散らばったゴミ屑の中に、ぽつりと貴方がいた。ぽつりとそこにあって。
そして。そして目が合った瞬間に、そっと。そっと貴方が微笑った。
「…ひろちゃん…見つけてくれたのね」
がらくただけがこの大きな箱に散らばっていた。たくさんのゴミ屑、たくさんのがらくた。どれもこれもが軍にとって、世界にとって必要のないもの。要らない、もの。それが山積みになって、埋もれてゆく。ぱらぱらと頭上から降り注ぎ、要らないもので埋められてゆく。
「―――捜していました…貴方だけを……」
世界は選択をした。ただ一人のHEROを選び、そして全ての『悪』を倒し平和が訪れる。運命が勝手に名前をつけた『悪』を『正義』が滅ぼす。
それが世界の選択で、それが絶対に正しい事だった。それが平和で、正義だった。
―――そして私達は…そこから取り残され…零れていった……
要らなくなった機械の破片。ぼろぼろになった剣。銃弾のなくなった銃。幻獣のぬけがらのような死体。たくさんのがらくた、たくさんのゴミ屑。
「やっと見つけた…ののみ……」
要らないもの。必要のないもの。廃棄するもの。もうこの世界に不必要なもの。世界が捨てようとしているもの。
「…やっと…貴方を……」
少しだけ欠けている貴方を、両手で抱き上げた。宙に浮いた貴方の身体がぽろぽろと剥がれてゆく。貴方の破片が屑になり、がらくたとともに落ちていった。
「へへへ、ひろちゃんだ。ひろちゃんだ」
貴方の手が伸びて、ぽたりと箱の中に落ちた。それでも私はその身体を抱き上げ、腕の中に抱きしめる。もう一方の手は既に。既にこの箱の何処かへと紛れ込んで見えなくなっていた。
「…ののみ…やっと…貴方を抱きしめられる……」
髪を、撫でる。リボンだけは残っていた。貴方で出来ていないそのリボンだけは綺麗に髪に結ばれたままで。
それだけが何も変わらずそこに在ることが、何よりも切なかった。
ぎゅっ、てね。ぎゅって、抱きしめたかった。
大好きなひろちゃんの背中に、ぎゅって。
ぎゅってね、抱き付きたかったけれど。けれども。
手が何処かにいっちゃったから。何処かに落ちていっちゃったから。
だからもうぎゅって、出来ないの。
――――それでもひろちゃん、ののみのこと…抱きしめてくれる?
「ひろちゃん、ひろちゃん」
いっぱい名前を、呼びたくて。いっぱい、いっぱい。
「…はい…ののみ…ののみ……」
呼びたかったけど我慢してたから。ずっと我慢してたから。
「…へへへ…ひろちゃん…ひろちゃん……」
名前呼んだら、ひろちゃんに迷惑がかかるから。でも今は。
「…ひろちゃん…好き……」
今は呼んでも、いいよね。貴方の名前呼んでも、いいよね。
「―――私もです…ののみ…貴方だけが……」
世界から取り残されてゆく。ぽろぽろと、零れてゆく。
未来と言う器から貴方が落とされてゆく。それならば。
それならば、私も。私も落ちよう。貴方とともに。
―――堕ちよう、何処までも。貴方とともに、何処までも。
やっとふたりになれるのだと思った。やっと私達はともにいられるのだと思った。もう誰も二人の邪魔をしない。もう誰も私達を傷つけはしない。未来と運命から捨てられた私達は、やっと。やっとこうしてともに在る事が…出来るから……。
ぽろぽろと、少しずつ。少しずつ貴方が欠けてゆく。
欠けてゆく貴方にそっと。そっと私は口付けた。
本当はもうこんな『入れ物』など必要ないけれど。
それでもやはり、貴方は貴方だから。貴方は、貴方だから。
「…好き…ひろちゃん…貴方だけが…好き……」
夢を見ていた。ずっと、夢を見ていた。貴方とともにいる夢を。貴方とともに在る夢を。
「…ずっとね…ずっと…好き……」
ただそれだけで。ただそれだけが。祈りでそして、願いで想いだった。それだけが、私にとっての永遠の夢だった。
「…だいすきなのよ……」
だからもう。もう何も必要ない。何も望まない。何も願わない。こうして腕の中に貴方が存在する限り。
大きなゴミ箱の中に。ガラクタの中にただひとつの。
ただひとつの輝ける星。私の、星。
こうして手のひらで掬い上げ、そっと包み込み。
そして抱きしめる。夢のような時間の中で。
――――やっと…貴方が私のもとへと…舞い降りた……
「…愛しています…ののみ……」
何処にもないものを、ずっと捜していた。
「…貴方だけを…ずっと……」
何処にもない場所を、ずっと捜していた。
「…愛しています……」
ずっとずっと、私は捜していた。
――――何処にもないものはここにある。何処にもない場所は今、ここに在る。
「…うん…ひろちゃん…ののみも…ののみもだよ……」
このがらくたの箱こそが、私にとっての最期の楽園だった。
END