小指に刻まれた傷は、決して消えることはない。
消えないで、欲しかった。貴方とうちを繋ぐ唯一のものならば。
消えないで欲しかった。どんなものでもいいから、こうして。
こうして形あるものとして、目に見えるものとして。
――――好きなんや…うち…どんなになっても…貴方が好きなんや……
「…あっ……」
髪を撫でる指先は優しくて、そして冷たい。背中から抱きしめられて、そのまま窓に身体を押し付けられた。窓を見下ろせばまだ校庭に生徒が残っていて、外から話し声や笑い声が聴こえてくる。
「…速水、くんっ…離しっ…」
「僕にこうされるのは、イヤ?」
抱きしめられたままそっと。そっと耳元に囁かれる声。軽く息を吹きかけながら、囁かれる声。
「イヤ?森さん」
そのまま首筋に口付けられて、制服の上から胸を揉まれた。女の子よりも綺麗で細い指が、うちの敏感な個所に触れる。
「…ダメ…こんなとこじゃ…いやや…うち……」
いくら二階とはいえ、窓の外から見上げられないとも限らない。そして万が一教室に人が入って来ることもありえるのに。それなのに。
「イヤ?でも僕は今、君が欲しいんだ」
「…あっ…ダメ…あんっ……」
後ろから胸を鷲掴みにされ、そのまま激しく揉まれる。布越しとはいえ、その指で開発された身体は、否がおうでも反応を寄越した。
「…だめぇ…やめ…速水くんっ…誰かに…見られたら……」
「見られてもいいよ。そうしたら君が僕のモノだって、知らしめるだけ」
「…やぁんっ!……」
制服の裾から手が入ってきて、ブラの下から滑り込み直に揉まれた。ひんやりとした手が、皮膚に伝わって、うちは思わずびくりっと身体を跳ねるのを止められなかった。
「…やぁ…あぁ…ダメぇ…いや…あ……」
首を左右に振ってその刺激に耐えようとするが、巧みな指先は容赦がなかった。柔らかい子房の部分を柔らかく揉まれながら、ぷくりと立ち上がった乳首を摘む。ぎゅっと握られて、胸の果実は痛いほどに張り詰めた。
「…あぁっ…はぁ…あ…ダメ…ダメぇ…速水…くん……」
こりこりとした乳首を爪の先で引っかかれた。そのたびにびくんびくんとうちの身体は跳ねて、口から零れるのは甘い息だけで。どんなに言葉で否定しても、明らかに身体は感じていた。貴方を求めて、感じていた。
ずっとうちは貴方が好きだった。
貴方が誰を見ていても、それでも。それでも、好きだった。
貴方が永遠に手に入らないと分かった瞬間。
その瞬間、貴方も永遠に愛する者を手に入れられなかった。
―――死と言うモノが、全てを連れ去ってしまったから……
初めは変わりでもいいと、思った。
どんなにひどい扱いを受けても、それでも。
それでも貴方がもう一度微笑ってくれるなら。
もう一度何時もの貴方になってくれるなら。
うちの好きな速水君になってくれるなら、と。
でも今それが、苦しい。何よりも、苦しい。
キイイーと嫌な音が耳に響いた。うちの爪が、目の前のガラスを引っ掻いた音だった。脚が震えまともに立てなくなったうちのついた手が、ガラスを滑ってゆく。
「…あぁんっ…やぁっ…ソコは…ダメ…ぁぁ……」
片方の手は胸を弄ったままで、もう一方の指がうちの制服のズボンを下着ごと膝まで下ろすと、そのまま茂みに指が触れた。ゆっくりと外側をなぞり、花びらをくいっと引っ張る。その刺激にうちは耐えきれず、窓に手をついた。
「…やめ…だめ…あぁぁっ…あんっ……」
手がうちの中へと入ってくる。指が蕾の中へと入ってくる。くちゅりと音を立てながら、閉ざされた蕾を開いて。開いてそのまま激しく中を掻き乱して。
「…あっ…あんっ…あんあんっ!」
とろりと密が零れてくる。どんなにされても、貴方の指の感触に馴染んだ身体は自然に反応を寄越した。中を掻き乱す指に。媚肉を押し広げる指に。溢れるのはうちの恥ずかしい愛液だけで。
「ぐしょぐしょだよ…森さん…もう我慢出来ないの?」
「…ちがっ…!」
「嘘、こんなに身体は感じている。欲しいんでしょう?ココに。僕が欲しいんでしょう?」
「ああんっ!!」
剥き出しになったクリトリスを貴方はぎゅっと指で摘んだ。それだけで、うちはイキそうになった。ソコを嬲られて摘まれると、もうそれだけで。それだけでうちは…。
「…言って…森さん…『欲しい』ってね……」
耳元に囁かれる熱い吐息。熱い言葉。でもきっと。きっと貴方の心は今一番冷え切っている。一番貴方のこころが冷たくなっている。冷たい、こころ。
……ねぇ…うちではそれを溶かすことは出来ないの?
どうしたら、貴方を。貴方のこころを、暖められるの?
こうして抱き合っても、体温を分け合っても。貴方は冷たい。
身体の熱は伝わるけれど、こころの熱は何処にもない。
ねぇ、どうしたら。どうしたらうちは、貴方を。
――――貴方を、あたためてあげることが出来る、の?
「…言って…僕が欲しいって……」
うん、欲しいよ。うち、貴方が欲しい。
「…言って…森さん……」
貴方のこころが、欲しい。貴方の傷ついたこころが。
「…言って…ねえ……」
うちは、貴方だけが欲しいよ。
「…欲しい…速水…く…ん……」
腰を抱えられて、そのまま浮かされた。その入り口に硬いモノが当たって、中へと入ってくる。すぶずぶと音を立てながら、熱く硬い欲望がうちの中へと入ってくる。それは激しく猛り、そして痛いほど切なかった。
「…あああっ…あああんっ!!」
腰を激しく揺さぶられ、楔を抜き差しされて。そのたびに媚肉が擦れあい、股間を濡らした。貴方の一番硬い部分がクリトリスに当たり、ソコを何度も擦られるたびに。そのたびに、うちは。
「…あぁぁっ…ああんっ…あああんっ!」
貴方の手が、うちの手に重なる。ガラスを引っ掻くうちの手に重なって。そのまま後ろから激しく突き上げられた。そのたびにキイイーと嫌な音が室内に響く。でももう、その音すらも気にはならなかった。
「…あぁ…あぁぁ…もぉ…うち…うちっ…あああ……」
下から聴こえてくるはしゃぎ声も、廊下から聴こえてくる微かな足音も、全部。全部、もう。もうどうでもよくなって。後はただ。ただ貴方の熱と激しさを追うだけで。それだけ、で。
「…うち…もぉ…もぉ…だめぇっ…!」
ぽたりと、液体が頬に飛んだ。それは血、だった。うちの指先が流した血。貴方の爪が引っ掻いて、零したうちの血。貴方だけがうちに刻む、指の傷。
「―――森さん…僕もだよ…出すよ……」
「ああああああっ!!!!」
貴方だけが、つける、指の傷。貴方だけが、うちにつける、ゆびのきず。
消えない傷。消えなくて、いい。
ずっと。ずっと、消えないで。
この傷が貴方のこころの痛みなら。
それならばこうして。こうして少しでも。
少しでも、分け合いたいから。
――――貴方の傷を、うち…分け合いたいよ……
「…僕だけのものだ…君は…僕だけの……」
貴方の執着が、失ったものへの怯えから来るものだと分かっている。
「…僕だけの…ものだ……」
うちを通して別のものを見つめているのも分かっている。それでも。
「…僕だけの……」
うちはね、速水くん。貴方が、好きです。
…何時しか目に見えない傷で…ふたりが繋がれたらいいな…と…思った……
END