指の隙間

―――手のひらから零れ落ちる水。

指の隙間から零れて、そして床にぽたりと落ちていった。
冷たい水が手のひらから零れてゆく。
冷たく凍えた、透明な水が。
それをただ私は冷たい瞳で見つめていた。

―――愛なんて、何処にあるの?


探して、さ迷って、そして見付けた先の。
あまりにも脆く壊れやすいもの。壊れそうなもの。
全てを信じて全てを委ねて、そして壊れた。

「貴方を好きだったのよ」

言葉にするのはとても簡単。声にするのはとても簡単。
簡単にその言葉は過去形になる。けれども。
けれどもそれは表面の言葉だけ。ただ滑り落ちる言葉だけ。
言葉だけがただ零れてゆくだけ。その中にある想いは。
想いはずっと。ずっと自分の心に広がっている。
―――消える事なくこころに、広がり続けている。

「…善行くん…でも…さよならね……」

ぽたぽたと零れてゆく水。
それはもう二度と私の手のひらに戻る事ない。
一度流れてしまったものはもう二度と。
もう二度と返ってくる事はない。
私の手のひらから離れていってしまったものは、もう二度と。
この手のひらに戻ってくる事はない。


愛していたのよ、愛しているのよ。
信じていたの、信じているの。

―――信じて、いる?……


好きだよと、貴方は言った。
私だけを好きだって。
ずっとずっと、好きだって。
愛していると、そう。
―――そう貴方は言った。

……私だけを、愛していると………


それは嘘。嘘嘘嘘。
信じていれば、貴方を信じられたならば。
貴方の言葉を、貴方の想いを信じていたならば。
信じていられたならば。

私の手のひらから、水は零れてゆかない……


ぽたり、ぽたりと。
指の隙間から零れてゆく水。
冷たい、水。凍えるほど冷たい水。
それがこうして。こうして指の隙間から。
もう二度と戻らない。
もう二度と帰ってこない。
零れ落ちた水は、もう二度と。

―――失われたものは、もう二度と還っては来ない。


「貴方が、好きよ」


これが本音。本当の事。でももう二度と言葉にしない。
好きだと言葉にして、零れて落ちてゆけば。
全てが流れ落ちてゆければ言葉にしてもいいけれども。
声にしてもただ。ただ想いが積み重なってゆくだけならば。
ただこころに降り積もって蓄積されゆくだけならば。
私はもう二度と口にはしない。想いを言葉にはしない。

―――貴方を、愛している…とは……


零れてしまえたらいいのに。
この、手のひらの水のように。
私の想いも、私の心も。
全て零れてしまったらばいいのに。
そうしたら、こんなにも。

…こんなにも苦しくはないのに……。


零れてゆく水。流れてゆく水。
ぽたりぽたりと落ちてゆく水。
それは、それは。



……私の、涙………



END

 HOME  BACK 

  プロフィール  PR:無料HP  合宿免許  請求書買取 口コミ 埼玉  製菓 専門学校  夏タイヤを格安ゲット  タイヤ 価格  タイヤ 小型セダン  建築監督 専門学校  テールレンズ  水晶アクセの専門ショップ  保育士 短期大学  トリプルエー投資顧問   中古タイヤ 札幌  バイアグラ 評判