Your Song
ぽかぽかとした日差しに、とてもしあわせな気持ちになる。
そのまま瞼を閉じて、全身に太陽の光を感じながら眠ろう。
暖かい、光を浴びながら。
―――ヨーコの名前は、太陽の陽の字から取ったんだよ。
裏庭を歩いていると、ブータを抱いたままヨーコさんが眠っていた。大きな木の下でひどく気持ちよさそうに。すやすやと耳を澄ませば寝息が聴こえてくる。この日差しの心地よさと暖かさを考えたら納得出来るものだった。
「いいなー俺も眠っちまおうかな?」
昼飯を食べたばかりでお腹は満たされて身体はいい感じにだるくなっている。午後のつまらない授業に出るくらいなら、このまま一緒に眠ってしまいたいと思うのもしょうがないよな、と一人納得させてみる。
「いいよなっ」
勝手に自分にOKを出してヨーコさんの隣にごろりと寝転がった。木陰に隠れてちょうど眩しくないのがいい感じだ。けれども身体には太陽の光が心地よく当たっている。何時しか俺の瞼はうとうとと閉じていた。
―――全てのひとが、仲良くなれれば戦いなんて起きないのにね。
「………」
教室へと向かおうとしていた来須の足がぴたりと止まる。その足許にはブータを抱きながら寝ているヨーコと、隣にはグースカといびきをかいている滝川の姿があった。
「―――授業は…いいのか?」
と呟いても眠っている二人と一匹には聞こえるはずもない。更にふと来須は思い返す…もうとっくに授業は始まっている事に…。
自分もはなからそんなモノに出るつもりはなかったくせに、何を今更言っているんだろうと思うと少しだけ可笑しかった。
「…気持ち…よさそうだな……」
ふたりと一匹の罪のない寝顔を見ているとそんな気持ちにさせられた。本当に幸せそうに眠っているのだ。この暖かい日差しの下で。
「………」
しばらく来須は足を止めて、その寝顔を見つめていた。
―――皆がしあわせに、なれますように。
こんなふとした時間が存在する事に来須は、口許に笑みが浮かぶのを押さえきれなかった。けれどもそれは。
…それは自分自身ですら…気付いていなかった……。
穏やかな日差し。ぽかぽかと暖かい太陽の光。
全身に降り注ぐ柔らかい光と、心地よく吹く風が。
ふわりと、包み込む風が。
理由のない優しさと、幸福感を呼び寄せる。
来須は近付いて、二人と一匹の様子を改めて見つめた。微かに聴こえる寝息と、気持ちよさそうな寝顔。そのままつい自分も隣で眠りたくなってしまった。このまま、自分も。
「――悪いな……」
隣の開いているスペースに腰を掛けると、より深く帽子を被った。そしてそのまま来須自身も眠りの淵へと旅立っていった。
それはある意味非常に貴重な光景だったのかも、しれない…。
――――皆を大好きになれたら、世界はきっといっぱいしあわせだから。
「……こ、これは…皆ドーシタのデスカ??」
目覚めた瞬間飛びこんできた光景にヨーコは目をぱちくりさせた。まず初めにびっくりしたのが自分がブータを抱いて眠っていた事。確か最初は一人でここに眠っていたはずなのに、何時の間に腕の中にブータがいたのか?
そして更に隣に眠る滝川と来須にも驚かずにはいられなかった。滝川はともかく(??)来須がこんな風に皆と眠っている事がヨーコには驚かずにはいられなかったのだ。
「…ビックリです…何があったのでショーカ?」
口に出しても答えは出て来なかった。腕の中で眠っているブータが気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。そして。そして眠っている二人の表情もひどく穏やかだった。
―――穏やかだった、から……
「まあ、いいデス。皆、イイ顔して眠ってマス」
穏やかな日差しと心地よい風。今ここが戦争の真っ只中にいる事など忘れさせてしまう程の、暖かな時間。ずっとこの時間が続いてくれればと思う。この穏やかな時間が、ずっとずっと。ずっと続いてくれたら誰も哀しむ事なんてないのに。
「皆きっとしあわせデス」
ヨーコの口許から零れる笑みは、何よりも幸せそうだった。
―――ヨーコの名前は太陽の陽から取ったんだよ。
だから君の廻りにはきっと。
きっといっぱいの暖かいものが集まってくるよ。
太陽の光のように、暖かく優しいものが。
君の廻りにはたくさんの、優しさが。たくさんの、暖かさが。
君の廻りが、光でいっぱいになりますように。
「…いっぱいの…しあわせデス……」
それは午後の些細なひとときだったかもしれない。
それでも今この瞬間は。
…何よりも、あたたかいものだから……
END