飼育
目覚めた瞬間、足に引きつったような痛みが走る。そのせいでぼんやりとしていた意識が一気に覚醒した。
「…なっ……」
細いひも状の布が自らの皮膚に食い込んでいる。まるで鎖のように無数に縛られたそれは、明らかに自分を拘束するためのものだった。必死でそれを解こうとするが、きつく縛られたそれは解く事は出来なかった。
「…な、何だよこれ……」
苛立ちと焦りが一馬を襲う…その時、だった。
「おはよう、一馬」
ひどく優しい声が頭上から降ってくる。そこには、綺麗な顔で微笑う水貴の顔があった。
―――綺麗な、獣。
しなやかで強い、獣。
誰にも、誰にも、渡したくはない。
……僕だけの…ものに………
「似合っているよ、一馬」
くすりと微笑うと、水貴は一馬の前に立った。そして身動きのと取れない一馬の顎を掴むと強引に自分へと向かせた。
「これは一体どういう事だよっ?!」
「どういう事って…君はすぐ手を出すからね」
「だからどうして、こんな事するんだよっ!」
「…それは……」
くすりと水貴は微笑うと、顎を掴んでいた手をそのまま頬へと滑らせた。その途端ビクリと一馬の身体が震える。一馬は他人に触れられる事に、男に触れられる事にあからさまに拒否反応を示す。それを分かっているからこそ…こうして拘束した訳なのだが……。
「―――こうする為だよ、一馬」
頬に手を重ねたまま、強引に口付ける。一瞬一馬の身体がびくりと震えて、そのまま水貴の唇を噛み切った。そこから一筋血が伝う。
「なっ、何すんだよっ!!」
鋭い視線が水貴を貫く。獣のような視線。決して他人に屈服する事のない強い意思を持った瞳。けれどもそこから微かに壊れた脆さが。
「君みたいな元気な子は…飼育しがいがあってイイね」
そこから零れた脆さを…捕らえてみたくなったから……。
牙を向いた獣を、この腕に捕らえたい。
どんなに無数の傷を作ろうとも。どんなに血を流そうとも。
どうしても手に入れたいモノだから。
「―――どこまで君が強がれるか…見物だよね……」
「…なっ…」
水貴はそっと一馬の頬へと指を滑らせる。そのまま唇のラインを辿った。先ほど噛み切った血がまだ濡れたままこびり付いている。その紅がひどく扇情的に一馬を見せた。
「離せっ!」
これだけ触れただけで拒絶反応を示す一馬に水貴は微かに微笑った。その強がりが何処まで続くか見物であったし、更にそれが崩れる瞬間を思うと暗い欲望に火を付けずに入られなかった。
「君のその目ぞくぞくするよ…イイね」
唇の血を拭った指先が首筋へと、滑ってゆく。そして偶然に辿り着いたとでも言うように、胸を指先で摘む。服の上からぎゅっと摘んでやると、布越しからでもソレがぷくりと膨れあがっているのが分かった。
「…あっ!……」
指の腹で転がしながら、胸の突起のラインを辿る。軽く爪を立ててやれば、耐えきれずに甘い声を零してしまいそうになる。一馬は必死でその声を押さえようと唇を噛み締めた。
「…やっ…くぅ……」
「唇を噛み締めないでよ、君の声が聴きたいのに」
くすくすと微笑いながら、更に水貴は胸の果実を攻め立てる。胸元を広げて外にソレを曝け出させれば、一馬の果実は紅く色付いていた。
「聴かせてよ、君の声」
耳元に息を吹きかけるように囁きながらも、その手は止まる事はなかった。人差し指と中指で摘みあげる。布越しに触れていた時よりもこうしてじかに触れられる方が、当然より一層感じてしまう。
「…うっうるせー……」
一馬は虚勢を張るが、暴走し始めた身体を抑え込むのは困難であった。思考を別の所へと巡らそうとするが、何時しかそれは熱に奪われてゆく。じわりと背中から這い上がってくる、感覚。
「…ふぅっ……」
大きく息を吐き出し、熱を抑えようとするが、零した息の思いがけない甘さに狼狽せずにはいられなかった。そして水貴は決してそんな一馬を、見逃さない。
「苦しいんでしょう?だったら声を上げればいい」
柔らかく微笑うと、ぎゅっと胸の果実を摘み上げた。その途端ピクンっと一馬の身体が跳ねる。その反応に満足し、水貴はもっと一馬を追いつめるために胸への愛撫を止めなかった。
「…やっ…やめろっ…」
抵抗の声も喘ぎ混じりで迫力に欠けている。そんな反応に満足した水貴は一馬を見下すしてから、爪でかりりと突起を引っ掻いた。
「…やめっ…あぁ…」
その痛い程の愛撫に、一馬の身体は感じてしまう。心が否定しても身体がその刺激を求めている。いくら首を振って、それから逃れようとしても。
「やっと声を聴かせてくれたね…やっぱりイイ声だ」
「…やぁっ…はぁ……」
男に触れられることに嫌悪感を抱いているはずなのに、それなのにどうして?そう思おうとしても一馬の意識は快楽に拡散してまともな答えを出してはくれない。
「…あ…ぁ……」
何時しかその刺激を求めて、無意識に一馬は胸を突き出していた。自分でも気付かないうちに。
「そう、そうやって素直になればいいんだよ」
「…やぁっ…あ…」
人指し指と中指で摘み上げ、舌先でつついてやる。ぴちゃぴちゃとわざと音を立てながらその突起を嬲ってやれば、何時しか一馬の身体が朱に染まってきた。
「…あっ…ぁぁ…」
小刻みに身体を震わせながら必死に耐えようとするが、意識とは裏腹に身体は正直に答えてしまう。びくんびくんと波立つ身体が、確かに愛撫で感じているんだと伝えていた。
「気持ちイイんでしょう?一馬」
囁くように言われても、一馬は首を左右に振って拒否の姿勢を示す。残された理性が流石にその台詞を拒ませた。
「まったく君は強情だね…そこがイイんだけど」
けれども水貴は気にしたようでも無く、一旦胸からの愛撫を開放する。けれども次の瞬間には一馬は下着ごとズボンを剥ぎ取られた。
「…あっ……」
冷たい空気に自身を触れられて、一馬は一瞬竦み上がる。けれども次の瞬間には、それさえも刺激に感じてしまい、前よりももっと熱く身体が疼いてしまった。
「でも君のココはこんなにも正直だ」
一馬の足首を掴むと、そのまま限界まで広げさせる。そして微かに立ち上がり掛けた一馬自身を舐めるように見つめた。
「…やっ…やめろっ…水貴……」
その恥ずかしさに、一馬は閉じようと脚をばたつかせる。けれども水貴はしっかりと脚を押さえ込み、それは無駄な行為でしかなかった。
「どうして?凄くイイ眺めだよ」
水貴の言葉に一馬の頬が、ぱあっと朱に染まる。耐えきれずに水貴から視線を外すと、ぎゅっと目を閉じ横を向いた。けれどもそんな一馬に水貴の容赦ない攻めが続く。
「ほらこんなに、感じている」
「……ああっ!」
ぴんっと水貴の綺麗な指が一馬のソレを弾いた。それだけで、嬌声を上げてしまうのを押さえきれない。暴走し始めた身体を一馬は止めることが出来ない。
「…ふっ…くっ……」
その声が嫌で再び一馬は咄嗟に唇を噛みしめた。けれども指の動きは止まる事はなく、ただただ自分を追いつめてゆく。
「…ふぅ…つっ……」
どくどくと脈を打ち始めたそれに、水貴の舌の感触があたる。生暖かい舌に先端をしゃぶられて、何時しか一馬のソレからは先走りの雫が零れて来た。
「―――あっ!」
けれども水貴はそれ以上は何もせずに、唇を離した。そして限界まで張り詰めたそれの根元部分を、紐で止めてしまう。
「…やめっ…水貴っ!」
「駄目だよ、これは罰だよ。君が嘘つきだから。正直に言うまでは、外さないよ」
「…やっ…やだっ…あ…」
水貴は根元を止めたまま、一馬の先端を舌で舐めた。イキたくても出口を止められてしまったソレは、熱だけを増してゆき一馬を悩ませた。
「…やめ…お願い…ゆるし……」
先端の割れ目を舌で辿ってやると、目尻に涙を零して訴えた。限界を越えた快楽は何時しか苦痛となって一馬を襲ってゆく。痛みと、快楽と。もうどちらのせいで涙が零れるのか分からない。
「…もう…ゆるし……」
「だったら『欲しい』って言ってごらん。そうしたら…開放してあげる……」
ひどく優しい声で、水貴は言った。まるで赤子を宥めるような優しい声で。その声に必死で抵抗しようと一馬は首を左右に振るが、限界まで膨れ上がったソレは抵抗する力さえも奪ってゆく。
―――早くこの状態から逃れたい……
「…ほし…いっ……」
ただその一点のみが一馬から理性とプライドを奪った。この熱を開放して欲しい一心で一馬はそれを口にしていた。
「…欲しい…よぉ…」
涙混じりに訴える一馬を楽しそうに見下ろしながら、紐を外してやると水貴は開放させる為に、そこを強く扱いてやった。
「―――ああっ!」
一馬は喉をさらけ出しながらも、やっと得られた開放に満足そうに啼いた。
プライドの高い孤高な獣が今、この腕の中に堕ちてゆく。
穢れなきしなやかな野獣が、今。今この腕の中で穢れてゆく。
それはなんと甘美な悦びなのだろうか?
「くすくす、もうばてたの?これからが本番なのに」
苦しそうに身体を小刻みに震わす一馬にわざと煽るように言うと、放心状態のまま放り出されていたその脚を再びぐいっと開かせる。
「…なっ……」
そのまま舐めるような視線で一瞥すると、水貴は自らの指を舐めた。そして充分に湿らせると、一馬の入り口をつつつと、なぞった。
「今度は僕が楽しませてもらうからね」
くすくすと無邪気に微笑いながら、入り口をなぞっていた指先を一馬の最奥へと忍び込ませた。
「ひあっ――」
普段そんな目的の為に使われる事のない器官が、挿入した異物に悲鳴を上げた。けれども水貴は気にする事無く強引に侵入を果たす。そうして一端根元まで指を入れると、内壁に馴染むまでしばらくそのままにした。
「…くぅっ…あ……」
その間も萎えた一馬自身に指を添えて、再び身体を煽ってゆく。一度快楽の火種のついた身体は、すぐに水貴の愛撫に答えて勃ち上がり始めた。
「…ふっ…ん……」
声に甘さが混じるのを確認して、中に入っている指をくいっと曲げた。そうして内壁を掻き分け、ほぐしてゆく。
「…くぅ…んっ…はぁ…」
「…一馬…君の中は、凄く熱いね……」
耳元で囁かれる言葉の余りの恥ずかしさに、一馬の身体がかああっと朱に染まる。けれどもそんな羞恥心とは裏腹に何時しか肉壁は、刺激を求めてひくひくと切なげに震えて始めていた。
「…やぁ…ぁ…」
指の本数を増やされ、それぞれが勝手に動き始める。その巧みな指の動きに、一馬の身体は悩まされる。刺激から逃れようとする心と、刺激を求めてしまう身体で。
「…あぁ…あ……」
「そんなに締めつけないでよ、一馬。僕の指が千切れてしまう」
水貴の言葉が届いているのか、一馬はイヤイヤと首を振った。そんな様子を見下ろしながら、水貴は体内の指の本数を三本へと増やした。その瞬間一馬の身体が強張るが、溶かされた蕾はそれさえも次第に受け入れていった。
「…あぁ…もう…いや…だ……」
四本目の指が入れられた時に、ついに耐えきれずに一馬は訴えた。何時しか先程果てた筈の自分自身も、限界まで膨れ上がっている。
「いやなのかい?もう君のココはこんなんなのに」
軽く指先で先端を弾かれ、一馬は身を捩って悶えた。けれどもその刺激から逃れることは出来ない。身体が火照って、どうにもならない。
「…いやぁ…みず…きっ……」
いやいやとかぶりを振って訴える一馬に、水貴はただ微笑うだけだった。嬲るように全身を見下ろしながら。
「本当に強情だね、君は」
くすりと一つ微笑うと、体内の指を一気に引き抜いた。その刺激にすら一馬は、声を上げる事を止められなかった。
「まあいい…そんならじっくりとおしおきをしてあげるよ」
限界まで広げられた脚の間に、水貴の身体が忍び込む。そして、双丘に手を掛けると指で秘所をぐいっと開かせた。
「…やっ…やだっ…水貴っ!」
決して人前に見られるはずのない場所が、水貴の眼下に曝け出される。更にその蕾は刺激を求めてひくひくと、切なげに震えている。それを満足そうに見下ろしながら、滑らかな双丘をするりと撫でた。
「…あっ……」
一通り双丘を撫でた後、その狭間に舌を滑らせた。わざとぴちゃぴちゃと音を発てながら。一馬の羞恥心を煽る為に。一馬の快楽を煽る為に。
「…あっ…つ…」
柔らかい肉の部分に舌を入れられ、充分に湿らされる。侵入する舌の刺激ですら、身体が波打つのを止められないでいる。そんな身体がどうしようもない程に恨めしい。
「…はぁ…ぁぁ…」
そうしてしばらくそこを潤して、やっと舌が離れた。その頃には一馬の全身はうっすらと汗ばみ、蕾は淫らに蠢くのみだった。 けれどもそれ以上、水貴何もしてこない。ただ、舐めるような視線で見下ろすだけだった。全身を嬲るような視線で。
「…ふぅっ……」
限界まで昇らされた肢体が開放を求めて暴れ出したが、一馬はそれを開放する術を持たなかった。―――それが水貴の…狙い…だった…。 一馬の両手は縛られて、自分ではどうする事も出来ない。水貴は決してこれ以上一馬には触れようとはしない。ただ、舐めるような視線を送るだけで。
「…くぅっ…」
唇を噛み締めて必死にその熱を耐えようとすが、心よりも身体が、限界を訴えていた。 ―――早くこの状態を何とかして欲しい…早く…開放されたい……
何時しか一馬の思考はそれだけに、支配されてゆく。それだけに、侵されてゆく。
「…みず…きっ……」
最期のプライドと言う名の、理性の枷が外される。ついに、この手に気高い野獣が堕落する。
「…どうしたの?一馬」
甘い囁きが、耳元へと降ってくる。ひどく優しい、甘い声。その声に従えば自分は…自分はこの状態から開放される。
「…もぉ……」
「もう?」
「…許して…くれよぉっ……」
その声は殆ど涙声になっていた。事実一馬の目からはぽたりと涙が零れている。それを満足気に水貴は見届けて。
「くすくす、よく言いました。じゃあ今度は僕を楽しませて貰おうかな?」
そう言うと水貴は一馬の腰を掴むと、一気に貫いた。
「―――ああああっ!」
突然突っ込まれた異物の大きさに、一馬は悲鳴を上げた。身体を真っ二つに引き裂かれるような痛みに耐えきれずに。ソコは皮膚が裂け、紅い血が伝っていた。けれども皮肉にもその血のおかげで、その後はスムーズに侵入を果たした。
「…あっ…ああ……」
根元まで全て埋め込むと、水貴は一端動きを止めた。ぽたほたと血が足元を伝う。それが収まるのを待ちながら、手を前に廻して尖った胸をぴんっと弾いた。
「…ああ……」
手のひらで胸の果実を転がしながら、ゆっくりと腰を使い始めた。始めの抵抗感はもう媚肉にはなかった。何時しか快楽を逃さないようにと水貴自身をぎゅっと締めつけてくる。
「…ああんっ…はぁぁっ……」
深く貫いて、一気に引き抜く。乱暴に貫きながら、無茶苦茶なリズムを刻んでやった。馴染んできた身体は、先程果てた筈の一馬自身を再び立ち上がらせていた。
「…あぁ…あああ……」
ぐちゃぐちゃと淫らな音を立ち、接続部分が擦れた。その音にすら、一馬の身体は感じてしまう。
―――もう、何も考えられなくて…もう何も…見えなくて……
「…ああ…あ……」
ただもう後は、水貴の作り出す快楽を追うのみで。そのリズムを追うのみで。もう、何一つ、見えなくて……。
「――――あああっ!」
最期の時を迎える一馬の瞳には、もう何も映ってはいなかった。
それから先のことはもう何も覚えてはいない。
何度も貫かれ、何度も腰を振って。
そして何度も果てた。何度も欲望を注がれた。
まるでソレしか知らない獣のように。
その熱い塊と、擦れる肉の感触を求めていた。
「…僕を、許さないかい?一馬………」
けれども一馬は答える事は決してない。彼の意識は既に失われていた。身体は繋がれたままで。その肢体には無数の精液がこびり付いていた。
「でもね、一馬…こうでもしないと君は、僕の手に入ってくれなかったからね」
ずっと、知っていた。一馬が誰を見つめていたかなんて。だって、他の誰よりも自分が彼を見つめていたのだから。そして。そして、彼が決して自分の手に落ちない事もまた、知っていたから。
「僕はね、ずっと君を見ていたんだよ」
初めて出逢った日から。ずっと、ずっと、見つめていた。だから。
「だから少しぐらい僕の想いが報われてもいいだろう?」
だから、ほんの一時の幻でもいいから。
―――その肢体をこの腕に、抱いてみたくて。
―――それはひとときの、甘い夢。
決して手に入れる事の出来ない、ひとときの幻。
END