殺して、あげる。

――――殺して、あげる。

私だけを、見ていて。私だけを、愛して。
だって私を手に入れたのならばそうするのが当然でしょう?
私は貴方だけを見ていてあげるから。私は貴方だけを愛してあげるから。
だから私だけを、見ていて。それ以外、許さないから。


抱きしめて、ずっと。
ずっと抱きしめていてあげる。
貴方が寒くないように。
ずっと、ずっと。


――――殺して、あげる。

もしも私以外のひとを愛したなら。
もしも私以外のひとを見つめたなら。
その瞬間に殺してあげる。


指を絡めていてあげる。
ずっと手をつないでいてあげる。
貴方が淋しくないように。
ずっとずっと。


一緒にいたいだけなの。
ふたりでいたいだけなの。
ただそれだけなの。
他には何も望まない。
他には何もいらない。
貴方がいて、私がいて。
ただふたりでいられれば、それでいいの。

―――ふたりでいたいだけなの。


だって貴方は私の愛したひとだもの。
私だけが愛したひとでなければだめなの。
―――だから、ね。
誰にも、貴方を渡したくはないの。


「私のこと、好き?」
大人の顔で微笑いながら、貴方に聴く。
「うん」
そんな私に貴方は子供のように微笑うの。
貴方の笑顔、大好きよ。大好きだから。
だから誰にも、渡したくないの。


私は貴方の前では一番綺麗な顔をするから。


微笑って。一番綺麗な笑顔で微笑って。
貴方の瞼に、瞳に、その笑顔を焼き付けて。
焼き付けて、私は。

――――最愛の貴方の命を私は……
誰よりも幸福な笑顔で、奪ってあげるから……



「…綺麗だよ…原さん……」
ええ、だって貴方を見ているもの。大好きな貴方だけを見ているもの。
「…とても…綺麗だよ……」
血塗られた手で私の頬を髪を撫でる貴方。好きよ、大好きよ。貴方だけが、好き。
「…好きだよ…君だけが……」
ええ、私も。私も貴方だけを、愛している。


暖かい唇にキスを、した。
血の味のするキス。けれども。
けれどもそれはとても。
―――とても、あまい、から。


「…私も愛しているわ…速水くん……」


貴方はあの人とは違う。私だけを見てくれる。
血まみれになって、息も途切れ途切れになっても。
それでも私だけを見てくれる。
私の大好きな無邪気な笑顔を向けながら。


「ふふ、これでずっと一緒ね」


貴方の血の付いたナイフを私は自らの胸に突き刺した。
ぽたぽたと貴方の身体に血が降り注ぐ。
そんな私の血を見てまた、貴方は子供のように微笑った。


―――愛しているよ…と、囁きながら………


END

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