熱帯夜

身体の奥から忍び込む、じりじりとした熱さに。
その熱さに、身体が溶けてゆきそうになる。
溶けてそして液体になってしまったならば。

―――何もかも、溶けてしまえたならば………


何故こうなったのか、今でも思い出せないでいる。きっかけが何だったのかなんて何処かへと行ってしまい、ただ今は。今はこうして肌を重ねている事実だけが残っていた。
「…あっ……」
鎖骨に口付けられ、胸の果実を指で摘まれる。そのままぎゅっと指で抓られば、耐えきれずに口から甘い息を零した。何時から痛みが快楽に摩り替わったのか。刺激が甘さに摩り替わったのか、自分でも分からなかった。
「…あぁっ…はぁっ……」
「ホントお前イイ声で鳴くようになったな…嬉しいぜ」
身体を組み敷き自由にしている男は屈託のない笑顔でそう言った。男に抱かれるなど自分にとって嫌悪でしかなかったのに。屈辱でしかない筈なのに、何時しかこうしてソレを受け入れている。
「…羅…偉……」
見上げれば真っ直ぐな瞳が見つめている。何時も反らされる事のないその瞳は、痛い程に胸に突き刺さる。
「その目、好きだぜ。熾烈」
開いている方の指先がそっと髪を撫でた。柔らかく撫でる指先。何時も、何時もその指先は優しい。こんな行為をしていながらも、何時も。
「…目…だけか?……」
自分で言った言葉に苦笑しそうになった。俺は何を言っているのか?これではまるでそれ以外のものを好きだと言って欲しいみたいじゃないか。目以外の、ものを。
「バーカ、そんな事ねーよ。ちゃーんと他の所も好きだぜ」
笑う。屈託なく、笑う。それは俺にはどうしても出来ないものだった。どうやっても出来ないものだった。自然に微笑うと、言う事。ごく当たり前に笑うと言う行為が。何時も、何時もそうしようとすると構えてしまい、出てくるのはぎこちないものでしかなかった。意識せずに笑うと言う行為が、どうしても俺には出来なかった。
「…全部、好きだぜ」
笑ってそうして口付けられて。腕の中に抱きしめられて、全てを溶かされたならば。全て溶けてしまえたならば…わだかまりも消えるのかなと、ふと思った。


好きだと言われて、嫌でなくなったのは何時からだっただろう?
好きだと告げられて、もっとと思ったのは何時からだっただろう?

―――何時からこんなにも俺は……


「…あぁっ……」
胸を口で吸われながら、手のひらが俺自身に絡み付く。どくんどくんと脈打つソレに、無骨な手が絡まった。包み込み、形を辿り、そして先端を爪で抉られる。その刺激に耐えきれずに、びくんっと身体を揺らした。
「…あぁっ…ん…はぁぁっ……」
手の中で大きく硬くなってゆくソレを感じながら、胸を弄る舌の動きに翻弄される。痛い程に吸われ、舌で転がされ、そして。そして逃れられない快楽へと堕ちてゆく。
「…ぁぁっ…ああ…ん……」
「―――熾烈……」
名前を呼ばれる声に瞼を開けば、そこには太陽よりも眩しい笑顔があった。強い光を持つ、その笑顔が。綺麗だと、思った。怖いほどに綺麗だと。
「…羅…偉…はぁ……」
その背中に腕を廻した。こうしているとひどく安心出来るから。ひどく安心出来て、そして。そしてひどく淋しくなるから。
―――どうしてだろうか?そんな事を思うのは……
「…あぁっ…あん…はぁ……」
再び自身に愛撫が与えられる。先端からは先走りの雫が零れ、ソレは一刻も早い解放を望んでいた。それに答えるように、強く擦られて。そして。
「――――ああああんっ!!」
そして俺はお前の手のひらに、白い欲望を吐き出した。


身体の芯から湧き上がってくる熱は。
気温だけのせいじゃない。暑さだけのせいじゃない。
それは心の奥底から湧き上がってくる、熱だから。


指先が最奥へと忍び込む。拒み閉じられた肉をほぐし、そっと中へと入ってくる。
「…くぅっ…ん…はぁ……」
くちゅくちゅと音を立てながら、指で掻き乱される。その動きに合わせるように俺は無意識に腰を振っていた。
「…はぁっ…あぁ……」
蕾を蹂躙され、そして媚肉をほぐされる。濡れぼそったそこは、ひくひくと震えより深い刺激を求めていた。
「…あっ……」
ずぷりと音がして指が引き抜かれる。その刺激にすら浅ましいソコは反応を寄越した。喪失感に身体が小刻みに震える。けれどもそれは少しの間だけだった。次の瞬間には予備とは比べ物にならない硬くて巨きなモノが、入り口に当てられたから。
「―――いいか?」
耳元でそっと囁かれる言葉に、俺は小さく頷いた。それを合図に腰を掴まれると、俺の中に熱い塊が侵入する。
「あああ―――っ!!!」
ズズズと音を立てながら、ソレは肉を掻き分け挿ってきた。熱くて太いソレは、遠慮なしに俺の内壁を引き裂いてゆく。引き裂かれるような痛みと、言葉にならない快楽が同時に襲ってくるのを堪える術を知らない。
「…あああっ…あぁぁぁっ……」
一端全てを収めて、動きが止まった。けれどもどくんどくんとした音とともに、内部に埋められている存在感がイヤと言う程に感じられる。まるでソレが全てとでも言うように。
「動くぜ、熾烈」
「ああああっんっ!!」
腰を掴まれ、激しく揺さぶられる。がくがくと揺れる身体と、抜き差しされる熱い楔。擦れる肉の感触と、ぶちゅぶちゅと濡れた音。それが。それが全てになって。
「…あぁぁっ…あぁ…あ……」
「相変わらずキツイな」
「…あぁぁぁっ…もう…もう…はぁぁ……」
「もうイキそうか?」
「…ダメ…あぁぁ…あ……」
「クス、俺もだぜ。いいか、出すぜ」
「―――ああああっ!!!!」
―――どくんっ!と何かが弾ける音がして、熱い液体が注がれた……


溶かされる、全てが。
身体が、心が、全てが。
お前の熱さに、溶かされて。
そしてぐちゃぐちゃになって。
何もかも分からなくなって。

――――俺は熱に、溶かされてゆく……


「…まだ、足りねーよ……」
「…羅偉……」
「まだ全然足りねーよ。まだお前の本当の顔見てない」

「…もっと、見せてくれよ……」



こうして腕の中に抱いても。
こうして何度貫いても。
何処か遠くに感じるのは。お前が。
お前が本当の顔を俺に見せてくれないから。

―――お前の本当の笑顔を……




「―――お前の、笑顔………」


END

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