地上の星

――――地上の星が、そっと。そっと、ふたりを照らす。


夢は夢でしかなく、希望はただの希望でしかない。
現実と言う大きな壁がそこにある限り、私達は何処へも進めない。
何処にも辿り着く事が、出来ない。

それでも夢を希望を、祈りを…言葉にするのは愚かなのだろうか?



貴方だけが私の全て。貴方のためになら私はどんな道化にも、どんな愚か者にもなろう。貴方のその小さな手を、そのぬくもりを、護ることが出来るならば。
「…星が、ふってくるね。きれいだねえ」
見上げる大きな瞳は。夜空の星を照らして、そっと輝いていた。世界にただふたつしかない貴方の瞳。貴方だけの、瞳。
「綺麗ですね」
微笑って、貴方を見下ろせば。大きな瞳が私だけを映し出す。その瞬間が何よりも私にとって変え難く、そして愛しい瞬間。ただひたすらに、愛しい時。
「きれいだね、ずっとね。ずっとひろちゃんと、見ていたいな」
小さな手が、そっと。そっと私の指に触れる。その手を握れば、小さな手のひらは私の手の中にすっぽりと納まった。その小さな、手のひらは。
「―――私も…貴方と、見ていたいですよ」
こうして、ずっと。ずっと手を繋いでぬくもりを感じていられたならば、他に何も望まない。

――――私の世界に、貴方だけがいてくれれば……



ずっと、みてきたから。ずっとね、貴方だけを見ていたの。
生まれてからずっと。試験管の中から、ずっと。
ずっと貴方だけを、見つめてきたの。生まれてから、ずっとね。
指がね、かたちになったとき。一番に貴方に触れたいって思った。
声が喉から出るようになったとき。まっさきに貴方の名前を呼びたいって思った。
ふれたかったのは、よびたかったのは、ただひとりだけ。
ずっと。ずっと、ずっと、あなただけ。



「ひろちゃん、いつかね」
私達に何時かは来るのだろうか?貴方は永遠に時を止め、私は道化の仮面を被り。
「いつかね、またここにこようね」
こうして自ら作り上げた命に恋をし、この小さな命に恋をし。
「ここに、いっしょに、ね」
それでも私は自らの手で貴方の時を止める。貴方の成長を止める。子供のまま。このまま。
「いっしょに、ね」
このまま永遠に貴方を地上に閉じ込める。


私は愚かな生き物だ。自らの実験の為に作りあげた貴方に、恋をしている。決して報われることの無い恋を。


「…ええ、また来ましょうね……」
差し出される指先と、純粋な瞳。私だけを見つめてくれる瞳。
「…ふたりで、来ましょうね……」
貴方の時を止めたのは私。貴方に絶対的な価値を与え、ただのクローンで終わらせなかったのは私。けれどもその代償に。代償に、私は。
「―――ふたりで」
私は貴方と永遠に結ばれることは無い。こうして貴方を地上にとどめている限り。


貴方の背中の羽をもぎ取ってまで、私は。
私は貴方をそばに置きたいと願う愚か者です。
貴方の願いを奪ってまで、こうして。
こうして貴方を、抱きしめているただの愚か者です。


「ひろちゃんが、一番だいすきなのよ」
そっと貴方を抱きしめれば、小さな手は背中に廻る。そしてぎゅっとしがみ付く。
「誰よりもいちばんだいすきなの。だからね」
必死に私にしがみ付く貴方を。貴方を誰よりも愛している。
「笑って、いて、ね」



昔は、思っていた。大きくなってひろちゃんのお嫁さんになりたいって。
でも今は。今はそれよりも、貴方に笑っていてほしい。貴方がしあわせでいてほしい。
大きくなることよりも、大人になることよりも、それが一番。

―――― 一番の、ののみの、願いなの。

大きくなるとね、ののみは『はいきしょぶん』になるってひろちゃんが言ったから。
だからね、ののみは大きくなれないんだって。大きくできないんだって。
別にののみはね、それでもよかったの。それでもよかったけれど。でもね。

ひろちゃんがののみがいないのを、淋しいって思ってくれるから。

へへへ、しあわせだな。すごく、しあわせだな。
ののみのこと、そういうふうに思ってくれてうれしいな。
うれしいよ。すごく、うれしいよ。だって。
だってののみも。ののみも、ひろちゃんがいればそれだけでしあわせなんだもの。


だからね、あきらめたの。お嫁さんになれなくても、大人になれなくてもいいの。
ひろちゃんがね、淋しくなかったから。ひろちゃんがうれしかったら、それだけで。
それだけで、ののみは。ののみは、しあわせなのよ。



「…星が、降ってくるね…ひろちゃん……」



地上の星。貴方は輝けるただひとつの星。
地上を照らす、最後の優しさ。綺麗な優しさ。

夢も希望も、願いも。それはただの『想い』でしかなくても…それでも……。


それでも繋がっている手のぬくもりは、あたたかくて。
見つめあっている瞳の先に映るものは、互いの存在だけで。
運命の前ではどんなにちっぽけで、ただのかけらでしかなくても。

それでも私達は精一杯生きている。そして、恋をしている。



「ええ、降っています。貴方の瞳に貴方の心に…そして私の心にも……」
「…うん、降っているね…ふって、いるよ……」

「…きれいだねえ……」



貴方の瞳に星が、映る。地上の星が、そっと。
それを私は永遠に閉じ込める。私の心の中に、閉じ込める。




――――貴方は私のただひとつの輝ける星。


END

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