CUTE
―――君の、全部を。
全部を僕の瞳に、手のひらに。
その暖かさを、その柔らかさを。
その匂いを、そのぬくもりを。
全部、全部、記憶しておきたい。
君と遠く離れていても。
君が傍にいなくても。
何時も君を感じていられるように。
何時も君といられるように。
―――僕の全てを、君だけで埋めたいんだ。
口付けの後に、目を合わせるのが癖だった。
僕の目を見て、そして微笑うのが君の癖。嬉しそうに微笑うのが、君の決まり事。そんな君が僕にとってはどうしようもなく愛しく、そして可愛くて仕方ない。
「また、笑っている」
頬に手を充てて、僕は君に告げた。すると君は途端に不機嫌になる。それも、何時もの君の癖。
「笑ってないぞ、厚志」
声までも不機嫌なのも、予想通り。分かっているのに、そう言ってしまう僕は少し性格悪いのかもしれないね。
でも君の笑顔も、君の不機嫌な顔も、全部。全部僕は瞳に焼き付けておきたいから。
「笑ってたよ、口許が」
「わっ笑ってないぞ」
耳まで真っ赤になって怒る君の髪を撫でてもう一回、キスをした。その瞬間、ビックリ眼の君の表情が僕の目に飛び込んでくる。それすらも、記憶しておきたいんだ。
―――僕は君の全てを、記憶しておきたいから。
ずっと一緒にいられる未来。ずっと一緒にいる未来。
君と僕はずっと一緒にいると決めたから。
だから記憶しておくんだ。僕の全部で記憶しておくんだ。
例え離れ離れになったとしても、ずっと。
―――ずっと君を、感じている為に………
髪に、触れて。頬に、触れて。唇が、離れても。
「―――舞」
艶やかに濡れた唇を指先で辿る。そのたびにぴくんと小さく肩が揺れるのが、ひどく僕を幸福にさせる。
「…厚志……」
また君は微笑っているよ。でも言葉にはしないからね…今はこの笑顔を見ていたいから。一番大好きな君の笑顔を見ていたいから。
「好きだよ、舞」
僕の言葉に君は小さく頷いた。それだけで僕は充分にしあわせだった。
肉体すらも意味のないものになるように。
こころが繋がっていられるように。
目に見えない本当の事を、ふたりが分かるように。
君の全てを僕が何のフィルターもなしに分かるように。
僕と君だけが、分かるように。
―――君といればきっと何時しか時間すらも無意味なものになるんだろうね……
「厚志は、太陽みたいだな」
「どうして?」
「きらきらしていて、真っ直ぐだ…そして…」
「そして?」
「…眩しい……」
俯き僕の胸に君が顔を埋める。そんな君の髪を撫でながら、ふわりと漂う香りを感じる。独特の清涼感のある君の匂い。こんなにも傍に近寄らなければ分からない君の匂い。でも。でもそれを知っているのは僕だけだ。僕だけが、知っている匂い。
香水の匂いじゃない。石鹸の匂いとも違う、君の独特の匂い。君だけが持っていて、そして僕だけが知っているその匂い。
「舞のが僕には眩しいよ」
「…そんな事ないぞ……」
「ううん、舞は何時も」
「何時も太陽よりも眩しい瞳をしている…好きだよ…」
―――大好き、だよ。って何時も言っているのに。
足りないのはどうしてだろう?
飽きもせずに君の告げているのに、どうして。
どうして足りないなんて思うんだろう?
毎日君に告げても気持ちが追い付かないのはどうして?
こんなに君に告げても、全然足りないんだ。
…好きと言う言葉のシャワーで君を埋めても…全然足りない……
「好きだよ、舞」
「…うん……」
「大好きだよ」
「…ん……」
「…私も…好きだぞ……」
それでもやっぱり僕は君に好きだと告げる。
言葉の雨を降らせ続ける。
人が想いを伝える手段が言葉しかないのならば、僕はいくらでも。
いくらでも君に好きだと告げる。
――――君が誰よりも、大好きだから。
言葉で埋められないほどの想いが君の中に侵入して。
そして君がそこから零れてきたならば。
僕の中に零れてきたならば。
それを全て僕の手のひらに掬い取って。そして。
そして僕の中全てを君で埋めよう。
…僕の記憶と、僕の全てで……
END