―――花に埋もれて、死にたい。
どうせ何時しか死ぬのならば、綺麗なまま死にたい。
一番綺麗な自分になって、死にたい。
醜くなる前に、一番綺麗な私で。
…貴方の腕の中で…死ねたならば……
目を閉じて感じる花びらの雨。柔らかく降り積もり、静かに私の身体に零れてゆく。
ひらひらと、ひらひらと、零れ落ちてゆく。
「原、さん」
私を呼ぶ声にそっと目を明けると、貴方の子供のような笑顔。私は何時から、この笑顔から目が離せなくなったのか。
「そんな所で寝ていると風邪引きますよ」
差し出された手に私は指を絡める。暖かい、手。貴方と手を繋いで初めて、こんなにも他人のぬくもりが暖かいと知った。
「ほら手がこんなにも冷たくなってる」
「冷たかったら…速水くん…」
「…貴方が暖めて、くれるでしょう……」
零れてゆく無数の花びらに包まれて。その香りに包まれて、私は。私は静かに目を閉じた。貴方ぬくもりと花びらの香りに埋もれるために。
ゆっくりと貴方の唇が私に触れる。指を絡めたまま感じる身体と、唇の暖かさ。
「原さん」
唇が離れて、私を呼ぶ声に瞼を開く。そこには貴方の子供のような笑顔。私の一番好きな、貴方の笑顔。
「髪に花びらが付いてますよ」
「髪だけじゃないでしょう?」
「ええ、手にも、制服にも、脚にも…付いてます」
貴方の言葉に私はひとつ、微笑う。今見せている笑顔が私の一番綺麗な顔だと、信じて。
「だったら、取って」
首筋に指を絡めて。そのままそこに口付けて。貴方が私のモノだと言う所有の証を付けて。
「貴方の手と、唇で」
私の言葉にまた、貴方は微笑う。今度は、大人の…笑顔で……。
ひらひらと、ひらひらと。
ふたりの上に花びらが降り積もってくる。
このまま、埋もれてしまって。
ふたりで埋もれてしまってもいいなと、思った。
―――そうしたら貴方、私だけのものになる?
「こんな場所で、誰かに見られたらどうする?」
貴方の耳元で囁きながら、互いの服を脱がしあった。互いに口許に笑みを浮かべながら。
「見られたら、どうしようか?」
「困る?速水くん」
「―――いいえ、困りません」
伸びてくる腕に私はわざと噛み付いた。そこに小さな赤い痕が出来る。それが何だかひどく可笑しくて、私は笑った。
「こんな事されても?」
「困らないですよ、だって」
「…だって?…」
「貴方が僕だけのものだって、見せ付けられるでしょう?」
―――偶然ね、速水くん…私もそう思ったのよ。これで貴方は私だけのものだって、見せ付けられるって…ね。
背中に、爪を立てるのが好き。
消えないように、きつく。きつく爪を立てるのが。
次にこうして抱き合うまで、決して消えないように。
消えないように貴方に、こうやって。
こうやって深く、爪を立てるのが。
―――貴方は私だけの、ものだから……
花びらが降り積もる中、ふたりで抱き合った。
「…あっ…あぁ……」
胸を揉まれ、乳首を吸われ。私の瞼は小刻みに震える。びくんびくんと身体が波打ち、貴方の作り出すリズムに溺れていった。
「…原さん…こんなに…濡れてる…僕が、欲しい?」
何時も指導権を握っているのは私なのに、セックスの時だけは貴方に支配される。貴方の腕の中でメス猫になって、貴方を求める。
「…欲しい…欲しいわ…速水くん…私…あぁっ……」
見掛けよりもずっと長い指。それが私の秘所で蠢く。媚肉は指の刺激を求めて、ひくひくと切なげに震えていた。
自ら腰を押し付けて、貴方を求めた。今は私貴方の奴隷なの。性の奴隷だから。だからもっと。もっともっと私を支配して。
「ぐちゃぐちゃだよ、原さんのココ…いやらしいなぁ…」
「ああんっ」
言葉ですら私は感じた。それを分かっていて貴方は陵辱の言葉を渡しに告げる。そのたびに身体がどんどん熱を帯びてゆくのが自分でも分かるから。
「指こんなに呑みこんでるよ…今何本入っているか分かる?」
「…あぁ…今は…四本……」
「うん、そうだね。もう一本入れる?」
「…指よりも…あぁ……」
「指よりも?」
「…貴方が…イイ…貴方が…欲しい……」
「よく言えました」
貴方が微笑う、私の大好きな子供の笑顔で。そして。そしてそのまま一気に貫かれた。
―――このまま。
このまま、繋がったまま。
繋がったまま、死ねたなら。
死ねたならばしあわせかしら?
このままふたり、花びらに埋もれながら。
「―――あああっ!」
「…原さん…相変わらず…キツい……」
「…あああ…あ…はっ……」
「このままじゃ僕…このまま出してしまう……」
「…はぁ…ああんっ…あぁ……」
「…原さん……」
「…出して…いいわよ…このまま……」
「――でも……」
「…いいからぁっ…ああ……」
もしも子供でも出来てしまったら。
それはそれでも、いいわ。
貴方の子供だったら、私。私大切に育てるから。
意識が真っ白になる。その瞬間に、身体の奥に熱いモノが注がれる。
――ああこれで…これで貴方は私だけのもの……
ひらひら、と。ひらひら、と。
ふたりの上に降り積もる花びらの雨。
この鮮やかな色と、甘い香りに。
ふたりの全てを埋めてしまえたならば。
―――ふたりの、全てを……
…このまま死にたいな、と思った……
END