眠り

そっと、静かに。そっと、壊れないように。
ゆっくりと、降り注ぐ優しい時に。
壊れないようにと。壊さないようにと。

―――そっと髪に、触れた……


血のような紅い髪は、けれども指を触れれば。触れればそれはひどく暖かいものになる。髪に体温なんてないのに、ぬくもりなんてないのに。けれども。けれども指先が感じるのはとても暖かいもの。
「―――ってイイ顔して寝てやがんの…コイツ……」
膝の上に無造作に乗っかった紅い髪に、軽くため息をつきながら俺はそっと髪を撫でた。でも自分でも自覚している。その指の動きが嫌になるくらい優しいって、事も。
「…つーか襲うぞ、豪鬼」
言っても聴こえてくるのは気持ちよさそうな寝息だけだけど。完全に安心しきって眠っている事が、自分にとって一番微妙だった。

自分の存在に安心しきって眠ってくれているのは嬉しい。
自分の存在に安心しきって意識すらされていないのが切ない。


「―――っち、ずっとよ…俺は惚れていたのにな…お前に……」


ずっと、惚れていた。ずっと、本気だった。
五百年の時を越えてもその想いはずっと。
ずっと、変わらなかった。


捜していたのはその。その海よりも深い蒼い瞳と、紅い髪。



そっと、頬に触れる。柔らかい頬。
手のひらに馴染むその感触が、ひどく。
ひどく不破のこころを満たす。
柔らかく、そして。そして暖かいものが。
ゆっくりと、染み込んでくる。


「…豪鬼…おめー本当に……」
子供のような心。真っ白な心。全てを閉じ込められていたから。全てを、封印されていたから。だから『感情』というものが欠落していたけれども。
「…ガキ…みたいだな……」
それでも真っ直ぐに見つめる瞳が。それでも語られるたどたどしい言葉の中に。そこに、あるものは。ただひとつの綺麗な、こころ。
「真っ白でさ、なーんも知らねーガキ」
何物にも染まらない、真っ白で綺麗なこころ。俺が何処かに置き忘れてきたモノが、こうして。こうして今、目の前にあって。
「…って口説くのに何年掛かるんだろーな……」
それはひどく俺を懐かしく、暖かく、そして少しだけ。少しだけ切なくさせた。


堅物のアイツを、無表情で頭の硬いアイツを。
口説くのにどれだけ時間を費やしたか。どれだけ時間を掛けたか。
普段だったらそこで諦めるのに。落ちないと思った瞬間諦めるのに。

―――お前だけは諦めきれなかった。

何度拒絶されても、何度拒まれても。それでも俺は。俺はずっと。
ずっとずっと、お前だけを。お前だけを思い続けていた。
馬鹿みたいに、お前に惚れていた。そして今も。今も馬鹿みたいに。



「―――これくらい、いいよな……」



意識のない唇にそっと。そっと口付けた。
そこから広がる甘さが。ゆっくりと広がる甘さが。
ひどく自分を満たして。そして。
そしてひどく自分を切なくさせる。


子供のような綺麗なお前が大好きだ。
真っ白で、無垢でそして。そして真っ直ぐな。

けれどもそれは本来のお前を、閉じ込めたものだから。

本当の、お前。本当のお前を俺は。
俺はちゃんと見て、ちゃんと向き合って。
そして。そして、俺は。


「こんなん惚れてんだぜ…少しは気付けよな……」


髪を、撫でる。紅い、髪。ずっと撫でていた。
ずっと俺はこの髪だけを、ただ。ただ撫でていた。

―――遠い記憶の中で。消えない記憶の中で。


「…まあいいさ…お前になら……」
本当の自分と向き合った時、間違えなくお前は。
「…幾らでも俺は…」
傷つき、そして。そして壊れるだろう。
「…時間なんて…やれるんだからよ……」
その時、お前を支えてやれる存在でありたいから。



「……わ………」



ごろんと、膝の上の身体が寝返りを打つ。
相変わらず表情は気持ちよさそうに眠っていて。
聴こえてくるのは寝息ばかりだったけれども。
けれども、その中で小さな。小さな寝言が。


「…ふ…わ………」


不破だけが聴いたその寝言が。そして。
そして無意識に伸ばされて、ぎゅっと握った手のひらが。
不破の服を握った手のひらが……。


無意識だとしても。それが今彼の本音、だったならば。



「―――俺はずっと…お前のそばにいるからな……」



髪を、撫でる。そっと、撫でる。
せめて今だけは。せめてこの瞬間だけでも。



――――しあわせな夢を、見られるように、と………




END

 HOME  BACK 

  プロフィール  PR:無料HP  合宿免許  請求書買取 口コミ 埼玉  製菓 専門学校  夏タイヤを格安ゲット  タイヤ 価格  タイヤ 小型セダン  建築監督 専門学校  テールレンズ  水晶アクセの専門ショップ  保育士 短期大学  トリプルエー投資顧問   中古タイヤ 札幌  バイアグラ 評判