貴方の声に、貴方の言葉に。
注がれる命と、そして。

そしてゆっくりと、降り積もりゆく切なさと。



身体を組み敷いて、そして。そして乾ききったソコに、楔を突き入れた。抵抗する手首を縛り付け、乱暴に衣服を引き裂いて、私はこの腕の中に彼を支配した。


「…どうして…だ…不知火？……」


漆黒の大きな瞳が見開かれる。それは怒りでも、怯えでもない。ただ。ただ哀しい、瞳。壊れて傷ついた、捨て猫のような瞳。

――――綺麗、ですね…綺麗で…綺麗で…哀しい…貴方の瞳……

その瞳を瞼の裏に刻みながら強引に唇を重ねた。無理やり舌を捻じ込み、強引に吸い上げる。逃げ惑う舌を強く吸い上げ、そのまま口中を貪った。


「―――貴方が…私を…狂わせた……」


唇が離れたと同時に零れて来るのは紅い血。口許からぽたりと、零れて来る。貴方が噛み切った舌から、零れて来る。私の口許から、貴方の頬へと。


「貴方のその瞳が……」


大切な、ひと。
何よりも大切な人。
この腕に貴方を抱きしめ。
抱きしめて、ずっと。
ずっと護りたいと。
護りたいと、願っていた。

憎い、ひと。
何よりも憎い人。
この腕に貴方を閉じ込め。
犯したいと、ずっと。
ずっと貫きたいと。
欲しいと、願っていた。


――――貴方を愛していると…そう云えば…よかったのですか？


言葉に宿る、想い。
ずっと、ずっと、込めていた。
貴方の名前を呼びながら。
ずっと、ずっと。

私は貴方だけを、愛しているのだと。


零れてゆくのは想いだけ。
深く、苦しい想いだけ。
それは決して報われる事のない。
それは決して満たされる事のない。

溢れる、想い。
溢れる、言霊。


「…一馬…貴方が好きです……」
「…どうしてっ……」
「…好きです…一馬……」
「…どうして好きなら……」

「…好きならこんな事すんだよっ！！」


身体中に刻む紅い痕。貪るように口付けて。
そして何度も、何度も貫いて。
繋がった個所から、血と精液の混じった液体が零れて来る。
ぽたりぽたりと、零れて来る。
その奇妙に混じった液体をぼんやりと眺めて。
眺めて、そして気付く。

――――取り返しのつかない事を、しているのだと……


貴方の心は、癒す事でしか手に入れられない。
貴方の傷を優しく癒す事でしか、得られない。
けれども。けれども、それは。
それはまた、貴方の全てを永遠に手に入れられないという事だった。



「…だってこうでもしなければ…永遠に貴方は私の気持ちに気付いては…くれないでしょう？」



心に巣食らう暗い欲望を。
綺麗事では片付けられない想いを。
深く、そして。そして壊れるほどの。
全てを壊すほどの想いを。

―――貴方には…理解できないでしょう？……


愛しているから、抱きたい。
愛しているから、大切にしたい。
愛しているから、優しくしたい。
愛しているから、壊したい。

どれも真実で、どれも嘘で。


ああ、どうすれでよかったのか？
どうすればこの迷路から抜け出せたのか？
どうすれば、どうすれば。




…どうすれば、私から貴方を護る事が…出来たのだろうか？……




「…不知火…だったら何で……」
「…一馬……」
「…何で最初に…最初に言葉に…しなかった？……」

「…どうして…言葉で告げて…くれなかった？……」


言霊は降り積もる。
想いの分だけ、降り積もる。
ふわり、ふわりと。
指先に、足許に。睫毛に、唇に。

そっと、そっと、降り積もってゆく。



「―――好きです…一馬……」



私の中に、貴方の中に。
ふたりの中に、そっと降り積もる。




…私の言葉に、そっと。そっと貴方の手が、私の背中に…廻った……。




「―――お前の口から…聴きたかった………」






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