時が経っていたね。
永遠なんてないとは、知っていた。
ずっとと言う言葉は、幻だって知ってた。
それでも俺は。それでも、俺は。
―――この腕の中にいるお前が永遠であればと…願っていた……
紅いその髪をそっと撫でながら、見掛けよりずっと華奢な身体を抱きしめる。薄く浮き出た鎖骨にそっと口付け、そのまま胸の飾りに指を這わした。
「…ああっ……」
指でソコを摘んでやれば零れるのは甘い声。甘く、淫らな声。俺が、教えた。俺が、仕込んだ。
―――何も知らない無垢な身体に、快楽のシルシを植え付けて。
「…はぁんっ…あぁ……」
痛い程張り詰めた胸の果実を指の腹で嬲りながらもう一方のソレに舌を這わす。ちろちろと舌先で舐めながら、徐々に快楽を煽っていった。
「…あぁん……」
「――豪鬼」
名前を呼べば必ずお前の瞳は俺を見つめてくる。綺麗なその瞳が。でもその瞳は俺以外も、映している。そして誰も、映してはいない。
「…蘭…ま…る…あぁっ……」
この行為の意味すらも知らないお前は、自らの欲求に忠実に俺を求めてくる。淫らに腰をくねらせ、俺の手を指を舌を…ねだる。
「豪鬼…好きだ……」
そして俺はそれに全て答えながら、ただひとつの想いをお前に告げていた。届かないと、分かっていても。
『―――お前が豪鬼を大切に想えば想うほど……』
何時も俺は背中を見ていた気がする。今、想えばずっと。ずっと俺はお前の背中を見ていた。
『きっとお前が傷つく』
そんなお前が初めて俺と正面に対峙して、そして告げた言葉。何時も必要以上に言葉を語らず、けれども誰よりも人の心を分かっているお前。
『…分かっている…力丸…それでも俺は……』
俺の言葉にお前は何も言わなかった。分かっているからこそ、言わなかった。それがお前と言う男だと、俺は今初めて気がついた。馬鹿みたいだが、今この瞬間に気がついた。
『俺は、止められない』
全てを分かって、そして全ての痛みを分かりながらも、口出しも指図も忠告もしないお前。
―――それが本当の優しさだと…俺は今気が付いた……
何時かきっと、別れが来る。
何時までもこのままではいられない。
それは常に俺の中にあった。
足首を持って、そのまま肩の上に乗せた。細い腰を掴み、ゆっくりと中に挿ってゆく。快楽に慣らされた身体は貪欲に俺自身に絡み付いた。
「―――ああああっ!!」
組み敷いて、貫いて。抱いて、抱きしめて。誰よりも大切にして。誰よりも残酷にして。どっちが本当の俺の姿なのだろう?
「…あああっ…あぁぁ…蘭丸…はぁぁっ!」
喉を仰け反らせ本能のままに喘ぐお前。綺麗、だった。どうしようもない程に綺麗で、そして哀しかった。
このままずっと腕の中に閉じ込められたならと、ただそれだけを願った。
「…あぁぁ…あぁ…あ……」
「…豪鬼…豪鬼……」
汗ばむ前髪を掻き分けて、形よい額に口付けて。そして、深く貫いて。貫いて、そして。
「あああああ――――っ!!!」
最奥に熱い欲望を吐き出した。
誰よりも大切だから、護りたい。
誰よりも大切だから、欲しい。
――――どっちも真実の想いだった。
小さなお前が、月抄様の腕の中で。
ただ無邪気に笑って、泣いて。
小さな小さなお前の瞳が、俺を見つめて。
反らされる事なく、真っ直ぐに。
ただ真っ直ぐに見つめていた時から。
――――随分と時が経って、いたね……
あのまま。あの頃のままいられたならば。
この胸に宿る哀しみも切なさも、何もかも。
何もかも知らずにいられたのに。
あの頃のままで、いられたならば。
小さなお前を力丸とふたりで、あやしていたあの頃のままで。
「…蘭…丸……」
それでもお前は俺の名を呼んでくれる。言葉を封じられたお前は、それでも俺の名を。
「―――豪鬼、愛している……」
きっとお前にこの言葉の意味は理解出来ない。きっと、分からないだろう。それでも。それでも俺は告げずにはいられない。ただひとつの想いを。
随分と、時が経っていたね。
気が付けば、随分と。
そして。そしてもう戻れない場所へと。
―――もう戻れない場所に…俺達は立っていた……
それでも俺は。何処にも戻れなくても俺は。
ただひとつの想いを、ずっと。
ずっと、胸に抱き続けるのだろう。
――――お前を…愛しているのだと……
END