番願わずにはいられないものを。



どんな命にも生まれるからには意味があって、そして。そして生まれてきたらからには、どんな命にも愛される権利があり、そして愛する権利がある。それを伝えるのにはどうしたらいいのかを、ずっと。ずっと、考えていた。


「…出逢いたくはなかった……」
口許だけで微笑っていると気付いた時。全てを見ているようで、何も瞳が映していないと気付いた時。そんな些細な瞬間に気付いた時、どうしてこの手を差し伸べなかったのか?
「…お前にだけは、出逢いたくなかった……」
その瞬間に差し伸べていたなら、もう少し違う答えを俺達は導き出せたのかもしれない。もっと違うものを選べたのかもしれない。
「違う…出逢いたくなかったじゃないよな…俺が勝手にお前を好きになっただけだ……」
見上げる紫色の瞳が、何時から。何時から自分だけに向けるものが違うと気がついた?何時から、気が付いた?この瞳が真っ直ぐに自分だけを、見ていたことに。
「何でお前なんだろう?何でお前じゃなきゃ、いけなかったのか?もっとどうして楽な相手を愛せなかった?」
受け入れればよかったのか?差し出された手をそのまま。そのまま引き寄せ抱きしめれば、お前は救われたのか?救われた、のか?

――――それがたとえ『かりそめ』の安らぎでしかなかったとしても。

「…分かっている…お前には同情も哀れみもない。だから俺を受け入れられない…分かっている…」
中途半端なままお前を受け入れれば、傷つくことは分かっている。互いに傷つけ合う事は分かっている。それでも願い求めるのをお前は止められないでいる。それを分かっていて。分かっていてもなお、俺はお前を受け入れないのは罪だと思うか?
「…だから俺…お前が好きなんだ……」
微笑わなくなった。俺の前では口許だけで微笑わなくなった。その代わりお前が俺に見せたものは、ただひとつの剥き出しの心。激しくそして何よりも壊れやすい、ただひとつの心。
「…好きなんだ…お前が……」
弱さも強さも激しさ切なさも、全て。全ての感情が俺に向けられてくる。俺に全て向けられてくる。嘘偽りのないもの全てが。全てが、こうして。こうして俺の前に差し出される。
「…好きだ…来須……」
そして俺は。俺はそんなお前の全てを、ただひたすらに。ひたらに狂うほどに…愛している。


このまま。このままきつく抱きしめ。
そしてこの腕に全てを抱いて。全てを。
お前の全てを手に入れれば、それで。

それでお前が救われるなら、こんなにも苦しくはなかった。


お前が望むものを俺は与えることは出来るだろう。
お前が欲しいものを、ただひとつを除いては。
ただひとつ以外、お前の欲しいものは全て。全て俺は。
俺は与えることが出来るだろう。


けれどもそのただひとつが。たったひとつの事が。
それが何よりもお前を苦しめると分かってるから。


ただひとつのものを与えられれば。
俺は全てを引き換えにしても構わないのに。
どうしてそれだけが叶わないのか?



「…なあ…来須…どうしてお前…そんなに優しくて冷たいの?…」



分かっている。お前が俺を受け入れられない事は分かっている。
俺が一番望んでいるものを。俺が一番欲しいものを。
お前が与えることが出来ないから。それが出来ないから、お前は。

お前は中途半端なままでは絶対に、俺を受け入れはしない。

分かっている。分かっているよ。そういう奴だから俺は好きになったんだ。そんなところが、俺は何よりも好きなんだ。
お前がもしも何処にでもいるような奴で、中途半端な優しさで俺を受け入れたならば。そんな奴だったら、俺は。俺はこんなにもお前を好きにはならない。


「…ずっとも…永遠もいらない…だから今だけでいい。そばにいてくれ」
この言葉が嘘だということなど、お前は嫌と言うほどに分かっているだろう。俺が望むものが。俺がただひとつ欲しいものが『お前』だから。
そう、俺は。俺はお前だけが、欲しいんだ。ただ独りお前だけが、欲しいんだ。
「それは、出来ない」
うん、分かっている。そう言うと思った。そう言うのがお前の優しさなんだと。優しさなんだと、分かっている。永遠が叶えられないお前は、ならば少しでも俺から離れそして。そして別の誰かを選べと言うのだろう。

――――でも、遅いよ。もう遅いんだよ、来須。

「残酷な優しさだね、来須」
遅いよ。そんなのもう遅いよ。だって俺は髪の先から指の先端まで、全て。全てお前という存在で埋められているんだ。お前だけで、埋められているんだ。
「そうやって俺を拒絶すればる程に…俺はお前を求めずにはいられないのに」
お前が始めから俺を受け入れてくれたならば。俺はただ溺れるだけでよかった。刹那の快楽と安らぎに溺れるだけでよかった。それ以上にもそれ以下にもなにないのに。けれどもお前がかたくなに俺を拒否し続けるから。お前が俺を受け入れないから。
「…お前だって…そうなんだろ?……」
だから気が付いた。だから分かった。だから、分かったんだ。俺達を隔てている壁は。本当は誰よりも互いが壊したいと切望していることに。


「…壊せよ…もう戻れないのは…分かっているだろう?……」


もしも本当に自分に半身がいるのなら。
もしも生まれてくる瞬間に分かれてしまった半身があるのなら。
ひとつになる為に必死にそれを求め、そして焦がれ続けるなら。


――――俺の半身は、お前以外にありえない。


「…瀬戸口…俺は必ずお前を置いてゆく。それを分かっていて…お前を受け入れれば、それは俺の自己満足でしかない」
「俺がそれを望んでも?」
「―――お前が…永遠に満たされない……」
「…満たされない?そんなの構わないよ」


「満たされるわけはないんだ。その程度の想いなら、俺はお前にこんなにも焦がれはしない」


「ずっと求め続ける。ずっと想い続ける、ずっと追い続ける。お前が死ねば、俺も死ぬ。そして探すんだ。また、探すんだお前を」
「…俺に時はない……」
「探し続けるよ、ずっと俺は。俺は探し続ける。もう待ったりはしない。お前を見つけ出す」
「―――俺がお前を分からなくても?」
「いいんだよ、分からなくても。俺が憶えているから。全部、憶えているから。だからずっと。ずっと一緒なんだ」


「俺がお前のことを考えている間は…俺達はずっと一緒なんだよ」


探し続けるから。何度も何度も身体を入れ替えて、そして。
そして時間軸を渡り続けるお前を、追い掛けるから。
どんな姿になろうとも。どんな形になろうとも、俺はずっと。


――――ずっとお前だけを、求め続ける。



最初からこうなることはこころの何処かで分かっていた。俺がお前を受け入れずに拒否しながらも。それでもこころの底で俺がお前を求め続ける限り。求め続ける限り、こうなることはきっと。きっと何処かで分かっていた。
「…瀬戸口…俺が願ったものはひとつだけだった……」
見上げる紫色の瞳。俺だけをずっと。ずっと見つめていたその瞳。他に何も映さず、ただひたすらに。たすらに俺だけを、見ていた瞳。
「お前のしあわせを…そしてそれを俺は与える事は出来ない…それでも俺がいいのか?」
「お前以外いらない。お前がいればしあわせも、いらない」
どんな時でも反らされる事のない瞳。俺の前でだけは反られるこのない瞳。この瞳が俺から反らされる事は、もうないのだろう。
「――――分かった……」
ならばもう。もうこれ以外の選択肢を俺は選ぶことは出来なかった。もう出来なかった。


傷つけても、傷つけあっても。お前を苦しめることになっても。
お前を。お前を結果的に追い詰めることになっても。


――――それでも…お前が求め、そして俺も…お前を求め続ける限り……



抱きしめた、その見かけよりもずっと華奢な身体を。想いの全てを込めて、抱きしめた。
「…分かった、瀬戸口……」
そこに未来がなくとも。そこに永遠がなくても。今しかなくても。
「…もう何も言わない…俺を追い掛けろ……」
それでもお前が望んだ事ならば。それがお前の望む『しあわせ』だと言うのならば。
「…ずっと追い掛ける、来須…お前だけを……」
お前がしあわせだと、言うならば。もう俺には、お前を拒むことは出来ないから。


それならば後はただひたすら。
ひすら俺の全てで、お前を護ろう。
時が引き裂くその日まで。
俺の全てでお前を愛し、そして護ろう。


――――俺にはそれしか、お前に与えてやれないから……



伝わればいい。ただひとつ、伝わればいい。
この想いが、伝わればいい。このただひとつの想いが。




どんなになろうとも、願うのはお前のしあわせだと。



END

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