冷たい花

――― 一面に散らばった、冷たい花。


お前をしあわせにしてやりたかった。
孤独と永遠と、そして傷を持つお前を。
そんなお前を俺は、ただ。
ただ少しでも癒せたらと、それだけを思った。

凍り付くほどの長い時間、繰り返される命。その中で少しでも、安らぎを与えたかった。



「お前の優しさは、俺を傷つける」
挑むような瞳で俺を見上げ、それでもその奥に微かに見えるものが。その色彩が、俺を捉える。捉えて、離さない。
「―――冷たくして欲しいのか?」
どんなに全てを拒絶しても、しようとしても。それでも最期に見せるものが、淋しさならば。壊れるほどの、淋しさならば。
「…分からない…でも俺は……」
俺はと…その後に続ける言葉を多分俺は知っている。でも、俺の口からそれを告げることは永遠にないのだろう。その答えを、俺がお前に与えてやれない以上。



傷つけ合うくらいに愛していた 夢は絶望になった 知らぬうちに
差し込む光が すきま風が 濡れた頬にいたく 浸み入るよう



優しくしてほしくない。
冷たくして欲しいわけでもない。
ただ俺は。俺はお前がそばにいてくれればよかった。
それだけで、よかった。


ただお前がこうして、俺の傷を。永い時の中で積み重ねられたこの傷を。
その傷にそっと触れて、そして剥き出しになったものに触れてくれたら。

―――それだけで良かった筈なのに……

何時からこんなに願うようになったのか。
何時からその存在をこんなにも求めるようになったのか。
刹那で良かった。一瞬で良かった。
ただひとときの安らぎをお前が与えてくれたから。
それだけで良かった筈なのに。


…刹那も、一瞬も、永遠も…全部、切り捨ててしまいたいと願うほどにお前を求めて……


どうせ明日という日はあって 何かが満たしてゆくの 
いつの日か 根拠のない 小さな新しい夢 手の平に感じてるの


明日なんてこなければいい。時なんて流れなければいい。
今ここに、お前がいるこの瞬間が全てならば。それだけで。
それだけでいい。それ以外いらない。もう何もいらない。


「…何でお前…俺だけのものじゃないの?……」
欲しいもの、ただひとつ。欲しいものは、ただひとつ。
「…どうして…俺だけのものじゃないの?……」
ただひとつだけ。お前だけが、いればいい。お前だけが。


泣きながら求めれば。心から叫べば、お前が手に入るならば。
こんなにも苦しいことなんて、ないのに。


「…瀬戸口……」
俺を抱きしめる腕は優しい。優しすぎるから、苦しい。
「…何で…どうしてこんなにも俺は…」
分かっていた事だ。これはひとときの夢だって。分かっていても俺はお前を求めた。
「…こんなにも俺は…お前を……」
差し出される手は、永遠ではないと分かっていても。


お前は何れか、時を越えてゆく。
俺を置いて、時を巡りゆく。
俺は永遠の輪廻の輪の中で、ただ。
ただ繰り返し再生されるだけ。
もう次に生まれたら、お前はいないのに。


――――何処にも、お前はいないのに……



清らかな心で ぶっ潰したい 夢も希望も捨てた 自分の手で
怖れていたもの 何だったっけ そう 今はもうわからないし わかりたくもない



「…何で…こんなにもお前を…俺は……」



もしも、お前が泣いたなら。その紫色の瞳から涙が零れたら。きっとその方が、俺は。俺は救われるのだろう。お前が声を上げて泣いてくれたほうが。
「―――瀬戸口…俺は……」
けれどもお前は決して泣きはしない。寸での所でその想いを閉じ込めて、そして。そしてやっぱり挑むように俺を見上げる。涙を流さない瞳で、俺を。
「それでもお前を、放って置けないんだ……」
手を差し伸べたのは俺だ。全てを拒絶しているお前の傷に気付いて、放って置けずに。こうして。こうしてお前の傷に触れて、そして。
「分かってる、それがお前の優しさだ。残酷な、優しさだ」
そして、こうして抱きしめずにはいられないんだ。


ここからまた日は昇って この空に痛切に何かを感じても
想い出と切なく語らうことが 何の役に立つってゆうの



「…何で…俺…こんなにもお前…好きなんだろう……」



分かっていた事なのに。互いに分かっていた事なのに。
ふたりに永遠はない。ふたりに未来はない。ただ。
ただ僅かな時間、ひとときの安らぎと。そしてそれ以上の。
それ以上の淋しさを、こころに植え付けるだけだって。

―――互いに分かっていた筈なのに……

想いは溢れて。こころから溢れて。
こんなにも切望するほどに。こんなにも狂うほどに。
お前という存在に執着している自分が。
こんなにもお前という存在を、求めずにいられない自分が。


「…来須…好きだ…お前だけが…これから先も…ずっと俺は……」
求め続けるものが、永遠でなく。願うものが、刹那でもなく。
「…ずっとお前だけを…求めさ迷うしか……」
一瞬が。この一瞬が、全てになればいいと。時が止まってしまえばいいと。
「…それしか…きっと…出来ない……」


『死』すらも俺達には無意味で。
ただ今の身体がなくなっても、記憶は消えることなく。
お前への想いは消される事がなく。
このままずっと。ずっと思い続け、そして。


そして崩れ壊れゆくしかないのだから。



冷たい花が、散らばってゆく。
一面に広がって、そして飛び散ってゆく。
その中に埋もれ全てのものが消滅したら。


記憶も未来も肉体も、心も愛も魂も。


結局何処にもゆけずに、何処にも辿り着けずに。
巡りゆく時の輪の中で、ずっと。ずっとずっと。


お前のかけらを、捜し続けるしかないのならば。




「…何で…俺の全てを消してくれない?お前の腕の中にいる間に……」




身体も、こころも、記憶も、魂も、全部。お前に愛されている、今この瞬間に。



END

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