SLOW DOWN

ゆっくりと、近付いて。
少しづつ、触れ合って。
そして、何時しか。

何時しかこころが触れ合えたならば。


不器用な、君。素直になれない、君。でも僕はそんな君が大好きなんだよ。
「…何ですか?じっと見て……」
少しだけ拗ねながら、そう言ってくる君。でもその頬はほんのりと紅くて。その紅さが少し可笑しく、そして愛しくて…僕は一つ微笑った。
「―――って何で笑うんですかっ?!」
そんな僕の様子に気付いて、君は頬を膨らませて怒った。ゴメンね、でもそんな君の表情も僕は愛しくて堪らないんだ。
「ごめんね、精華」
名前で呼んだら耳まで真っ赤になった。君を名前で呼ぶのは初めてじゃないのに、まだ何処か慣れていなくて。目を合わせるのも恥ずかしいのか、俯いてしまう。
「もう…貴方なんて嫌いです」
「嫌いなの?僕の事」
「………」
真面目な声で聞き返せば、君は黙ってしまう。意地を張って、強がる君。素直に言葉が言えない君。こんな時に『違う』の一言がすんなりと出てこない君。でも僕はそんな君が、好きなんだ。言葉にしなくても、上手く言葉に出来なくても。こうやって見ているだけで、見つめているだけで君の気持ちは手に取るように分かるから。そして。そして、僕は。
「―――でも僕は君が、大好きなんだ」
そんな君の気持ちを少しだけ先回りして、想いを告げる。君が言えない言葉は、僕が先に言うから。



優しい、から。
優しすぎる、から。
何時も分からない。
どうしていいのか分からない。
本当は嬉しくて。
本当はとっても嬉しいのに。
その言葉が簡単に言えない。
大好きだって。私も大好きだって。
何時も思っているのに。
何時も心から思っているのに。

―――言葉にしようとすると、どうしても喉の途中で止まってしまう。


「君が、大好きだよ」
俯いたままでも、分かる。貴方がどんな顔をしてこの言葉を言ってくれているのか。どんな顔で告げてくれているのか。私には分かる、けど。
―――けど真っ直ぐ目を見て『私も』と。その一言がどうしても言えなくて。
「…速水…くん……」
厚志って何時になったら呼んでくれるかな?と冗談交じりに言った貴方の言葉を思い出しながら、それでもまだ戸惑ってしまう自分が嫌い。不器用な自分が嫌い。人付き合いが下手な自分が嫌い。そんな自分を隠すように、他人に冷たく当って来た。初めからそうしていれば、初めからマイナスだったなら。これ以上の欠点を曝け出しても、誰もなんとも思わないって思ったから。でも。
―――でもそんな私を貴方は『好き』だと言ってくれた。
「大好きだよ」
もう一度言われて、そしてふわりと。ふわりとその腕が私の身体を抱きしめる。そのぬくもりにそっと目を閉じた。目を閉じて、心臓の音を感じて。感じたら…ちょっとだけ、泣きたくなった。


『…私素直じゃないし…可愛くないし…』
『どうして?森さんは誰よりも可愛いし、素直だよ』
『――嘘ばっかり…何でそんな事を言うんですか?』
『何でって?』

『だって君が、好きだから』


冗談かと思って顔を見上げたら、瞳がひどく真剣で。
痛い程に真剣、だったから。私はひどくびっくりして。
びっくりして、そして。そして気付いたら泣いて、いた。

―――ぽろぽろと、自分でも驚くくらい…泣いていた……。


好き、だったから。ずっと好きだったから。
こんな私でも優しい声と。優しい笑顔で。
私が創った壁を簡単に壊して、そして。
こころの中にそっと、貴方は入ってきたから。

手の届かない人だと思っていた。
たくさんの人の中で。たくさんの人に囲まれて。
皆の輪の中で何時も微笑っていた人だから。
全ての人に優しい貴方は、だから私にも優しいんだと。
そう思う事で、自分を納得させていた。
そう思う事で、諦めていた。
だから。だから貴方からそう言われた時、涙が止まらなかった。


「可愛いよ、精華」
「…あ……」
見掛けよりも大きな手が、そっと私の頬を包み込んで。そして視線が絡み合う。もう私は貴方の視線から逃れられなくなってしまった。
「君が可愛いのは、気持ちが分かるから」
「…速水…くん……」
「君の顔を見ていれば分かる。僕の事を好きでいてくれるって、そして。そして本当は…ちゃんとこころの中では僕の名前を『厚志』って呼んでくれているって」
「…ど、どうして分かるんですか?……」
言った言葉に後悔した。後悔したけど、それ以上に。それ以上に私は、少しだけ嬉しかった。バカかもしれないけど、否定しなかったのは本当の事で。そしてその事を貴方がちゃんと分かっていてくれた事に。
「分かるよ、だって」

「だって、誰よりも僕が君を見ているんだから」



バカみたいな台詞を言っているかもしれないね。
今時こんな事言う奴なんておかしいかもしれないね。
でも僕は、そんな君が好きだから。
素直じゃないと言いながら、何よりも瞳で心を語っている君が。
言葉で否定しながらも、身体で肯定している君が。
そんな君が本当に僕は大好きなんだよ。


「あ、でも」
「…でも?…」
「やっぱり『厚志』は、君の声でちゃんと聴きたいな」
「…っ!……」
「ダメ?」
「…あ、あの…その……」
「聴かせて、そうしたら」

「そうしたら…僕何も要らない……」



真剣な瞳で。
好きだと告げられたあの時の瞳で。
貴方は私にそう言った。
痛い程の真剣な瞳が、また。
また私を泣きたくさせた。
でも、今この瞬間は泣く事よりも。
涙を零すよりも大事なものを零さなければいけないから。

―――ただひとつの、言葉を……




「……し………」



それは多分僕にしか聴こえない声だっただろう。僕にしか聴こえない言葉だっただろう。でも僕には聴こえて、そして。そしてその言葉は僕だけのものだから。


「精華、愛しているよ」


だから僕も言葉で告げる。ただひとつの想いを、そして。
そして、そっと君の唇にキスをした。

―――甘い、甘い、キスを……



ゆっくりで、いいよね。
少しづつで、いいよね。
ひとつづつ、ひとつづつ。
こうやってふたりで。

ふたりで、ゆっくりと近付いてゆけたならば。




―――こころは、そっとひとつになってゆくから……



END

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