月の光

――――空から降り注ぐ優しい月の光。

腕の中のあどけなさの残る寝顔に、蘭丸は無意識に優しい笑みを浮かべた。こうして目を閉じて眠っていると年相応の子供のように見える。
―――さっきまでは腕の中で妖しく蠢いていたのに……
「…豪鬼……」
見掛けよりも細く柔らかいその長い髪を蘭丸は撫でた。指を擦り抜けてゆく、その紅い髪を。血のように紅い、その髪を。
そっと指で撫でながらひとつ口付けて、そして蘭丸はもう一度豪鬼の身体を抱き寄せた。素肌が触れ合うぬくもりはひどく暖かくて。
……暖かい、から…全てを忘れ去れてくれた……


このような幼い子供をこうして抱くことになるとは、自分でも思わなかった。
まして彼は自分の仕える月抄様の息子。それでも。
それでもこうして腕の中にある暖かさを…自分はもう手放す事が出来なかった。
例えどんなお咎めを受けようとも、どんな事になろうとも。
―――この腕の中の彼を誰にも渡す事は出来なかった。


ものを云えない子供。
自分の感情を伝えられない子供。
それでも俺には伝わった。
俺には伝わったから。
その瞳が告げる真実に、俺は。
俺は気が付いたから。

『…淋しい……』

全ての感情を封印され、人形のように育てられた子供。
ただ与えられた事をこなすだけの子供。そこには何もない。
嬉しいという気持ちも、悲しいと言う気持ちも。
辛いと言う気持ちも、しあわせだと言う気持ちも。
―――何も、何も、ない。
ただ他人から言われた事を、機械のようにこなしてゆくだけ。

『…淋しい……』

こなす事が当たり前だから、誉められる事はない。
するのが当たり前だから、何かを言われることはない。
そこにあるのはただ。ただ命令する者と従う者と言う構図だけ。
親子の情も、絆も、何もない。


ごそりと、腕の中の豪鬼の身体が動いた。無意識に蘭丸にすり寄って来る。そんな動作がまた無意識に蘭丸の口許に優しい笑みを浮かばせる。本当にこんな所は年相応の子供なのだ、彼は。
「寒いのか?」
答える事はない質問をして、蘭丸はその身体を引き寄せる。優しく髪を撫でながら、眠ったままの唇をひとつ塞いだ。
「…それとも、淋しいかい?……」
もしも淋しいと思うなら、もっと自分に触れればいい。もっと自分を頼ればいい。言葉になんかしなくても、声に出さなくてもお前の気持ちは俺には分かるから。
―――淋しいなら…淋しくなくなるまでそばにいる、から……


初めて彼を抱いたのは、やはりこんな月の光が降り注いでいた夜だった。
まるで人形のように月の下立っていたお前。空っぽの瞳で。その蒼い瞳は何も映していなくて。何も映していないからこそ、逆にその瞳の不安定さを感じた。
その瞳に映させたくて…自分の姿を映させたくて…身体を抱き寄せた。見掛けよりもずっとずっと細いその身体を。
それでもなんの反応を示さないお前の唇を強引に塞いだ。お前は…抵抗しなかった。ただ一度だけぴくりと身体を震わせて、静かに目を閉じた。
―――俺からお前は、逃げなかった……

愛しいと、思った。
腕の中に抱いて、初めて。
初めて気が付いた。
俺はお前がどうしようもない程に愛しいと。
どうしようもない程に大切な存在だと。


『…淋しい……』


声にならない声。言葉にならない言葉。
けれどもそれが、きっと。きっと全ての真実だろう。
何もないと空っぽだとそう云われ続け、そう育てられたお前。
機械のように正確に動く事だけを求められているお前。
言われた事だけをやるように云われている人形。
それが。それがお前、だから。

けれどもお前にだって『こころ』はある。
どんなに閉じ込めても、どんなに塞いでも。
こころは、存在するのだから。

だから俺が…そのこころの隙間を埋めてやりたい……


抱きしめる腕の中の暖かさが、ひどく俺の心を満たしてゆく。
お前の心の隙間を埋めたいと思いながら、実際隙間を埋められているのは俺のほうなのかもしれない。
こうやってお前の、暖かさに。

言葉にしなくても、声に出さなくても伝わるもの。
伝わってゆくあたたかさ。それが。それがこうして。
こうして俺の中に染み込んでくる…そう……


……この降り注ぐ月の光のように………




END

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