月に背いて

小指が触れ合った。この指が特別な指なのは、きっと。
きっと、ただひとつの約束が結ばれているから。

指を、絡めて。そしてただひとつ。ただひとつ、約束した事。


月の光に背くように、背中を向けた。そのまま見掛けよりもずっと華奢な貴方の身体を抱きしめる。
「…不知火……」
見上げてくる大きな瞳。漆黒の瞳に映るのは、淡い月。ぼんやりと浮かぶ黄色い月。そんな月に嫉妬して、私は貴方の唇を塞いだ。貴方の瞳に映るのは、私だけでいて欲しいと願うのは…我が侭なのだろうか?
「…んっ…ふぅ…ん……」
唇を舌でなぞり、薄く開かせた。そのまま口中へと忍ばせ、少しだけ怯えるように引いた舌を強引に絡め取る。
「…はぁっ…ん……」
そのまま裏をなぞり、先端を突ついて、根元をきつく絡めた。その瞬間貴方の身体がピクンっと震える。
「―― 一馬……」
「…しら…ぬい……」
少しだけ潤み始めた瞳が私を見上げる。綺麗な漆黒の瞳に今映っているのは私だけで。私だけだった事に、ただひとつ喜びを感じる。
―――その大きな瞳に映るのは私だけでいて欲しいから。
「…愛しています…一馬……」
そのままきつく抱きしめて、髪の匂いを嗅いだ。ひだまりの匂いのする、優しい髪の香りを。



不安と、怯えと。恐怖と、トラウマ。
たくさんのモノが俺を埋めて。たくさんのモノが俺を壊して。
けれども。けれども、お前の手が。お前の指が。
その全てを浄化してくれたから。

―――護りたい、お前を。お前を護りたい…ただ独りの大切な俺の……


「…なあ…不知火……」
「はい?」
「…俺…お前を護ってやるって言いながら…」

「…こうやってお前の腕に護られているんだな……」



きつく、抱きしめた。
骨が砕けるほどに。
貴方をきつく。きつく、抱きしめる。
愛しているから。誰よりも。
誰よりも貴方を愛しているからと。
それだけを強く想い、それだけを願い。
全てを込めて、抱きしめた。

―――私達は互いを護って、そして護られている。


「…あぁっ…ん……」
胸元をはだけさせ、尖った果実を口に含む。胸の飾りは紅く色付き、痛い程に張り詰めていた。
「…やぁっ…ぁぁ……」
集中的にソコを嬲れば、貴方はイヤイヤと首を左右に振った。その何処か子供のような仕草にひとつ微笑みながら、もう一度胸を強く吸った。軽く歯を立ててから。
「…やめっ…そこは…あぁ……」
身体が少し浮いて私から逃れようとする身体を、強引に引き寄せた。そして再び両の胸の突起を攻め立てる。少しきつめに愛撫を重ねれば、貴方の身体はぴくんぴくんと鮮魚のように跳ねた。
「…ああんっ…やぁん……」
甘やかに乱れる声。零れる吐息。堪えきれない息。その全てが私にとって愛しくそして、かけがえのないものだった。
「…一馬…こっちを見てください……」
「…しら…ぬい……」
私の言葉に夜に濡れた瞳が私を見上げる。瞬きをすれぼぽたりと雫が零れ落ちた。それをそっと指で拭いながら、貴方の唇にキスをする。何よりもの優しさを込めて。
「…ん…んんん……」
唇を塞ぎながら、貴方の肢体を余す事無く指で弄った。


貴方は私を護ると言った。
私は無言で貴方の傷を抉り。
そして癒そうとした。
その癒しが貴方を傷つけ、そして。
そして貴方を護ることが出来たならば。

―――貴方の想いを返す事が、出来るのだろうか?……


脚を開かせその中心部に私は舌を這わした。ひくひくと震えながら立ち上がるソレに、舌で形を辿る。側面を舐めて、先端を舌先で突ついた。
「…あああんっ…はぁぁっ……」
貴方の手が私の髪に絡まり、くしゃりと乱した。けれども指に力がこもっていないのが分かる。貴方の指から私の髪が擦り抜けて行ったから。
「…不知火…不知火…あぁ……」
先端から蜜が零れ初めて、私の口の中に伝う。それを感じて、私はソコから唇を離した。分身は限界まで膨れ上がり開放を望んでいた。
「…しら…ぬい……もぉ……」
限界を感じて最期の刺激を貴方は求めてくる。腰を揺らしながら、私に自身を押し付けて。その淫らな姿に私は激しく欲情した。
「―――もう少し待ってください、一馬」
「…しら…ぬ…い…あ……」
ゆっくりと貴方に覆い被さると、そのまま細い腰を掴んだ。私は充分に滾った自身に手を添えると、そのまま貴方の入り口にあてがった。
――――ビクンっ!…と入り口に硬いものが当たった瞬間、貴方の身体が震える。それを確認して私はゆっくりと、貴方の中へと入って行った……。


護って、護られて。
でもそれは同じ事。同じ想い、だから。
だから私は貴方を護りたくて。
貴方は私を護ってくれる。

小指を絡めてした約束は、ただそれだけだった。


「―――ああああっ!!」
最奥まで貫くと、貴方は喉を仰け反らせて喘いだ。悲鳴のような声が室内に響く。その声をもっと聴きたくて、私は奥へ奥へと身体を進めていった。
「…あぁぁっ…あああんっ……」
ぐちゃぐちゃと接合部分が淫らな音を立てている。生き物のように締め付ける貴方の中は熱くて、きつくて。我慢しなければすぐにでも欲望を吐き出してしまいそうで。
「…はぁぁ…ああ…しら…ぬ…い……」
「一馬、一馬」
「…あぁぁっ…俺…へんに…へんに…なっちま…う…」
「いいです、変になってください」
「…あぁぁ…ダメだ…もぉ…俺…あぁぁぁぁっ…」
「変になってください。全部、私が受けとめるから」
私の言葉に答えるように貴方は乱れた。我を忘れるように激しく腰を振り、私を奥まで迎え入れ。そして。そして私も。
「ああああああっ!!!」
私も貴方の中に、白い欲望を吐き出した。


大切な事は。本当に大切な事は。
私達の心の中にあって。そして。
そして互いの心の中にあって。
それを分かっているから。
分かっているから、優しくなれる。
私達は互いをこんなにも想えて。
そして大切に出来る。

それが、ふたりがしたたったひとつの約束だから。


護って、護られて。
想って、想われて。


小指が絡まった約束、だから。



行為の後も、私は月に背を向ける。
貴方を月から隠したくて。
その淡い光からも隠したくて。

―――私は月に、背いた。




END

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