君の、てのひら

好きが、いっぱい。
いっぱい、いっぱい、好きだよ。
好きがたくさんありすぎて。
ありすぎる、から。
いつしかその気持ちで、埋もれてしまうかもしれないね。


―――手を、繋いで……

「たかちゃんのて、おおきいね」
重ねあった手に、君は大きな瞳を向けながら笑った。無邪気な笑顔。この笑顔を、絶対に俺は壊したくない。どんな事があっても、ただひとつ。ただひとつ俺が護りたいもの。
「ののみの手は、小さいね」
重なり合った手を、俺はそっと包み込んだ。俺の手にすっぽりと包まれてしまう小さな手。けれども、暖かい手。誰よりも優しい手。
―――世界にたったふたつしかない、小さな手のひら。
「ちいさいの、いや?」
「イヤじゃないよ、可愛いよ」
髪を撫でて、額にキス。それだけで甘やかな気持ちになれるのは君だけだから。


君に、キスする。
唇以外に、キスをする。
それ以外に、全部。
全部余す事無く、キスをする。
大事だから。大切だから。
そんな簡単に君に。
君の唇にキスが、出来ないんだ。


「おおきな、て。ののみのてぜんぶ、かくされちゃうね」
包み込めば見えなくなる。俺の手の中に隠されてしまう。このまま。このまま全部君を隠してしまいたい。全てのものからその小さな身体を。
「うん、隠しちゃうね」
小さな君を俺の中に隠してしまいたい。誰にも君を見せたくない。もしも君がこの手のひらの中に収まるほど小さかったら…俺は誰にも君を見せはしないのに。
「隠したいよ、ののみを」
「どうして?たかちゃん」
―――君を、俺だけのものにしたいから。
「君が小さいから、外に出すと心配なんだ」
―――誰にも君を、見せたくないから。
「幻獣に危ない目に遭わされないようにね」
―――君に他の誰も見てほしくないから。
「へへへ、たかちゃんってしんぱいしょーだね」
微笑う、無邪気な顔。ただ一人俺の前に降りた小さな天使。その背中の羽を誰にも引き千切られないように。誰にも奪われないように。君の綺麗な心が誰にも染まらないように。真っ白な君の心に色が付かないように。
俺はずっと。ずっと君を護ってゆきたいから。
「心配だよののみは…ののみは…小さいから……」
そう言って抱きしめる身体の暖かさに何故かひどく泣きたくなった。


…ちいさいと、しんぱいなの?たかちゃん……
でもののみ、おおきくはなれないの。
おおきくなりたくても。
なりたくても、なれないの。
ののみたかちゃんにしんぱいさせたくない。
そんなきもちにさせたくない。
でも、でもね。おおきくなることだけはできないの。
どんなにたかちゃんといっしょのいちにたちたくても。
どんなにたかちゃんとならんであるきたくても。
ののみのとけいと、たかちゃんのとけいはちがうから。

…ごめんね…たかちゃん…でも…ののみ…たかちゃんが…すき……


「ごめんね、たかちゃん」
だいすき、たかちゃん。だいすきなの。
「おおきくなれなくて」
すごくすごく、だいすきなの。
「ごめんなさい…たかちゃん……」
だいすきなのに、めいわくかけて。
「…ごめんなさい……」
いっぱいめいわくかけて、ごめんなさい。

…でもでもののみ、たかちゃんが……


「―――ののみ…泣かないで……」
君の大きな瞳からぽたぽたと零れて来る涙を、俺はそっと手で拭った。君の綺麗な、涙を。
「…泣かないで……」
そのままそっと。そっと身体を抱きしめる。壊れないように、壊してしまわないように。そっと君を俺は抱きしめる。小さな、小さなその身体を。
「いいんだ…ののみはこのままで…このままで…いいんだ…」
「…でも…でも…ののみ…なにもできない……」

「…ふつうのおんなのこみたいに…たかちゃんにしてあげれない……」


おおきくなれないから、ののみ。
ののみたかちゃんのおよめさんにもなれない。
たかちゃんといっしょにいきていけない。
たかちゃんとずっといっしょに。
…いっしょにいられない……。


「いいんだよ、ののみには。ののみにしか出来ない事があるんだから」
「…たかちゃん?……」
「他の女の子では出来ない…ののみにしか出来ない事があるんだから」

「君だけだから…俺をこんな気持ちにさせるのは…」


―――君だけ、なんだ…俺をこんなにも暖かい気持ちにさせるのは…

こんなにも、優しい気持ちにさせるのは。
こんなにも、切ない気持ちにさせるのは。
他のどんな女の子でもこんな想いにはならない。
こんなに想いは溢れない。
君だけが。君だけが、俺にそれを与えてくれた。


「君以外、誰も出来ないんだよ」


好きと言う言葉ならば、いくらでも告げられる。
ただ愛しているとは言えないだけ。
愛していると言ってしまっては、いけないだけ。
もしもその言葉を言ってしまったら、俺達は。
俺達は、この身を引き裂くしか出来ないから。
大人になれない君。ともに時間を歩めない君。
もしもそこで愛していると告げてしまったら。
告げてしまったら、俺達は未来の糸をきっと切ってしまうから。

そんな事は出来ない。君は俺のただひとつの大切な命だから。


君が、大事だから。君が、大切だから。
俺は愛しているとは決して言わない。
自分自身よりも君の命が、君の存在が大事だから。
だから決して愛しているとは言わないよ。

どうしても俺達には越えられない、見えない壁があるから……


それでも、俺の手のひらは君に重なっている。
未来永劫この手のひらは。


―――君の、てのひらに重なっている……


END

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