辿り着いた場所

―――ずっと、探していたから……


漂流する魂。流れつづける心。
その中でずっと、ずっと。
ずっと、居場所を探していたから。
ただひとつの場所を、探していたから。


たったひとつ、私が私らしくいられる場所を。


何時も独りだったから。何時も孤独だったから。
完成体である私よりも…もう独りの私の方が…たくさんのものを持っていた。
たくさんのものを持って、たくさんのものを失っていた。
けれども私には何もなかった。得られるものも、失うものも。

―――何も、何も、なかったの。


でも今、初めて気がついた。
でも今、初めて分かった。


ここが私の場所だと。ここが、私がいてもいい場所だと。
そしてここが、私が何よりもいたい場所、だと。


貴方の腕の中が、その場所だったと。



「ここにいても、いい?」
腕の中で呟いた言葉に、貴方はそっと微笑ってくれました。蒼い瞳が優しく私を包み込んでくれました。
「―――いろ、ずっと。ずっと俺の腕の中に」
その言葉に小さく頷いて目を閉じれば、聴こえてくるのは心臓の音。命の、音。とくんとくんと聴こえる小さな鼓動に、私は全てを包まれて。そっと、包まれて。初めて『安心』出来る場所を、手に入れたから。
「ここにいろ、ずっと」
初めて私が私でいられる場所を、与えられたから。


何も持ってはいなかった。
何も手に入れられなかった。
私はただ。ただ、息をしているだけ。
ただ、生かされているだけ。
私には自由がない。私には意思がない。
自分が自分らしく生きられる場所も。
自分が自分らしく感じられる場所も。
そんなものは、何処にもなかった。


―――もうひとりの『私』が、羨ましかった……


完成体である、自分。不完全な妹。
それでもあの子は感じられた。
自分のこころを。自分の意思を、自分の思いを、全部。
全部伝えることが出来て、全部感じることが出来たから。
私にはそれがひどく。ひどく、羨ましかった。


でも今。今こうして私を見つめてくれる瞳が。
私を自由な場所へと連れ出してくれるから。


「私ね、欲しかったの」
「――――」
「何もいらなかったけど、ひとつだけ欲しかったの」
「…恵……」
「私がいられる場所が、欲しかったの」


ここにいてもいいよって。ここにいてくれって。
誰でもいいから言って欲しかった。誰でもいいから、私を。
私を必要として欲しかった。実験ではなく、研究でなく。
私自身を、私の気持ちを、必要だって。

――――誰かに私を、見つけて欲しかった。


「ここがお前の場所だ」
「…うん……」
「俺の傍が…俺の腕の中が…」
「…う…ん……」
「お前がいる、場所だ」


大きな手が、そっと。
そっと私の涙を拭ってくれました。
傷だらけの大きな手が、優しく。
優しく私の涙を、拭ってくれました。



―――この手があれば、私は何処へでも行く事が出来る……



「行くか」
「…はい……」


手を繋いで、指を絡めて。
そして私たちは風になる。
誰も私たちを知らなくても。
誰も私たちを分からなくても。
時代と時間が私たちを消し去っても。
それでもこうして繋いだ手は。


繋いでいる手は、もう離れることはないから。




「…何処までも…ふたりで……」




END

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