夢の礫

無数の夢のかけら。たくさんの夢の礫。
それを拾い集めて、そして。
そして手のひらで組み立てたならば。
そこにある未来は、きっと。

きっと、何よりもかけがえのないものになるから。


目を開いた瞬間に、君の綺麗な寝顔が飛び込んで来た。一瞬心臓が止まりそうになるほどどきどきして。そして。そして次の瞬間に込み上げて来るのは、小さなしあわせだった。
「…来須……」
そっと名前を呼んでみる。けれども聴こえてくるのは寝息だけで。穏やかな、寝息。でもそれが俺には何よりも嬉しかった。
こうやって俺が隣に眠っていている事に、君が安心している証拠だから。
我ながら単純だと思う。こんな些細な事でも口が綻ぶのが止まらない事が。きっと今君が俺を見ていたら『馬鹿』と言うのが目に見えているけれども。
「あーあ、俺…やっぱスゲー君に惚れている……」
言って見てああ、完敗だなと思った。今更なのは分かっているけれども。それでも改めて思うとちょっとだけ悔しい。でも。でもそれ以上に。
金色の綺麗な髪と、怖いほど整った顔と。厚い胸板と、そして。そして何よりも広くて優しい腕が。その腕の中が大好きだったから。


―――夢の、礫。
小さくて、でも。
でもきらきらとしているもの。
何よりもかけがえのないもの。
何よりも大切なもの。

それはふたりが築き上げてきた、小さなしあわせだから。


上半身を起こして、そっと。そっと君の唇にキスをした。何時もキスは君からだった気がする。俺がして欲しいなと思う前に、君が。君が先回りして、僕にそっとキスをしてくれるから。
―――君のそんなところもまた、どうしようもない程に好きなのだけれども……

「……目覚めの、キスか?」
「わっ!」
唇が離れた瞬間に、君の腕が俺を抱きしめて。抱きしめて、そしてひとつ微笑った。心臓に良くない君の綺麗な笑顔に、俺は不覚にもびっくりした声を上げてしまう。
「悪くないな」
そんな俺の髪を君はひとつ撫でると、そのままもう一度俺の顔を自分へと近づけさせる。俺はその無言の要求を拒む事が出来ずに、もう一度君にキスをした。そっと、キスをした。
「…何時から、起きていた?…」
「キスで目が覚めた」
「本当か?」
「本当だ、随分疑り深いな」
またひとつ君が微笑う。ズルイと、思った。君にそんな顔をされたら俺は反撃出来なくなってしまうから。そんな君の、笑顔は。
「まあ、お前からキスしてくれる事なんてないから…嬉しかったけどな」
そしてそんな君の言葉に、俺はやっぱり嬉しさが押さえきれなくて。どうしようもなく、嬉しくて。


しあわせが、降って来る。
少しづつ降り積もってゆく。
何時かそれが両手で抱えきれなくなって。
いっぱい、いっぱい溢れたならば。
溢れたならば、きっと。

―――きっと、もう何もいらないと思うんだろうな……


「だって、君が」
「うん?」
「俺がキスしたいな…って思う前に、キスしてくれるから」
「お前がして欲しそうな顔をするからだ」
「―――ヴ…し、してねーよっ!」
「しているぞ。俺には分かる」

「俺だけには、分かる」


髪を撫でる大きな手。大きくて、優しい手。この手が人を護る手。何時も前線で戦い、傷つき、それでも全てを護る手。俺はそんな君の手が何よりも、誇りだから。
「…している…かもな……」
誰が何を言っても、俺には分かっているから。君がどれだけ優しい人なのかを。幻獣を殺しながらも、君は自らの心を痛めている人だから。誰にも分からなくても、俺だけは分かっているから。
「ああ、している。今も、だろう?」
君の言葉に否定出来ない俺がいる。おかしいだろうか?俺は君になら何度キスされても飽きる事はなくて。決して飽きる事も、満たされる事もないから。もっと、もっとと。求めずにはいられなくて。
「…うん……」
小さく頷いたら、もう一度。もう一度君は、キスしてくれた。誰よりも優しい、キスを。


夢のかけら。夢の礫。
零れてゆくもの。
少しずつ零れてゆくもの。
でもその全てを。
その全てを俺はこの手で。
この手で掬うから。

―――君と過ごした日々は、俺が全てこの手のひらに……


「今まで色んな女の子と付き合ってきたけど、俺」
何気ない仕草。何気ない日々。何気ない日常。でもその全てが。
「俺、こんな気持ちになった事はなかった」
その全てがこんなにも大事で。こんなにも大切で。
「こんな些細な時間すら、どうしようもなく大切だと思うことなんて」
何よりも俺にとって、かけがえのないものだから。
「今こうしている時間ですら、俺にとって」

「…俺にとって…すげー大事…だから……」


俺の言葉に、君は微笑う。
そっと、微笑んで。そして。
そして言葉の代わりに。
もう一度キスを、くれた。


何時も君は、先回りしている。
俺の気持ちを先回りして。
そして。そしてそれ以上のものを。
俺に与えてくれるから。だから。
だから俺は、ひどく。

―――ひどく、欲張りになっていってしまうんだ……



「…俺も…大事だ……」



小さな礫。夢の、礫。
ゆっくりと、ふたりで。
ふたりで積み上げて。
それは不器用かもしれない。
それは歪なのかもしれない。
けれども。けれども何よりも。
何よりも俺達にとっては。

―――何よりもかけがえのないモノだから……




「お前がいて、始めて気が付いた…何でもない日々がこんなにも大事だと言う事を…」


END

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